その14〜人の話を聞けい〜
新キャラ出ます!
出るだけです!
「着いた!材木都市『ランバーヤード』!」
「一気に街ですね、人がいっぱいです」
「む。強者の匂いがするぞ。手合わせ願いたいな」
始まりの村とはレベルが格段に違った。森林地帯『フォレスタ』の中でも1、2位を争う大都市である。それも当然か。
石畳の歩道が網目のように続き、様々な店や工房が所狭しと並んでいる。
ただしそのほとんどが木材関連。材木都市というだけあり、その特産はもちろん木。
木製の家具や芯材、船や馬車まで売られている。
建物だって全て、木造建築であった。
「強者の匂いって…まずは宿を探して食事を取って、それから荷物の補充をしようか」
「「食事⁈」」
「ほんと都合のいいところしか聞かないよね」
言い換えればポジティブなのだろうか。
すぐふらふらと脇道へ逸れようとする兄妹を何とか繋ぎ止めながら、リッカは手頃な宿を発見した。
『酒場&宿 ウッドデッキ 勇者も殺し屋も大歓迎』
こういった古く賑やかな宿は安い(偏見)。
ウェスタン風のぐいんぐいんするドアを押し開け中に入る。
むっとした熱気が顔を吹き付けた。しかし嫌な感じはしない。食欲そそる料理の香りがしたのだ。
兄妹が背後でそわそわし出したのをリッカは感じ取る。
「宿を一泊と食事をお願いします。昼食夕食と、明日の朝も」
リッカがカウンターのお姉さんに注文をしている間、周りの客の目はほとんどがある兄妹に集中していた。
田舎風の質素な服に身を包む黒髪の男女。背の高い兄は堂々とした笑みをその顔にたたえ、寄り添う妹は美しい顔を好奇心に輝かせながら店内を眺めていた。
まさか彼らがゴブリンの群れをたった2人で退けた、豪腕の持ち主だとは誰も思うまい。
それでも2人の外見を思えば、タチの悪い客に絡まれてもおかしくないと思っていたが、どうやらこの宿は大変健全らしく、客達はしばらくして自分達の会話へ戻っていった。
「3人分で、とりあえずふた部屋お願いします」
兄妹を一緒にするか、男同士で一緒になるかだ。
「お客さん、ちょっといいですか?」
突然降ってきた声にリッカは驚いて顔を上げる。
どうやら目の前にいるお姉さんに声をかけられたらしい。お姉さんが声を潜めながら言う。
「お客さん、旅の方でしょう?」
リッカは戸惑いながらも頷いた。
びっくりしたー。告白されちゃうかと思った。
受付のお姉さんは森の住民特有の金髪を2つにまとめ、肩口から垂らしている。緑色の瞳が綺麗な美人で、リッカはどぎまぎしてしまった。
(これが都会の女性というやつか!)
リッカは健全な15歳男子である。
お姉さんはその豊かな胸を木目調の上に乗せ、ささやく。
「だったら知らないと思うんだけど、この宿に今1人男の子が泊まってるの。結構有名な暗殺者で、頭もちょっとイっちゃってるから、絡まれないように気をつけてね」
お姉さんが指差す方向を振り返る。店の角の暗がりに、真っ黒なマントを着た少年が座っていた。短いナイフを磨いており、フードに隠れて顔は見えない。
たしかにその一帯だけ何となくピリピリとした雰囲気が漂っているように思える。他の客も、少年には注意を向けないようにしているようだった。
「ありがとうございます、気をつけますね。じゃあこれ、お金」
お代を払って部屋の鍵を受け取り、兄妹の元へ向かう。
「あれ?二人とも?」
居なくなっていた。
「えぇ⁈さっき振り返った時は居たのに!一瞬で⁈お姉さん!僕の連れの二人は…!」
カウンターのお姉さんも居なくなっていた。
「何で⁈何でいないの⁈」
どうやらリッカが振り返った直後に、店の奥まで引っ込んでしまったらしい。
謎の行動力。
リッカは慌てて店内を見渡す。
「!」
リッカの目が一人の少女の姿を捉えた。
胡散臭い戦士風の男達のテーブルで、同席している。
にこやかに話す彼女を、男達はデレデレになりながら
囲んでいた。
「シュウ!居なくなっちゃったかと思ったじゃないか!ケンはどこ?」
「ハートキャッチさん!この人達、とっても優しいんです!薪貰っちゃいました!」
「知らない人に物を貰っちゃ駄目でしょうが!ていうか何貰ってんの⁈」
薪て。材木都市だからか。
「兄上なら向こうですよ」
と、シュウが目線をリッカの後ろに向けた。嫌な予感必死に振り払いながらリッカはそれを追う。
店の角の暗がり。マントの少年に話しかける青年の姿が見えた。
「うわあああああああああああああああ!!!」
リッカの絶叫。酒屋の喧騒に掻き消されたが、間近に居たシュウは驚いたように目を見開く。
「シュウはとりあえず上に荷物を置いてまってて!絶対に外に出てきちゃダメだよ!」
ほとんど放り投げるように鍵を渡してから、リッカは
二人の男の元へ駆け寄る。
目の前に突如現れた青年に、マントの少年は動揺しているようだった。
そんなことには御構い無しに、ケンは仁王立ちで宣言する。
「俺と闘ってくれ!」
リッカの平手打ちがケンの後頭部に炸裂した。
自分のネーミングセンスの無さが辛いです!