素敵な恋
そして、メイドのリナさんに持って来てもらった姿見に写るお嬢様、もとい私を見る。
青のグラデーションがかかった銀髪に、タンザナイトみたいな多色彩のブルーの瞳。
そして、将来は美しくなると確約されたとでも言わんばかりの整った顔。
まだ幼いが、私が生前で一目惚れした悪役令嬢、レティシア・タンザナイトの容姿と丸々同じである。
こんな美少女がそういるわけがない。
つまり、私は乙女ゲームの世界に入り込んでしまった?
しかも、最近のラノベで流行ってる悪役令嬢に転生しちゃった系のやつ?いや、ちょっと違うな。私はお嬢様だけど、私とお嬢様は完璧に一緒ではないから。憑依とかそこらへん?
ここで私は1つ思いついた。
(お嬢様、悪役令嬢になってみないかい!?)
そう、将来悪役令嬢になるはずのお嬢様に物語のヒロインのような恋愛をさせてみたいのだよ!
相手?そんなの、お嬢様のお兄様に決まっている。私の第2の推しだ。
兄妹の禁断の恋愛とか、めっちゃ萌える!!そして、最終的に兄妹は結婚できないじゃん!とかにはならない。
実は、お兄様はお父様の従兄弟の子で、分家の生まれだったらしいんだけど、お嬢様が7歳のときにお父様に引き取られたらしい。
一人娘のお嬢様が婿に行ってもいいように、当主にする予定で。
お兄様のルートは公爵家の直系であるお嬢様に才能が及ばずに悩んでそれをお嬢様に言えずに、閉ざされてしまったお兄様の心をヒロインが開いていくストーリーである。
お嬢様と本当の兄妹ではないことは、ストーリーで明かされたから、間違いないはずだ。
そして、ゲーム内では兄妹仲も悪くなかったし、ネットのお嬢様ファンクラブではお兄様のルートでのバッドエンドはお兄様がお嬢様と両思いになってしまうルートらしいから、くっついても問題なし!!
でも、ここは乙女ゲームの世界であっても、乙女ゲームではないから、ストーリーどうりのことが起こるかどうかは分からないけど。
ようやくヒロインとお兄様が結ばれて、その後のストーリーが配信されるはずだったのにな、コンチキショー!!
(ヒロインとは何かしら?貴女はよく、分からない言葉を使うのね。)
おう、この世界ヒロインって言葉もないのか。なら、主人公とか、主役とかはどうかな?
(簡単に言えば、物語の女主人公みたいなものだよ。素敵な恋、してみないかい?)
(誰と?)
(今後、君の前に現れる素敵な殿方とだよ。)
気分はまさに、真面目なお嬢様を誑かす悪い蛇!!
まあ、お嬢様がお兄様に恋しなかったら諦めるしかないんだけど。
その時は、お嬢様の好きな人をおとす為の助言でもしますかね!伊達に乙女ゲーム長い間やってないぞ!!
(そう、気が向いたらね。)
お嬢様はまだ恋愛には興味がないみたいで、そっけなく返されてしまったけど、無理矢理に恋愛してもらう必要はない。誰を選ぶかはお嬢様次第だし。
「あの、お嬢様。如何しましたか?急に姿見をお部屋になど。」
あ、そうだよね!ごめんねリナさん!私が悪いんだ、普通に考えてみれば、体調不良のお嬢様が急に姿見持ってこいとか、ありえないよね!そんなことするなら寝てろって感じ?
あー、でもなんて言い訳するのこれ。さすがにお嬢様でもこれに対応できる言い訳なんて持ってるわけ……
「ごめんなさいねリナ。さっきまで寝ていたのだけど、怖い夢を見てしまって。
ちゃんと自分がここにいるということを確かめたかったの。」
持ってたわ。バリバリの嘘をかましたよこのお嬢様。
なに?姿見持ってきてってリナさんに言ったときにはもう思いついてたの?この言い訳。
確かに幼女が怖い夢みて眠れないってよくあるよね。うちの妹も結構そんなことあったし。
「そうでしたか。大丈夫です、お嬢様は今日もちゃんとお嬢様ですから。」
リナさんが少し微笑みながらお嬢様に告げる。うん、慕われてるのねお嬢様。
てか、リナさんも美人さんだわ。何歳くらいだろ、多分私より歳下だな。
「ああ、お嬢様が体調が悪いと聞いたサシェル様が心配しておられました。」
「あら、そうなの?体調ならだいぶ良くなったから、元気な姿を叔父様に見せないとね。」
どうやら、お嬢様の叔父様はサシェルさんというらしい。恐らくだけど、お嬢様と屋敷の人達の仲はいい方なんだろう。
でも、なんか引っかかるんだよね。
さっきお嬢様はこの屋敷にいるのは、執事さんとリナさんと叔父様と自分だけって言ってた。
なら、お父様とお母様は?お兄様は7歳のときに養子になるから、まだいなくてもおかしくないんだけど、少なくともお父様は絶対にいるはずだ。
もしかしたら、ゲームと現実でズレがある?
ゲームではお父様はちゃんと存在してたけど、本当はお父様なんていなくて、叔父様が保護者だったとか?
まあ、深く考えすぎな可能性もあるよね。お父様との仲が悪くて別居してるだけだとか。
まあ、叔父様との会話なら私が考えることじゃないか。もし何かあってもお嬢様なら何とかするでしょ。