その16〜人の話を聞けよ〜
ずっと名前を考えてました。
あんまりしっくりこない…
「ケン!」
リッカは場内へ駆け込もうとしたが、少年の鋭い声がそれを遮る。
「まだ勝負は終わってないぜ。邪魔すんなよ、おにいちゃん」
おにいちゃん、というほのぼのとした言葉が、空気とミスマッチしていた。
動きたくとも動けず、リッカは駆け出す直前のような体勢でただ膝立ち状態のケンを見つめる。
「ケン!早く倒れて」
リッカは声を絞り出す。
この試合はどちらかが倒れれば終わる。ケンの今の状態は、倒れているとは言えない。
毒が回るまでは1分。そのくらいあれば、リッカの水魔法によって毒を浄化させることが出来るかもしれない。
しかしケンは動かない。リッカの言葉にも一切反応を示さなかった。
「すげえな。普通ちょっとかすっただけで痛みと吐き気で悶絶しちまうような毒なのに」
面白がるように少年が言う。しかしその表情は、本心から驚いているようだった。
確かにケンは人間離れした丈夫さを持っている。しかし、今回は半端な抵抗力が仇となってしまった。
「ハートフルさん!これは一体…!」
今一番聞きたくない声をリッカの耳が捉えた。
どんな顔をすればいいかも分からず俯いたまま振り向いたリッカの前に、黒髪を一つにまとめた美少女が現れた。
大きな瞳は不安を湛えていた。
「外が騒がしかったので来てしまいました。兄上はどこに?」
「ケンが殺し屋に勝負を挑んで、今…」
負けた、と言おうとしてリッカは口を閉じる。
違う。負けてなどいない。
リッカは弾かれたように戦場へ顔を向けた。ケンはまだ膝立ちの状態だ。
(ケンはまだ闘っているのに、僕が勝手に諦めるなんて出来ない!)
リッカは大きく息を吸って叫ぶ。
「ケン!頑張れ!」
「誰だお前は」
驚くほど淡々とした声が帰ってきた。
退屈そうにあくびをしていた少年は、目を見開く。
「すごい!すごいぞ!こんなに強い人間がいるとは…」
何やらブツブツと呟きながらケンは立ち上がる。顔色が悪いように見えるが、目の輝きはいつものケンだ。
「名前を聞かせてくれ!誰だお前は!」
観客が喜んで手を叩く。ケンを讃える声が飛び交った。
少年はまだ衝撃から立ち直っていなかったが、不敵な笑みを漏らし、再びナイフを抜いて構える。
「フリーの暗殺者、ナハトだ。この毒食らって立ち上がるたぁ、おにいちゃん、すげえよ。このまま引き下がるわけには、行かないぜ」
「俺の名前は武藤拳。この目で追えなかった技は、妹以外では初めてだ」
ケンの瞳は爛々と燃えていた。好敵手に出会えた興奮に、顔が上気している。
隣を見ると、シュウも拳を握っていた。
「彼と戦いたくなった兄上の気持ち、よく分かります…!」
そこまでの相手なのか。この少年。
リッカは本心から小さな暗殺者のことをすごいと思う。異世界に来てから、本当に兄妹の手を煩わせたものといえば、それは聖剣だけだった。
兄妹は今、異世界の本当の猛者たちの世界に足を踏みいれようとしているのだ。
「妹いるんだ。きっとおにいちゃんに似てゴリラみたいな女なんだろうね」
「何て事を言う!許さんぞ!…えーっと、何だっけ、名前」
でももう名前忘れていた。
モチベーションは十分。
第2ラウンドが始まる。
短いものでも細かい指摘でも構いません
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