その18〜人の話を聞きやがれ〜
時間が空いてしまいましたが…
また少しずつ書いていきます
「…だからさ、ケンは最初に頭狙うのは無しって言ったでしょ?そしたらさ、実際ケンの反則負けなんだって」
「うむ!俺の技がこちらの戦士にも通用することが分かった!」
「うむじゃないよ全然聞こうとしないなお前」
こんな調子で1時間。
完全な解毒が出来なかったケンを何とか部屋まで運び込み、リッカの水魔法で治療を施した。
治療といっても怪我人の体力そのものを治癒能力に変える類の魔法を使ったので、闘いでの疲労もありケンはしばらくすると眠りについてしまった。
勝利の喜びに浸っていたケンには申し訳ないが、彼はバリバリ反則負けであった。
しかもルールを指定したのはケン本人である。ここまで悪質なルール違反はそうそうない。
一方被害者である凄腕暗殺者、もとい黒マント、改めナハトは、よそ見をしていたことで鼻柱直撃を辛うじて避け、左顔面を殴打されるに済んだ。
といっても、ケンのパンチである。彼の顔は痛々しいほどに腫れていた。
「それでもいい勝負でした!」
嬉しそうに言うのはシュウ。リッカの隣に陣取って、治療の様子を興味深そうに見ていた。
「まぁ確かにそうだったけどさ…。ナハトも僕たちより年下っぽかったのに、よくこの筋肉バカと渡り合ったよね」
「はい…。でも、彼のダメージも相当でした。1人にしてしまって、大丈夫ですかね?」
ケンの一撃によって気絶してしまったナハトは、宿の人に頼んで彼の泊まっていた部屋に写してもらった。リッカが診察した分には、顔の腫れ以外に目立った怪我は見られなかったので、おそらく傷を冷やしておけば問題ないだろう。
「逆にケンもよくあそこで思いっきり殴れたよね…。しかも顔面を」
「別に大したこと無ぇよ」
「「!」」
リッカとシュウは同時に振り返る。
背にしていた部屋の入り口には、扉にもたれかかる1人の少年。ナハトだった。
「すごい!気配が全くありませんでした…!」
何故か感動したようにいうシュウ。確かに彼の、いわば暗殺術というべき技は大したものだったが、腫れ上がった頬が威厳を損なわせている。
「裏社会に年齢なんて関係ない」
「…。」
「ちなみに恋心にも年齢なんて関係ない」
「…?」
訝しむリッカを尻目に、ナハトはツカツカとベッドに近づいてくる。寝ているケンを襲いにきたのかもしれないという考えが脳を駆け巡り、リッカは慌てて立ち上がる。
「そいつに用はねぇよ」
しかし白髪の暗殺者は2人の男子には目もくれず、黒髪の少女に跪く。
シュウは驚いたような顔をするが、臨戦態勢に入りはしなかった。
「シュウさん、とおっしゃるのですね。素敵な名前だ」
シュウの手を取り、ナハトはそういった。
まるで王子のような風情だ。リッカは物凄い蚊帳の外感に必死であらがう。
「めちゃくちゃキャラ変わってる」
「黙れよクソザコハピネス」
「ひでぇ」
やたらと当たりが強かった。
「さっきはすみませんでした。兄上はルールを覚えるのが苦手でして」
「構いませんよ。彼との勝負は実に楽しかった」
2人は和やかに会話を続ける。
美男美女だけに、大変絵になった。リッカは大変寂しい気持ちになった。
「あいにく時間があまり無いので、早速本題に入ってしまうのですが、シュウさん」
「何でしょう?」
「僕と一緒に、旅をしませんか?」
「ごめんなさい」
即振られた。ざまぁみやがれ!
「そして美味しい食べ物をたくさん食べましょう」
「行きます」
ちょっと待って!
シロサイが白くないと聞いた時のあの虚無感