その2〜人の話を聞きましょう〜
少しずつ少しずつ
「武藤拳。17だ」
「蹴です。つい最近15になりました」
「はぁ…やっと名前を聞けた…」
にこやかに名乗りをあげる兄妹の横で、見習い魔法使い・リッカはため息をついた。
森から街への帰り道。
あたりは赤く染まり始めている。
ものすごい勢いで走り去った兄妹をリッカがやっと見つけ出す頃には、哀れなスライム達は全滅していた。
驚くほど清々しい顔つきをした兄妹の周りを、青く半透明の塊が大量に落ちていた。
体全体に打撃を与えられたスライム達は皆気絶しているようで、時々悪夢を見ているようにぶるんっぶるんっと痙攣を起こす様は痛々しかった。
スライムは食用にもなると聞いた兄妹は、いそいそと気絶した彼らをかき集め、山盛りに抱え込んだ。
自分達の利益になる話は何故か聞くのである。
「ところで、君は誰だい?」
「嘘でしょ⁈今更⁈一番最初に同じ質問したよね君」
「道案内をしてくれるのかい?」
「今してんだろうが!もうそれ物覚えとかの問題じゃないの⁈」
肩で息をするリッカに比較的常識人の妹が微笑む。
「ごめんなさい。兄上は戦うことにしか興味が無いのです、…リカさん」
「リッカだよー。無理やり思い出して間違えるくらいならもう無理やり思い出さなくていいからねー」
森を抜けると地面は石畳の歩道になり、周りにレンガ積みの建物が増え始めた。
行き交う人々が、兄妹の姿を盗み見る。
スライムを大量に抱えていることもあるが、二人の髪色はこの世界では珍しい。美しい顔立ちと相まって、何者なのかを勘繰る話し声さえある。
しかし皆、その二人を先導するリッカの姿を見て、納得したように自分の仕事へ戻っていった。リッカの身に纏うマントと帽子は魔法使いの証。召喚された勇者を案内している最中なのだと理解したのだ。
「ほら、あれが教会だよ。裏の宿泊棟に泊まってもらうことになるからねちょっと聞いて二人ともお願いだから」
リッカの指差す先には立派な作りの西洋式教会が建っていたが、兄妹達は全く見ていない。あっちへこっちへ勝手に行動し、スライムと交換で店の果物やパンを貰っている。
「ケンもシュウもちゃんと着いてきてよ。迷子になっても知らないよ」
「誰だ君は」
「もういいわ疲れた」
リッカは肩を落とし一人で教会へ向かう。
兄妹も何だかんだしっかりとついてくる分、たちが悪かった。
少しずつ少しずつ