その13〜人の話を聞くのだよ〜
旅路は結構暇です。
一行に一組兄妹です。
一言で言うなら、旅は順調だった。
走って1日とは宣言したものの、兄妹はあくまでもリッカに歩調を合わせてくれる。
村を出て5時間ほど。一週間というのは単純計算であり、宿泊やトラブルなどを考えると、長ければ一月かかってもおかしくない道程だった。
しかしここまでの道中、数々のモンスターと遭遇したものの、全く問題がなかった。兄妹が全て、退けてしまったのである。
ところで、リッカの出身村が『始まりの村』と指定されている理由は、村周辺の出現モンスターにある。
召喚初日に兄妹が倒したスライム、ゴブリンの他、ビギナー勇者向けのモンスターが多く出現するこの村は、まさに修行場として最適だったのだ。
しかし。獅子峠一行が3ヶ月半をかけてコツコツと経験値を貯めてきたのに対し、この兄妹はそのような雑魚モンスターとの交戦もほとんどなく旅へ出るに至ったのだ。ただ事ではない。
当然村の者は反対するかと思われたが、神父はあっさりと許可を出した。
彼らの戦闘を間近で見た上、命まで救われたのだ。それも頷ける。もしくは兄妹を早く追い出したかったのか。(何せ二週間匿っていたにも関わらず不審者よわばりなのだから)
戦力は有り余るほど。食料にも困らない。道にも迷うことなく。
上手くいきすぎていると、人は不安になるものだが、兄妹にそのようなそぶりは一切見られなかった。
リッカもそこまでの焦燥は抱えていなかった。
一言で言うなら、旅は順調だったのである。
一言で言うなら。
「兄上!あれを!丸太に足が生えています!」
「家の裏でやった丸太切りを思い出すな妹」
「向こう逃げようとしたんだからわざわざ追いかけないでよ可哀想でしょ」
通常、エンカウントというのはモンスター側が人間を襲ってくる形で発生する。しかし、この兄妹、戦意を喪失して去ろうとするモンスターにまで臨戦態勢に入るのだ。
来るもの殴り倒す。去るもの蹴り飛ばす。
ただの戦闘狂である。
「丸太切りって、え、そういうこと?切るってまんまの意味なの?手足に武器とか仕込んでんの?何でそんな綺麗に両断できんの?」
ちなみに丸太は食べれない。薪の代わりになりそうだ。それか、目的地である材木都市への、手土産にするのも良いかもしれない。
一言で言うなら、旅は順調だった。
ランバーヤードまであと10キロ。明日には到着する見立てだった。
「じゃあそろそろ日も暮れるね。到着は明日の昼として、今日はこの辺りで休もうか」
「兄上!あっちに謎の歩く巨大花が!」
「本当だ!ハピネス!急ぐぞ!」
「しかも実がなっています!美味しそうです!」
「本当だ!ハピネスチャージ!急ぐぞ!」
「僕は伝説の戦士か」
話を聞かない兄妹だが、それでも、リッカの身だけは、確かに案じているのである。
リッカは気づかないふりをして、呆れたようにため息をついてみせる。
次回はいよいよ街に出ます!
新キャラが出るかもです!出ないかもです!