奥さまは鬼
桃太郎は、鬼ヶ島から帰るなり邪気を浴びた為、病の床に伏せました。どんな医者にみせても治りません。
目を覚まさない桃太郎。諦める周りの人々、そんな時、綿帽子を被った、美しい娘が現れました……
「私がその病を食べましょう」
娘はそういうと、二人きりにしてほしい、と頼みます。桃太郎を助けたい両親は、怪しい娘の言う通りにしました。
座敷に二人きりになった、桃太郎と謎の美女。娘は綿帽子を取ります。そのふあふあ巻き毛の頭には、二本の角が、
娘は桃太郎が、皆殺にした鬼ヶ島のただ一人の生き残りでした。一族を殺された娘は、復讐に来たのです。
無防備に眠る桃太郎、にたりと口から牙をだし、食い殺そうと近くに寄る娘……そしてその後、思わぬ展開に……
「まあまぁ!何てイケメンな桃……桃太郎様……」
白い肌に鼻筋通ったオットコ前な桃太郎に、鬼っ娘は一目惚れをしたのです。
……喉元に食らいついてやろうと、思っておったのに!己、桃太郎!憎し恋しとはこの事かー!
そして、娘は決意をします。
「父様、母様、一族の皆のもの、わらわは愛に生きる!なので、桃太郎様を、お助けいたしますぅ」
本来の目的、一存の復讐など、忘却の彼方へとぶっ飛ばした鬼っ娘、桃太郎を蝕んでいる『邪気』
それを嬉しげに、無防備に眠る桃太郎のお口から、ラブラブ気分満載で、口移しで頂きました。
……事が終わり、とても美味しゅうございました!うふふーん、と鬼っ娘が思ったのは言うまでもありません。
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めでたく祝言を挙げた、桃太郎夫妻、綿帽子を被っておれば普通の女性にしか見えない鬼っコ嫁。毎日、家族の為に甲斐甲斐しく、働きます。
何しろ『鬼』ですからね。体力気力、知識も人間から離れてますから、おとぎ話の勇者桃太郎にはふさわしい者でした。
さて、夫婦ともなればお子さん問題がございます。しかし、ここで問題がございました。実は鬼族の娘は、一夜身籠り、そしてカマキリなのです。
そうです、あんなことや、こんなことを、終えると、お婿さんを頭からバリバリお召し上がりになられるのです。
宿った命に力を与える為です。鬼の種族にも色々ありましたが、彼女の種族は長命で有名な一族、そして女鬼が適齢期になると、里からイケメン誘拐してきて、強奪婚の風習の種族だったのです。
鬼の娘が生むので父親が人間だろうと、子供は鬼になるので、構わないのでした。
とりあえず、新婚初夜の時に床の上でそれを教えた花嫁、当然花婿からはドン引きされたのは言うまでもありません。
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赤子がほしいのですが、と薄物の一重姿で、毎夜毎夜迫られる桃太郎。肉置き豊かな鬼の嫁、天然谷間が桃太郎をとらえます。
なまめかしい、白い肌で絡んできます。桃太郎といえども、その辺りは一般人、煩悩の炎がムラムラ燃え立ちますが、しかし、食べられたくはないので、
「み!見廻りに!村の見廻りに行ってくるー!」
と袖引き留める嫁を振り切り、屋敷から飛び出てそのまま朝まで、辺りを駆け回る生活、体力ばかりが無駄についていきます。
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ふぅ、どうにかして桃様のお子を!と嫁は何やら策を練りました。まずは庭先に鶏を飼うことにしました。卵を手に入れる為です。
そしてようやく一つ二つと、産むようになった、そんな日のある夜の晩御飯です。
「聞きたいが、卵に、とろろ汁、鰻に白い飯、そしてこの鍋はなんだ?」
桃太郎の両親と共に囲む一家団欒の囲炉裏ばた。グツグツ煮える鉄鍋、鬼嫁が褐色の酒をすすめてきます。
「はい?鍋でございますか?山にて猪をちょっと、採ってきただけですわ、桃太郎さま、さあ、お酒をどうぞ」
山にてちょっと猪、つっこみそうになった桃太郎ですが、酒の色にも、何かしら感じた彼はさらに聞きました。
「普通の酒ではないな、何を作ってくれたのやら?」
父親に、さあ、お父様もどうぞと酒を注いでる嫁は、さらりと答えます。美味しそう杯をあける父親。
「はい、畑にて蝮が……ちょっと生け捕りに出来ましたから、お酒につけましたのよ、さあ!桃太郎様、ぐいっとお飲みになって下さいまし」
蝮をちょっと生け捕りに、何を考えている、お前は、いや、酒は好きではないから、とやんわりと断ると、鍋をよそっておくれと頼みます。
「はい!このお鍋のお出汁には、特別なのですよ!召し上がれ」
いそいそと大ぶりなお碗に、たっぷりと根菜と猪肉の味噌汁が入れられ、手渡されました。うん、頂こうか、と口にする寸前で彼は気が付きました。
「この黒焼き状の『もの』は何かね?」
お箸で摘まむ、黒い物体、それを目にした嫁は笑顔で答えます。
「はい、イモリの黒焼きでございます、ささ!桃太郎様!是非とも、お召し上がり下さいな!」
……グツグツ、グツグツ、お鍋の煮える音が桃太郎の耳に届いてきます。美味しいのぉ、婆さん、ええ、お爺さんと、両親は舌鼓をうってます。
ささ!お食事をぜひに!とキラキラと輝く瞳、火の側のせいなのか、曙色の頬、着物の上からでもはっきりわかる胸の盛り上がり。
体力だけ追及している今の生活の彼は、ごくりと息を飲むと、いや、今日は白いご飯と漬物だけにしておこう、物忌みだから、とやんわりと言いました。
あら?どなた様のですか?と嫁は聞いてきます。
「う、ん、お供の犬の兄弟のポチという名前者の家のお爺さんのお家に住んでいる、ネズミの一家の知り合いの、猫一族の殿様にお仕えしておる猿の知り合いの、雉のお袋様の命日だ」
そう言い残すと、がさがさがさ!と食事を流し込み、見廻りに行ってくる!と屋敷を出ていきました。
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そおして、その夜のことー!
婆さんや、何だか眠れんな、ええ、お爺さんと、桃太郎の両親が何やら寝床で話しています。
「ねえ、お爺さん、そのお婆さんってのやめてもらえません?そもそも子供が孕めなかったから、お婆さんでしたが、こう見えても私はまだ若いのですよ」
お婆さんが、隣のお爺さんに甘くささやきます。
「そうじやったのぉ、婆さんじゃ可哀想じゃ、せめて二人っきりのときには、昔みたい呼ぼうか」
お爺さんは、彼女に身を寄せて耳元で熱くささやきます。
「いやん、あなたぁ、かわいい姫や、なぁんて!ほほほほ」
「かわいい姫やぁ!食ってしまおうぞぉ!ワハハハ」
熱く激しく、そして目眩く怪しく、ときめきく世界、快感の夜の時間が二人に舞い降りました。
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もう、桃太郎様ったら毎夜毎夜、体力作りにいかれて、仕方ないのだからぁ、どれだけ私に尽くして下さるご予定なのでしょうか?
今宵もお帰りになられないのかしら、まぁ先は長いからいいですわ、明日も早いので私は先に休みましょう。明日はちょっと鹿でも採ろううかしら、ん、お休みなさい桃さ、ま。
鬼っコは、布団に潜り込むと眠りにつきました。すやすや、安らかに眠ってます。
桃太郎は、煩悩を消すために、あちらこちらを駆けています。
毎夜の村の見廻りに、人々は流石は桃太郎様と彼の名前はますます褒め称えられていきます。
お爺さんと、お婆さんは鬼嫁が毎日作る食事で、日々若返っていくようです。
毎晩二人は熱い世界を創り上げてました。
そのうち、この二人に、元気な赤子が産まれるのも、近い事かもしれません。
めでたし、めでたし!