その18〜人の話を聞けや〜
前回の投稿からものすごく時間が経ってしまいました…
「燃え盛る炎の街で激辛熱々料理を!」
「激辛熱々料理!」
「潮風香る港町で絶品魚料理を!」
「絶品魚料理!」
「煌びやかな光の都で輝くスイーツを!」
「輝くスイーツ!」
叫ぶ暗殺者。復唱する少女武闘家。
「夢の旅はすぐ目の前ですよ!さぁ行きましょう!」
「はい!」
「はいじゃない!」
リッカが咄嗟に突っ込むと、尋常じゃない程の憎しみが籠もった目で睨み付けられた。
結構本気で怖い。凄腕の暗殺者らしいし、下手したら今夜中にでも殺されるのかもしれない、と魔法使い見習いは戦慄する。
「…シュウとケンは世界を救う勇者となる資格を持ってるんだよ。寄り道してる暇はないんだよ?」
白髪の少年の眼光から必死に目を逸らしながらも主張すると、シュウはハッと考えるそぶりを見せた。
「そういえばそうでした…。那覇…さん、私達は王都に向かわなければいけないのです」
「ナハトです。それだったら、僕が案内しますよ」
リッカの存在理由が奪われようとしている!
「一度拳を交えれば、それは何年分もの親交すら超えうる繋がりになります。ここで出会ったのも何かの縁ですよ」
何だか良いこと言っている!
リッカは村に戻らなければならないのか⁈
念願叶って冒険の旅に出発した直後に出戻りか⁈
全てを諦めかけていた時、リッカに救いの手が差し伸べられる。
シュウが何かを言いかけたその直前、突如室内に鈴のような音が鳴り響いた。音の源は、ナハトの腰あたりである。
「…何でこんな時に!」
少年の表情は大きく歪んだ。訝しんだシュウが尋ねる。
「どうされたんですか?」
「これは、仕事の依頼が入ったというサインなんです。どうやら、もう行かなければならないようです」
よっしゃ。子供は家に帰れ!
静かにガッツポーズをするリッカ。
すぐに喜びを悟られないようケンの治療をしているようなフリをする。(ケンはよだれを垂らしながら熟睡している。幸せそうでなにより)
「それは残念ですね。ですがごめんなさい、折角のお誘いを」
「いえいえ、仕事はすぐに片付けて、最速であなたの元に向かいますとも」
申し訳なさそうにするシュウの手を取り、無垢そのものの笑顔でナハトは囁いた。
「これから進むルートは決まっているのでしょう?僕もそれを辿って追いつきます」
一人称まで変わっている暗殺ボーイだったが、残念。ここで嘘を投入!
「実は…ルートはまだ決めていないん
「山脈を西から迂回して王都に向かう予定です」
言っちゃったよ!
何でそこに限ってちゃんと聞いてるの⁈
リッカの苦悶は彼女に伝わるはずもなく。
シュウはぽんと手を打って、部屋の端から何かを取ってきた。
「どうかお気をつけてくださいね。はい、これ、差し上げます」
そう言って差し出された薪。
感無量といった表情で受け取る暗殺者。
ていうかそれさっき下で貰ってたやつ!
「大事にします」
馬鹿だこいつ。
ナハトは赤ん坊でも扱うように薪を抱えると、部屋の窓を開ける。そして最高の笑顔を浮かべた。
「それではまた会う時までご機嫌よう、シュウさん。(あとついでにゴリラとチビ)」
窓の向こうに飛び降りると、部屋からは一瞬で少年の気配が失われた。
何か含みを感じる別れの挨拶だったが、取り敢えず危機は回避した。一息ついて、リッカはシュウに声をかける。
「それにしても焦ったよ。本当にグルメを選んじゃうんじゃないかと思った」
よく諦めてくれたね、と、リッカは心からの賛辞と感謝を込めて言う。
シュウはにっこりと微笑んだ。
「私達は勇者にならなければなりませんもの」
睫毛に乗った光がきらりと輝く。
なるほどこれはナハトも恋をしてしまうわけだ、とリッカは勝手に納得した。
「さぁ!兄上が復活すればまた出発ですよ!いざ!炎の街で激辛熱々料理!」
いや全然諦めてなかった!
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