第1話 目醒め
初めての投稿となります。
誤字脱字、読みづらい点など多々あるかと思いますが長い目で見ていただけると幸いです!
パチッ
木にもたれかかり、片膝を立てた状態の青年は目を覚ました。
「んっ…」
ぼやーっとした視界から目の前の景色が見えてくるにつれ、彼は困惑した。
夕方、大学から自宅に帰りリビングのソファで横になりながらスマホで動画を見ていた。
これが最後の記憶のはずだった。
ただ、彼の目に移っている光景は自宅のソファではない。
薄暗い森の中だ。もうすぐ日が沈むのだろうか、時刻は目覚める前とそう変わってなさそうだ。
目線を目の前の森からずらし、着ている衣服に目を移すと、中世の村人のような服装だ。彼がこれまで生活していた世界は現代であり、このような服装はしない。
現状が分かる物がないか、体全体を弄ったが、何か荷物を持っている訳でもなさそうだ。
夢か…。そう思った矢先、脳内から直接声が聞こえてきた。
「目覚めたか」
慌てて辺りを見回すが誰もいない。
辺りを見回しても森の木々と茂みのみ。
ただ、不思議と気のせいだとは思わなかった。
声の主は確かに存在する。
「目覚めたか」こう話す女性の声ではっきりと聞こえた。
彼は立ち上がり、衣服についた土と葉を手で払うと、歩き出した。
「とにかく行かなきゃ」
ここがどこなのか分からない。
服装が変わっている事も理解出来ない。
そして今の声。
分からないことだらけではあるが、あの声の主は彼に語りかけてきた。
動き出さなければ現状を打破出来ないことは明白だった。
1時間程歩いた所で少し開いた場所へ出た。
既に日が暮れ、月明かりが辺りを照らしている。
50mほど歩くと小高い丘があり、登ると辺りの景色が見えそうだ。
ここはどこなのか。
この丘を登れば少しでもこの場所がどこなのか分かるかもしれない。。
ザッザッ
少しずつ丘の向こう側の灯りが見えてくる。
灯りが見えるという事は向こう側に街があるのだろう。街に出ればなんとかなる。
そう安堵したのも束の間、徐々に見えてくる光景に愕然とする。
「なんだこれは…」
そこにある光景が見えた瞬間、さっと身を屈ませた。
一瞬見えた光景。
それは彼が今までの人生で見た事のない光景だった。
「ちょっと待て。なんなんだここは…」
身を屈ませながら、再度その光景に目をやる。
甲冑を着た直立歩行の豚の群れが野営している光景がそこには広がっていた。
ゲームやアニメ、映画などで出てくるオークそのものだ。
ただ、あくまでもそれは空想上の話。
現実にそんな光景が広がるとは思いもしなかった。
オーク同士が会話をしている光景。
スープだろうか、食事をしているオークもいる。
1,000人程いるだろうか。
必死に頭を巡らせる。
今何が起きている?
豚が甲冑?会話?
夢だと信じたい構え、このはっきりしている感覚は現実なのだろう。
そして、あの集団の中に入り、ここはどこなのか聞いても友好的に話が進むとはとても思えない。
とにかくこの場から離れなければ。
そう思って少し後ろへ下がった後に立ち上がり、ここまで上がってきた道を戻ろうと後ろを振り向いたその時、凍りついた。
目の前にフードを深く被った人物が立っていた。
「…っぐ」
フードを深く被っているが、声と白髪混じりの顎髭からは中年男性であろう事が想像出来る。
「〜j○mg▲wg□k」
話しかけてきたが、言葉が分からない。
話しかけている雰囲気からは敵対視されている訳ではなさそうだ。
中年男性は彼が言葉が通じない事が分かると、右手を差し出してきた。
手のひらの上には木ノ実がある。
差し出されたので手に取ると、目の前の人物も左手にも持っていた木ノ実手に取り、それを口にした。
右手で彼にも食べるよう促している。
口にしてみる。
歯で外の殻を破ると見た目とは異なりグミのような食感が広がる。味は特にしない。
食べ終わって少しすると
「よくぞいらした。」
話している言葉は変わらないが、相手の話している言葉が理解出来るようになっていた。
不思議な感覚だった。
「あの、どういう事でしょうか。」
「細かい話は後にしましょう。後ろにいるオークに見つかると厄介です。」
「あのオーク達とは友好関係にはないのですね。」
「そうですね。敵対関係にございます。」
「敵対関係・・・戦争でもしてるのですか?」
「左様でございますね。戦争、というよりは侵略されているといった方が正しいでしょうか。」
「…侵略っ!?それって…」
その先を言おうとすると中年男性右手を差し出した。
「先程申し上げましたが、詳しい話は後で。一緒に来てください。」
出会って5分程で見ず知らずの人間に一緒に来てください。と言われても、なかなかついていく人もいないだろう。
ただ、それが彼の知る現実世界であれば。
知らない世界、知らない生物、知らない言葉を話す人間や食べ物、全てが分からない事だらけだ。
そんな中で中年男性の言った「よくぞいらした」という言葉、この男性は彼がここへ来る事を知っていた。
唯一の手がかりには違いない。
彼は男性の手を掴んだ。
中年男性はフード越しに微笑むと呪文を唱えた。
2人を光が包む。
次の瞬間、彼等がいたのは城の中の一室だった。
「あれっ」
辺りを見回す。丘の上にいたはずだが、どこからどう見ても現在いるのは西洋風の城の中である。
「先程は失礼致しました。私、ホルンと申します。
ルナ様がお待ちです。」
中年男性がフードを取り、素顔を見せる。
顎鬚と同様、髪色も白髪7割ほどで、中年というよりは初老といった方がいいだろうか。
ドアの前まで行き、扉の向こうへ行くように促される。
部屋を出て、廊下を歩きながらホルンに尋ねる。
「あの、ホルンさん。この状況がどういう状況なのか知りたいです。」
「それもルナ様がお答えくださいます。」
「ルナ様…。」
「現在我が国を治めていらっしゃる御方です。」
「我が国?治める?ここは日本じゃないのですか?」
「ニホン…?ここはヒースという国でございます。」
「ヒース…聞いたことない。」
「左様でございますか。」
と、豪勢な扉の前に着いた。
「貴方様はこの国、そして世界を導くためにいらっしゃった方だと伺っております。」
カチャッ
ニコッと微笑みながらドアを開ける。
「ルナ様がお待ちです。」
扉の向こうには玉座に座る1人の女性がいた。
そして両端に2人。
手前の段が下がった左側に6人が縦に並んでいる。
玉座の前まで進む。
玉座の女性が恐らくルナ様なのだろう。
とても美しい女性だ。
前まで進むと、ホルンが一礼する。
「こちらの方がルナ様が仰っていた方です。オークの野営手前におりました。」
女性が立ち上がる。
「よくぞ参りました。この国、ヒースの主であります、ルナと申します。」
「こ、こんにちは。」
「貴方様の御名前はなんと仰いますか。」
「名前ですか?えっと…あれ」
名前を伝えようとしたが出てこない。
昨日寝るところまでの記憶はハッキリしているが、自分の名前が出てこない。
「ごめんなさい。気が動転する事ばかりだからなのか、忘れました。」
「左様でございますか。」
「ごめんなさい。本当に分からない事だらけで困っています。」
「貴方様は異国…いや異世界から来ていらっしゃるのでしょう」
少し微笑みながらルナは話す。
「そ、そうですっ!目覚めたら今まで生活していた場所と全く違う状況で・・・」
「私も貴方様が異世界から来ているという事は存じていますが、どのような世界からいらっしゃったかまでは存じ上げません。ただ、分かっているのは、貴方様がこの世界にとってとても重要な人物だということ。」
「とても重要とは、どういった…」
「率直に申し上げます。この国の王となり、世界を統べ、現在の混沌に終止符を打っていただきたい。」
「お、、王?世界を…統べる??」
「左様でございます。」
「申し訳ない。事情も分からないのに無理です。そして、何を勘違いされてるのか分かりませんが私にはそんな力はありません。」
ルナが再び微笑んだ。
「ご安心ください。力ならございます。」
次の瞬間、近くにいた6人のうち1人が剣を抜き、彼に飛びかかった。
彼は死を覚悟し、無我夢中で腕で身構え、目を閉じて力を込めた。
「ちょっ!!」
バチィィィン!!
鈍い音がしたが、腕を始め、身体の一部が切られた感覚はない。恐る恐る、目を開いた。
「えっ、これは…。」
自分の体をオーラが包んでいた。
「大変失礼致しました。」
先程の剣士が一礼をし、元の列に戻る。
ルナが再び口を開く。
「申し訳ございません。こうでもしないと貴方様自身の力を信じて頂けないと思いました。」
「いや…それは構わないんですが…こんな力、目覚める前までの私にはありませんでした。」
「どんな力が貴方様にあるのかは私達も存じ上げません。ただ、貴方様はこの世界を統べる為にやってこられた。これだけは間違いございません。」
「何故分かるのですか?」
「それが私の力であり、私の存在価値です。貴方様がいるから私は存在します。」
「そんな大層な…私はそんなに偉大な人間ではないです。」
「すぐに信じる事が出来なくても構いません。」
元々いた世界とは明らかに違う事は分かった。
この世界で自分自身にも考えられないような力があるようだ。
「いきなり王というのは受け入れがたいです。ただ、いつまでも驚いても仕方ないのでしょうね…この世界の事、私の存在含めて教えて頂いてもよろしいでしょうか。」
「では、お話ししましょう。まず、この世界は4つの大陸と、大きく分けて5つの国や地域から成り立っています…」
ルナから話を聞いた彼は、より困惑してしまうのであった…。