その17〜人の話を聞きませう〜
決着が着きます
黒髪に黒い瞳の好青年。いささか顔色が悪いが、服の上からでも分かるほどの鍛え上げられた肉体は、溢れんばかりの闘志でみなぎっている。
白い髪に隻眼の少年。無邪気な表情と禍々しい様相が共存している。複雑な構造の衣服には、様々な暗器が隠されている事だろう。
向かい合った2人は、動こうとしない。周りの観客も、沈黙を保っていた。
均衡状態が永遠に続くかと思われたその瞬間。
どこかで誰かが屁をこいた。
「はあっ!」「…っ!」
猛々しい気合いと静かな吐息。
正反対な2人が同時に飛び出した。
観客たちのざわめきに紛れて少女の叫びが響く。
「兄上!」
それは少女が兄に向けた声援だったのだが、約1名、気を取られた者がいた。
暗殺者、ナハトである。
少年は先程目にしたことのないシュウを話題にした。
それはケンを挑発するための文句だったが、油断していたのだろう、彼は頭の片隅で、目の前の偉丈夫の妹について、考えてしまったのだ。
それも致し方ない。彼は一度ケンに対し勝利を収めており、今度はしかも毒が回った状態での戦いなのだ。
気が抜けても仕方がない。
そもそもナハトは裏社会の住人。立派な信念など持ち合わせていないのである。よってこちらに対し全身全霊で向かってくるケンへの礼儀だって、これっぽっちも無いのだ。
丸腰の相手に毒ナイフを使ったのもその一環である。卑怯上等。「卑怯だ!」と訴える敗北者に対し、「知らねぇよ、馬鹿が」と答えるのが、ナハトの楽しみの一つでもあった。
そんなこんなでつい勝負相手から目を逸らしてしまったナハトは、その視界にシュウの姿を捉えた。
結果。
「え…。めちゃくちゃ可愛いんだけど」
そう漏らした彼の腑抜けた顔面を、大きな拳が撃ち抜いた。
華奢な少年の体は吹っ飛んで、硬い石畳の路上に叩きつけられる。
全員が唖然としていた。いや、1人を除いて。
「勝ったあああああああああああああああ!!!」
勝利の雄叫びをあげるケン。
観客たちは何も言わず、ただケンだけが喜びに打ち震えていた。
我に帰ったナハトがふらふらと立ち上がり言う。
「違う!今のは違う!お前の妹…さんが声援を送ったせいで気が散ったんだよ!」
「勝ったあああうおおおおおおおおお!!!」
「うるせぇな!違う!…っ卑怯だぞ!」
「うおおおおおおおおおおおおお!!!!」
「人の話を聞けぇっ!!」
周りの人々が動揺に包まれる中、リッカだけはただ、こちら側の人間が増えそうな予感に微笑んでいた。
ここでひと段落です!
どうだったでしょうか?