姫サーの姫
私立青蘭学院には六人の姫がいる。
もちろん政治的立場の「姫」ではない。アイドルとして、美少女として、偶像としての「姫」。
学院内のみならず、外部、或いは芸能界にまで目を着けられる美貌を持つ少女たちは、皆一様にとある同好会へと所属している。
『観葉植物同好会』
一見パッとしない名前であるが、その構成員は先に述べた六人の姫。
あまりにも美麗な人間が集まったことにより、その同好会は学院内から畏敬の念をこめてこう呼ばれる。
『姫サー』────────と。
◆
「こんにちはー」
月曜日の放課後。『観葉植物同好会』のプレートが掲げられた扉を開けたのは、この同好会の会長である六花 和。名が体を表す通り、六花を思わせる雪の様に透き通った白磁の肌に薄桃色の長髪を携えた絶世の美女である。
和は室内に誰もいないことを確認すると、テキパキと活動を始めた。
まずは窓際に置かれた観葉植物たちへの挨拶。朗らかな笑みを向けられたサンスベリアは心なしか誇らしげだ。
和は鼻歌を囀りながら植物たちの世話をしていく。その姿は森の妖精の如く、見る人が見ればきっと名画として描き残したであろう。
「よし、こんなものかな」
腰に手を当ててふんすっ、と胸を張った和は満面の笑みだ。それに連れて、たゆんと大きな胸もご機嫌に揺れた。
「のどか~っ!」
「あ、蘭さんいらっしゃい」
和が満足感に浸っていたところ、荒々しく部屋の扉が開けられた。
現れたのは、艶やかな白髪をポニーテールに結った碧眼の美女──── 一葉 蘭。大きく肩で息をしていた彼女は、和の姿を見つけると飛び込むようにして抱き着いた。
「のどかのどかのどか~っ!」
「わわっ、どうしたんですか蘭さん」
和は飛び込んできた蘭を優しく抱き留める。すりすりと和の大きな胸に顔を擦り付ける蘭は心地よさそうに頬を緩ませる。
「あー好き。のどか好き。大好き。愛してる」
「あはは、ありがとうございます。今日は蘭さん一人だけですか?」
「ん、他の女の話……? アイツ等なら私が罠に嵌めて足止────あ、ほかの皆は今日用事で来れないってさ」
「そうなんですか。それならそうと会長の私に一報欲しかったです……」
「まあアイツ等は冷徹な奴だからね。のどかを悲しませるなんて酷いよ」
「皆さんもお忙しい身ですし、仕方がないですね」
「うぅ~ん、のどかは優しいなぁ~。そんなところも好き♡」
和は知らない。蘭が和と二人きりの時間を作り出すために他の会員を陥れて足止めしていることを。
和は知らない。蘭を含め『観葉植物同好会』のメンバーが『姫サーの姫』こと和を独占するために日々戦争していることを。
和は知らない。彼女たちの愛の重さを。
◇
和と蘭の出会いはフィクションの如く劇的なものだった。
休日の夜の繁華街というのは場所にもよるが、大抵の場合治安が悪い。一本誤って裏道に入ってしまえば人目につかなくなってしまう。
その日の蘭は塾帰りの疲れにより、覚束ない足取りで細道に迷い込んでしまっていた。絶世の美女が酒飲みたちの巣に入り込んでしまえばどうなるか。自明の理である。
「やめて、離してっ!」
「そんな大きな声出さなくてもよくね、ちょっと遊ぼうぜ」
「いやっ!」
蘭は大学生らしき集団に囲まれていた。蘭の白魚のような細腕はがっしりと掴まれて内出血を起こしている。
「誰かっ、助けてくださいっ!!」
「チッ、うっせぇなこのガキ!」
「ひっ」
蘭が声を張り上げると、腕を掴んだ男は不機嫌に舌打ちした。
蘭は常世離れした美貌を持つものの、その中身は年相応の女の子だ。男の態度に怯んでしまう。
「んじゃ、俺ら今から二次会でカラオケ行くから付いてきてね」
「ぃゃっ……ぃゃ………」
蘭は引き摺られるようにして連れていかれる。恐怖で涙がこぼれ落ちる。
と、そこで一人の少女が割って入ってきた。
「あの、待ってください」
「アァ、なんだ?」
「表の通りまで悲鳴が届いたので何事かと思って来てみれば……」
現れたのは白桃色の髪の美女────和だった。
カーディガンとデニムというカジュアルな格好の和は、制服姿の蘭を見て薄く目を細めた。
「その子から手を離してください」
「うっわ、ヤベえくらい美人じゃん。なに、この子のお友達?」
「……もう一度だけ言います。その子から手を離してください。これは警告です。聞き入れない場合は武力行使をします」
「ねえねえ君も今から俺たちと一緒に────────ッ」
男が台詞を言い終える前に、長い脚がその顎を掠めた。回転性の衝撃を受けた男は脳震盪を起こし、その場に倒れる。
回し蹴りを決めた和は素早く蘭の身体を引き寄せると、その大きな胸の内に抱き入れた。
昏倒した男を横目に、和は周囲を睨みつける。
「これ以上騒ぎを大きくすると、駆け付けた人に通報されますよ。ここはお互い、穏便に行きましょう」
「……」
男たちはどうやら逆上しないだけの知性と理性は兼ね備えていたらしい。もともと腕っぷしに自信があるわけではない彼らはビクビクと怯えながら、力を失った男を抱えて退散していった。
それを見届けた和は険しい表情から一転、和やかな笑みを蘭に向けた。
「大丈夫ですか?」
「うっ、ひぐぅっ……」
「もう心配ないですからね。よしよし。ええと、場所が場所ですし、とりあえず移動しましょう。もしお時間がありましたら、近くのハンバーガー屋さんにでも行きませんか?」
頭を撫でられながら悟られる蘭は絶大な安心感を覚え、甘える猫のように和へ擦りつく。
それから、ハンバーガーを食べながら親睦を深め、蘭と和は同じ高校へ通っているという事実も明らかになった。
これが和と蘭の出会い。使い古されたラブコメディのような展開であるが、蘭にとっては紛れもない現実。恋を知らなかった少女が、和に対して運命を感じてしまうのも頷けてしまう話。
この出会いが時間軸で一年前。和と蘭が高校一年生の初秋の出来事であった。
◇
「のどか~、もっと撫でて~♡」
「はいはい、蘭さんは甘えんぼですね」
「ん~のどかちゅきちゅき~♡」
現在、蘭はソファで和に膝枕をしてもらっていた。他人の視線がないのをいいことに、蘭は猫なで声を上げる。対する和は慈母のような微笑みで、蘭の髪を手櫛で梳いていく。
やがて日が傾き、本日の観葉植物同好会はお開きとなる。
「そろそろ帰りましょうか」
「うん! あ、そうだ。駅前にクレープ屋さんが出来たみたいだから一緒に食べに行かない?」
「いいですね。ついでに晩御飯も食べて帰りませんか?」
「や、やだもうのどかったらいきなりディナーのお誘い? そこから私をホテルに連れ込むつもりなのねキャー! は、初めてだから優しくしてね?」
「……? 何がですか?」
「も、もうとぼけちゃって! ほら、行こう!」
デート、デートと口ずさむ蘭は非常にご機嫌だ。
ただ、結局この日は何があるわけでもなく、ファミレスでの食後に解散となった。
◆
「ぜぇっ、はぁっ、今日は辿り着けた」
「あ、凛ちゃんこんにちは。今日は凛ちゃんお一人ですか?」
「はぁっ、はぁ、ええ、あいつ等なら、今頃戦争中じゃないかしら」
「どういうことですか? というか、凛ちゃん何かあったんですか?」
「まあ、ちょっとね。でも和が気にする必要はないわ。それより、今日の活動を始めましょう」
「え、えぇ……」
火曜日の放課後。観葉植物同好会を訪れたのは、金髪をツインテールに結った釣り目の美女、二葉 凛。彼女は「姫」というよりも「女王」と形容した方が相応しいルックスと性格をしている。高身長かつスレンダーな彼女から繰り出される睥睨は威厳の塊で、思わず頭を垂れてしまった人間は数知れず。本人もその特性を理解してか、高圧的な態度を取りがちだ。一年生である凛は和よりも年下なのだが、まったく敬った様子はない。それでも嫌味を感じさせないのは彼女の美貌と覇気が為せる業だろう。
「それで、今日の活動内容は何かしら」
「えっと、栄養剤の交換と葉っぱのお手入れですけど……」
凛は部屋を見渡す。手際がいい和によって、どうやら本日の作業は終了しているらしかった。
棚に置かれた小さなサボテンは今にも元気よく飛び跳ねそうだ。
凛は和へと視線を戻す。
「今日はもうすることがない、ということでいいかしら」
「そうですね。一緒にお茶でも飲みながらお花の鑑賞でもしましょう」
「それも素敵だけれど……私は和だけを見ていたいわ」
「それって────ひゃうっ」
凛はソファへと和を押し倒した。そのまま和に頬ずりをする。
「久しぶりの和成分……身に染みるわね」
「く、くすぐったいです!」
「すぅーはぁー、本当にいい匂い……食べたくなっちゃう」
「あは、あははっ、ひっ」
凛はマーキングするように全身をこすりつけ、和の身体をまさぐる。対する和はくすぐったさを堪えきれず身を捩じらせるのだった。
◇
和と凛の出会いに関しては、取り分けドラマチックな展開があったわけではない。
道行く和を見た凛が一目ぼれをした、それだけの話だ。
時は遡ること半年前。凛が新入生として入学してきたところから始まる。
当時の凛は唯我独尊を地で行く人間だった。知力、財力、ルックス、名声、どれをとっても一線級の彼女は、他人のことを取るに足りないものだと捉えていた。大抵のことは自分一人でできてしまうし、逆に他人と関わると人生の効率が落ちてしまう。そのような考えの持ち主だったのだ。
その考えが強ち間違いでもないところが凛の強みではあるが、そのことに対して辟易している自分がいることも自覚していた。
有象無象を相手にする気はないが、骨のある人間とは関わってみたい。
そんな彼女は出会ってしまった。
桜並木に散りゆく花びらを背に、物憂げに佇む天女────和に。
刹那、凛の本能は蠢いた。
────────この人が欲しい。
自分に匹敵する、いや、もしかすると凌駕しているかもしれない美貌。木漏れ日と桜の花びらで色づいた瞳は柔らかく、暖かい包容力を感じさせる。
ふと気づけば、凛の足は吸い寄せられるように少女のもとへと向かっていた。
「始めまして」
「へ、あ、こんにちは。えーっと、新入生さんですか?」
「ええ、二葉凛よ。よろしく」
「よろしくお願いします……?」
突如声をかけられた和は戸惑いながらも凛の言葉に返事をする。その姿を見て、凛は自身の欲望が大きくなっていくのを感じていた。
「ねえ、貴女の名前を聞かせて」
「あ、ええと、六花和といいます」
「和ね。覚えたわ。和はどこの部活に入っているのかしら?」
「部活動ではなく同好会なんですけど、観葉植物同好会に所属しています」
「そう、ならアタシもそこに入るわ」
「も、もしかして観葉植物に興味がおありですか!」
「いいえ、全然」
「ええっ!?」
「でも、貴女に……和には興味があるの」
この強引なやり取りの後日、幾手もの妨害を潜り抜けた凛は『観葉植物同好会』への入会を果たすのだった。
それから、凛にとっては退屈になるだろうと思っていた学生生活は苛烈で刺激的なものになった。
自分同様に和へと惹かれた女たちとの恋の鞘当て……もとい真剣による大立ち回り。
自身のフルスペックを発揮しても、妨害によって和へと辿り着けないことも多々ある日々。
「何があろうと、最後に笑うのはこのアタシよ────」
和に出会ったことにより、凛は以前よりも活き活きとしていた。
◇
「そう、和に一つ忠告しておいてあげる。貴女、チャットアプリが乗っ取られてるからアカウントを作り直した方がいいわよ」
「え?」
凛は和へとしなだれかかり、恐ろしいことを口にした。和は目を丸くして、絶句している。
「昨日の放課後に和のアカウントからメッセージが飛んできたのよ。『駅裏のコーヒーショップで待ってる』って」
「わ、私そんなこと送ってませんよ?」
「ええ、知っているわ。アイツ以外の同好会のメンツが一同に会した時点でしてやられたって思ったもの……」
「ど、どういうことですか」
「蘭とかいう女が貴女の携帯から情報を抜いたんでしょうね。チャットアプリ以外にも色々細工してあるかもしれないから気を付けなさいよ。不正アクセス禁止法を知らないのかしらアイツ」
「もう凛ちゃんったら、蘭さんはそんなことしませんよ?」
「……まあ、いいわ。和のそういう可愛いところも大好きだし」
その後、帰宅のチャイムが鳴り終わるまで、凛と和は雑談に興じていた。
「はぁ、早くアタシの物にならないかしら。離島に別荘でも買って監禁した方が早い気がしてきたわ」
◆
明くる水曜日。放課後の観葉植物同好会の戸を叩いたのは、穏やかな風貌の少女だった。
「ルリちゃん、こんにちは」
「ふふっ、和さん、こんにちは」
塗れ羽色の艶やかな長髪を真っすぐ下した大和撫子然とした美女。和の幼馴染でもある三根 瑠璃は微笑を浮かべた。
「暫く顔を出せず申し訳ありませんでした」
「ううん、謝らないでくださいルリちゃん」
瑠璃が頭を下げようとしたところを、和は慌てて止める。観葉植物同好会は厳正に出席を求めているわけではない。会長の和としては、皆の気が向いたときに来てもらえればいいと考えていた。
挨拶もひと段落着いたところで、ソファに身を預けていた和は瑠璃に隣を勧める。しかし、瑠璃はそれを無視して和の太ももの上に腰を下ろす。対面するように座ったため、和と瑠璃の大きな双丘はお互いをむにゅりと潰しあった。
「暫く会えなくて寂しくなかったですか」
瑠璃は和の首にそっと腕を回し、しがみついた。
吐息がかかるほどの距離で二人は視線を交錯させる。
「えっと、昨日と一昨日は蘭さんと凛ちゃんが顔を出してくれていたので────」
────────ギシッ
大丈夫でしたよ。和がそう続けようとしたところで、異音が響いた。
憤怒に駆られた瑠璃が無意識に歯ぎしりをしたのだ。
瑠璃は和に悟られるより早く表情を柔和なものに戻し、優しく語りかけた。
「和さんはウチだけを見ていればいいんです」
「ルリちゃ……ひゃっ!」
瑠璃は和をかき抱くと、その首筋に小さく口づけを落とした。
次いで、瑠璃は和の耳たぶを食む。唇で挟んで擦ると、和は小さな悲鳴を漏らした。
「くすぐったいですルリちゃん」
「ん……ちゅっ」
一見、過剰なスキンシップであるが、この二人にとっては幼少の頃から慣れ親しんだ行為であった。
和は頬を紅潮させ、そっと瑠璃を押しのけた。
「ルリちゃん、外では恥ずかしいです……」
「ん、ふふっ……そうですね。こんなところを見られたら、ウチを殺そうとしてくる人もいるかもしれませんから」
「さすがにそんな人はいないと思うけど……」
「続きは今夜、しましょう」
「あ、ルリちゃん今日は私の家に泊まるんですか?」
「ええ、久しぶりに自由な時間が出来ましたから。お風呂で洗いっこでもどうですか」
「ふふっ、ルリちゃんったら、私たちはもう高校生ですよ」
「ええ、そうですね……もう高校生なのですね」
こつん、と瑠璃は和に額を合わせる。
窓から入り込んできた風が、小さくアンスリウムの葉を躍らせた。
◇
瑠璃と和の出会いは彼女たちが五歳のころまでさかのぼる。
良家の子女である瑠璃と和は、とあるパーティで知り合った。大人ばかりのパーティで年の近い子供がいたとなれば、その場で仲良く遊び始めるのも不思議な話ではない。
あっという間に打ち解けた二人は、パーティの後も頻繁に連絡を取り合うようになり、小学校に上がる頃にはすっかり親友になっていた。
やがて、寮制の私立中学校へ通うことになった二人は四六時中行動を共にした。瑠璃が己の恋心に気が付いたのもこの時期である。
愛する人と寝食を共にし、学業や部活動を切磋琢磨し合う生活は瑠璃にとってこの上ない幸福であった。和の信頼に付け込んで過剰なスキンシップを始めたりもした。
しかし、この生活も長くは続かない。瑠璃の両親が瑠璃の恋慕に気が付いたのだ。
この当時、瑠璃には婚約者がいた。といっても瑠璃にとっては顔も名前も知らないような遠く離れた人間である。彼女の意志ではなく、両親の決めた事であった。
娘の結婚を危ぶんだ両親により、瑠璃は転校を余儀なくされた。中学二年生の秋のことであった。
当初、瑠璃は怒り狂った。外面があるため、その感情は微笑という名の仮面に隠されたが、その内情は憎悪で満たされていた。
いっそ婚約者もろとも両親を殺害しようかと企てるほどであったが、それは時期尚早だと考え直した。
権力に潰されないだけの力を手に入れればいいだけだ。殺人は、力を手に入れられなかった時の最終手段にでもしよう。
思い立ってからの瑠璃の行動は凄まじいものだった。当時十四歳だった瑠璃は起業した。そこから一年かけて会社を成長させ、ある程度の財力と権力を手に入れた彼女は実家を出た。婚約の話も白紙に戻り、瑠璃は自由を得たのだ。
その後、社長の座を委任し、瑠璃自身は学生へと戻った。和と同じ高校へ通うべく一月で勉強の遅れを取り戻した彼女は、無事に和と再会を果たしたのだ。
「和さん!」
「……っ! ルリちゃん!?」
二人は再会の涙を噛み締めた。一人は、突然いなくなった親友を想って。もう一人は、逆境の先に見出した光を手繰り寄せ、愛しい人のもとへと戻ることが出来た幸せを想って。
斯くして瑠璃は和の幼馴染であり、親友であり、最も和に近しい人間である。
自身の障害となるものはすべて取り除く。その一点において瑠璃は揺るがない。
────だが、近頃は和に近づくコバエが増えた。
煩わしい。苛立たしい。厭わしい。
叩いても叩いても潰れない蟲に、フラストレーションが溜まっていく。そろそろ本格的に駆除するべきかもしれない。
最悪の場合は────────自らが築き上げた権力と財力で、最終手段を使えばいいだろう。それだけの話だ。
◇
「和さんは、この同好会の方たちがいなくなったらどうします」
抱き合ったままの瑠璃と和。
瑠璃の発した問いに、和は困ったような顔をした。
「それは寂しいです。せっかく共通の趣味で繋がれた仲間なのですから、やっぱりいなくなるってなったら……泣いてしまうかもしれません」
「そうですか……ウチも、和さんの泣いた顔は見たくないですから」
瑠璃は考える。どうすれば和を悲しませずに、邪魔者を消すことが出来るのか。
暫くは準備が必要かもしれないですね、と瑠璃は昏い微笑を湛えた。
◆
木曜日。週の後半に差し掛かった今日も、和は観葉植物同好会の会長としてせっせと世話に勤しんでいた。
「よっ、ハニー。おひさー」
「わ、玲奈さん、こんにちは」
本日、観葉植物同好会の戸を開けたのは四芽 玲奈。凛とは違って染髪による金の髪は毛先に緩やかなウェーブがかかったセミロング。前髪の一部に銀色のメッシュが入っている。
学校にはふさわしくないショートデニムと赤色のパーカーで現れた玲奈はヒラリと手を振って和に挨拶をした。
「玲奈さん、今日はもうお仕事終わりですか?」
「んー、あー。さっき終わらせてきたところ。ロケが近くであったから飛んできた」
「ただでさえお忙しい身なのですから、無理しなくてもいいのに……」
「無理なんてしてないよ。可愛いハニーに会えるなら、どこからだって飛んで来れちゃうね」
「ふふっ、ありがとうございます」
軽い調子で会話を熟し、和は観葉植物の世話へと戻る。
玲奈は後ろから和を抱きしめた。学生兼モデルである玲奈は和よりも頭半分ほど背が高い。玲奈は和のつむじに鼻を擦り付けた。
「は、恥ずかしいのでやめてください」
「いいじゃん、減るもんじゃないし」
玲奈は和の腰のあたりに巻き付けていた腕を持ち上げ、そのたわわに実った果実を揉みしだいた。
「あ、あの、それは本気でやめてほしいです」
「……はーい!」
玲奈はパッと手を離す。悪戯が成功したようなニンマリとした笑みを浮かべていた。
その後も和はセクハラをあしらいつつ作業を進めていく。
「じゃあさ、ハニー的にはどこまでならやっていいの?」
「……玲奈さんには教えません」
「え-いいじゃん教えてよー……と、およ?」
じゃれる玲奈は和の首筋に小さな痣を認めた。
注視すると、それはどうやら唇の形であるらしい。
玲奈は蠱惑的に目を眇めた。
「ふーん、誰だか知らないけど、あの娘らもやることやってんじゃん」
「どうしました」
「いや、なんでも……これ、自分もやっていいよね」
ちゅっ。
「ひやっ、玲奈さん何かしました!?」
「いんやー、なんにも?」
「絶対嘘ですよね。今、首のあたりがぞわぞわってしましたよ」
「なーんにもやってないもーん」
ニシシ、と猫のようなアーモンド形の瞳を弧にする玲奈。
和の首には瑠璃が付けた痕を上書きするように、口紅が乗っている。
部屋の隅に置かれたガジュマルが、ハラリと一枚、葉を落とした。
◇
玲奈と和が知り合ったのは、まだ玲奈が駆け出しのモデルとして活動を始めた昨年の初夏にまで遡る。
もともとサボり癖があった玲奈は仕事のない日は学校へ登校するものの、大半の時間を屋上で過ごしていた。
今日も今日とて揺蕩う雲を眺めるだけの一日になるかと思われたが、その玲奈の予想は唐突に、あっけなく裏切られた。
今まで玲奈以外の誰も開けたことがなかった屋上の鉄扉が、重たい音を立てて開かれたのだ。
「あ、こんなところにいたんですか」
「……誰?」
「えっと、四芽玲奈さんですよね。私は四芽さんのクラスで学級委員をしている六花和といいます」
「あー、もしかしなくても先生に頼まれて私を連れてこいって言われたわけ」
「そうですね、なんだか今日は先生の機嫌が悪くて、『四芽を連れて来い!』って言われちゃいました」
「へーそれは災難だったね。というか、なんでまた急に。自分、授業をエスケープしてる以外に悪いことしてないと思うんだけどな」
「……それが原因だと思います」
「あはは、かもねー。でも、悪いけど教室に戻る気はないかな」
玲奈はガシャン、とフェンスに背を預ける。持っていたコーヒーパックをストローで啜ると、その中身はほとんどなくなっていた。
「ありゃ、無くなっちゃった。新しいの買ってこなきゃ」
「あ、じゃあ私もついていきます」
「委員長も来るの? でももうすぐ昼休憩終わる頃じゃない?」
「いいんです、四芽さんを探すのに時間をかけすぎてお昼ご飯食べそびれちゃいましたし。貴重品は身に着けているので財布もありますし、学校から出てコンビニにでも行きませんか」
「おおっ、大胆だねー。優等生なのは見た目だけか~?」
「ふふっ、私にもサボタージュしたくなることがあるんです」
「んじゃ、二人でお出かけと洒落込みますか!」
二人は他人の目を潜り抜けながら学校を脱出する。和は不良行為にまるで慣れておらず、始終へっぴり腰であった。その姿を玲奈は可笑しく思いながらも、どこか愛着を抱き始めていたのだった。
再び屋上に戻ってきた玲奈と和はコンビニで買ってきたサンドイッチを口に運んでいた。彼女たちの下には玲奈が持ち込んできたレジャーシートが敷かれている。
「こうやって他人と一緒にご飯を食べるのって久しぶりかも」
「そうなんですか」
「実家飛び出して一人暮らしだし、仕事だとご飯食べる時間ないから適当におにぎりとかで済ませるし、学校では一人でフケってばかりだったからね」
「なるほどですね」
「でも、悪いものでもないね。こういうの。あ、もしかしたら可愛い子と一緒に食べてるからかな~?」
「ふふ、そうかもしれませんね」
玲奈の冷やかし半分、本心半分の言葉を和は嫋やかに微笑んで受け止める。
その大人びた包容力に、玲奈はドキリと心臓を撥ねさせた。
「四芽さんって学校がお嫌いなんですか?」
「ん、いや、そういうわけではないよ。嫌いだったらこうして来てないだろうし」
「学校には来るけれど、授業は受けない……ということですか」
「なんていうかな、言語化するのが難しいんだけど……」
あー、と間を置き、玲奈は語り始める。
「自分さ、人が苦手なんだよね。基本的に他人を信用できないっていうか、何を考えてるか分からない赤の他人と空間を共有したくないなって思っちゃったりすんの。狭い部屋に人がギュッと詰められた教室って、自分にとっては心地いい場所じゃないんだよね。勉強するだけなら自分一人でもできるし」
玲奈はパクリとサンドイッチを齧って一呼吸入れる。
「学校……というか今の社会ってさ、すごく協調性を求めてくるじゃん。学校での学びもそういう点が重視されてるから、トレーニングの意味も兼ねて狭い箱庭に人を閉じ込めてるんだろうけどさ……なんだかそれって悲しいなって思うんだ。人生なんて一回限りの一発勝負なんだし、苦手な人とかモノからは逃げたっていいし、逃げるべきなんだよ。なんでわざわざ強制されて嫌なことに立ち向かわなきゃいけないんだろう。人は困難に立ち向かうべきだとは言うけれど、たとえそれを乗り越えたとしても、その過程で傷ついた心は戻ってこないのにね」
と、そこまで述べて玲奈は顔を赤くした。
「ごめん、凄い支離滅裂なこと言ってる気がする。ま、まあ、とにかく、自分はそんな感じで授業には参加しないって感じ。あ、でも人の営みを見たり聞いたりするのは好きだからさ、こうやって屋上からなにしてんのかなーって覗いたりして、ます」
羞恥から尻すぼみになる玲奈の言葉。
対する和は、玲奈の言葉を全て受け止め咀嚼した。
「四芽さんの考え方、とっても素敵だと思います」
「……本当に?」
「もちろん聞く人が聞けば四芽さんの意見を否定する方もいらっしゃると思います。でも、私も似たような考えなんです。結局、人生は楽しんだ者勝ちですからね。他人に迷惑をかけない範囲で、労せず幸せになれるのならそれに越したことはないのかなって思います」
「……じゃあ、自分が授業を受けてなくても見逃してくれる?」
「はい。苦手なことを他人に強要できるほど私は徳を積んでいませんから」
「……そっか」
玲奈は靴を脱いでレジャーシートに仰向けになる。和も続くように、玲奈の隣へ寝転がった。
「空、綺麗ですね」
「うん、こうやってぼーっとしてるとさ、死んだら自分たちはどこに行くんだろー、とかって考えちゃうんだよね」
「ふふっ、わかります。私も寝る前に考えたりしちゃうときあります」
「そんなこと考えても答えなんて出ないんだけどさ…………。もっと女子高生らしい話しよっか」
「ですね」
他愛のない話をしながら、ゆったりと流れゆく雲を追う。
玲奈と和の瞼は徐々に重たくなっていった。
いつの間にか寝落ちてしまっていた彼女たちが目を覚ましたのは六限のチャイムが鳴った頃。
「見事にサボっちゃいました」
「だね。一応、先生に謝りに行っておこっか」
玲奈は、ぐっ、と伸びをすると息を吐いた。
「もう自分に付き合って、サボったりしちゃだめだよ委員長さん?」
「……そうですね、癖になっちゃいそうです。でも、休憩時間とか放課後とかは隙を見て屋上に遊びに来ますね」
「……委員長見てるとさ、もうちょっと他人を信用してもいいのかなって思えてきちゃうや」
この後、和の所属する同好会へと加入することになった玲奈。仕事と学業の両立をしながら、着実に和との仲を深めている。
◆
「それにしても、毎日毎日、よくもそんなにドンパチやってられるよね」
下校時間を迎えて和と別れた玲奈は屋上で一人、コーヒーを啜る。
玲奈が見ているのは校門付近で駆け引きを行っている蘭と凛の姿。しかし、和は既に瑠璃と肩を並べて下校していた。
「自分は争いが好きじゃないし、独占欲もそんなに強くないしなぁ」
唇についたコーヒーを舐めとりながらぼやく。
玲奈はパーカーのフードを被ると踵を返した。
「最終的に自分のところに来てくれれば何も文句はないということで」
苛烈を極めるヒロインレースを鼻で笑う玲奈。
『姫サー』と呼ばれる同好会の中で最も余裕がある人間は紛れもなく彼女だろう。
◆
金曜日。
例の如く『観葉植物同好会』の戸を開けた和は、ソファに身を預ける先客に目を丸くした。
「ロロちゃん?」
「ん、ノドカ」
「こんにちは。お久しぶりですね」
「先週の土曜日ぶり。今週はずっと動きを制限されてたけど、今日はロロが封じてやった。ぶい」
「……?」
「とにかく今日はロロ以外の人は来ない」
「そうなんですか……ええっと、とりあえずお茶でも出しましょうか」
「んん、いらない。それより、だっこ」
ロロと呼ばれた少女は両手を伸ばす。
彼女の名は五実 ロロ。腰のあたりまで伸びた栗色のくせ毛と、常に眠たげな半眼が特徴的な美少女である。彼女は付属の中学校に通う二年生だ。低い身長と、もこもこのカーディガン姿はさながら人形のよう。
和はロロをひょいっと抱き上げる。
「ん、ノドカちからもち」
「ロロちゃんが軽すぎるんですよ。ちゃんと食べていますか?」
「んん、最近は絵ばかり描いてるからそんなに食べてない」
「ダメですよ、大切な成長期なんですから」
「ノドカにだっこされたいからこのままでいい」
「大きくなっても抱っこはしてあげますから、ちゃんと食べてください」
「んー、ん……」
分かったような分かっていないような曖昧な返事をするロロに、和は苦笑した。
「さて、今日の作業は……」
「もうやっておいた」
室内に飾られた観葉植物たちは水やりも手入れも掃除も完璧な状態であった。
ガジュマルも威厳のある姿で存在を示している。
「わ、ありがとうございます」
「朝飯前。花のお世話するの楽しい」
「そう言っていただけると私も嬉しいです」
そこからは和とロロによる穏やかな時間が流れていく。
ロロを膝枕した和はぼんやりと観葉植物たちを眺めていた。
「ノドカ、下ろして」
「どうかしましたか?」
「絵を描きたい。準備する」
「いいですね。テーブルを除けますね」
ロロは徐にむくりと体を起こすと、そのまま荷物の中から組み立て式のイーゼルとキャンバスを取り出した。
「今日は何を描くんですか?」
「ノドカを描く」
「私ですか。人物画ですね……あ、観葉植物を添えたりしてもいいですか」
「もーまんたい」
和は手早く会場を作り上げると、見栄えの良いストレリチアを傍らに置いて居住まいを正す。
「それではよろしくお願いします」
「ん、こちらこそ、よろしく」
サーっ、と黒鉛が布を擦る音が響く。
緩やかな空気が流れるこの部屋は、この時確かに二人だけの世界であった。
◇
和とロロの出会いは昨年の冬、クリスマスを間近に控えた日にまで遡る。
スケッチが趣味であるロロは、早朝の河川敷を訪れていた。枯れた芝生と鉛色の空、灰色に照り返す川の水面。とても描写には向いていないように思えるが、ロロにとっては絶好の穴場だった。冬の曇天というのは風景の変化に乏しく、精緻で写実的な画風を得意とするロロにはうってつけなのだ。
川のほとりで画材を広げ、スケッチに移る。
一時間、三時間、五時間、没入したロロは休憩も食事も忘れてひたすらに描き続けた。
十時間ほど経過したところで作品は完成。
「ん、まあまあ」
絵を眺めて評価づけるロロ。
ぐっ、と伸びをすると腰のあたりでポキポキと小気味のいい音が鳴った。
「寒い。お腹空いた。帰ろう」
絵を描き終えた途端、思い出したように北風に身を竦ませたロロは、片づけをしようと腰を上げた。
────────しかし、
「────────えっ」
ぐわん、と視界が揺れてバランスを崩す。
立ち眩みだとロロが自覚した頃には、彼女の眼前にまで水面が迫っていた。
ザバン、と飛沫を立ててロロは川に落ちた。溺れまいともがくが、その足は水底に届かない。見た目以上に深く流れが早いため、ロロの身体は簡単に水力に絡めとられた。
身を切るような冷たさを感じる余裕もないままに、彼女は意識を手放した。
次にロロが目を覚ましたのは病院のベッドであった。
「知らない天井……」
ロロが上体を起こすと傍らには看護師。話を聞くところによると、どうやらロロは一命をとりとめたらしい。溺れていたところを助けられたのだとか。低体温症と打撲の治療のために一周間の入院となった。
翌日、ロロの病室を訪れる人物がいた────和だ。
「ん、お姉さんもしかして、助けてくれた人?」
「はい、始めまして、六花というものです。体調は如何ですか?」
ロロは看護師から概要は聞いていた。川からロロを引き揚げたのも、救急車を呼んで病院まで付き添ってくれたのも一人の少女だということを。
ロロの予想は当たりだったようで、和はロロの調子を案ずる。
「もう大丈夫、元気いっぱい」
ロロは万全とは言えなかったが、命の恩人の手前、見栄を張った。ロロの言葉を聞いた和は安心したように口元をほころばせる。
それから面会時間いっぱいまで話し込んだ後、和は病室をあとにした。
その日以降、和は毎日病室を訪れ、ロロが回復し、退院する頃にはすっかり姉妹のような関係になっていた。
「ロロちゃんは絵を描くのが好きなんですか?」
「ん、好き……あ」
クリスマスの日。公園のベンチで二人並んで世間話に花を咲かせていたところ。ふと、ロロは思い出す。自身が入院する原因の一端となったあの絵の存在を。画材も一緒に置いてきた筈だ。ロロはむむっと唸った。
「どうかしましたか?」
「画材と作品を忘れてた」
「あっ……えっと、川のほとりに置いてあったものですか? それなら応急的に私が保管していますよ。ごめんなさい、すっかり忘れていました……」
「おー」
和の提案もあってロロは画材を取りに行くことにする。
ロロが案内してもらった場所には家────広大な屋敷が広がっていた。
正門からしばらく歩いてようやく玄関にまでたどり着いたかと思えば、年若いメイドが二人を迎え入れた。
ロロは居心地の悪さを覚えながらも六花邸へと足を踏み入れる。
「あ……」
玄関には先日ロロが描いた風景画。額縁に入れられ、豪奢な屋敷に溶け込むように飾られていた。
「すみません、勝手に持ち出すような真似をして……。絵はこのままお返しします」
「んん、いい。飾ってもらえて嬉しいから」
自分の作品が他人に、特に恩人である和に褒められてロロは内心小躍りしていた。
「いいんですか?」
「助けてもらったお礼」
「すごい……! 大切にしますね」
和は童女の様に顔を輝かせた。それだけロロの絵を気に入っていたということだろう、ロロは誇らしく思いつつ、はにかんだ。
「ありがとうございます。本当に……素敵なクリスマスプレゼントになりました」
「────!! ロロの方こそありがとう」
両手を合わせて喜ぶ和を見て、ロロの心は小さく弾んだ。
◇
「描けた」
「わっ、早いですね」
約三時間。放課後の観葉植物同好会での活動は終わりを迎えていた。
和が絵を覗き込むと、そこには和と色彩豊かな草花たちが描かれていた。
「素敵です……」
「むふー。もっと褒めて」
「凄い、凄いですロロちゃん!」
ロロは、和に褒めてもらえるこの時間が一番好きだ。
本人は自覚していないが、かなり和に依存している。
「次は裸婦画を描きたい」
「そ、それって……」
「ノドカがモデル」
「は、恥ずかしいです!」
「ノドカおねがい」
「う、うー、外ではできませんからね!」
「ん、次にノドカの家に遊びに行ったとき。約束」
たじろぐ和をよそに、ロロは満足げに腰に手を当てる。
小さな画家は、誰よりも穏やかに、和との距離を縮めていた。
◆
「うーん、どうしたものか……」
『同好会日誌』とにらめっこを繰り広げる和は、家の自室で息を吐いた。
思い返すのはこの一週間の出来事。日替わりでやってきた部員のことを思いながら、再度溜め息を吐く。
「どうすれば同好会をもっと盛り上げられるでしょうか……」
趣味で始めた同好会ではあるが、会長である和は活動に対して真剣だった。あずかり知らぬところで会員たちが足の引っ張り合いをしている間も、和は常に同好会へ思いを馳せていた。
「合宿でもして、会員の皆さんとの仲を深めつつ、意見を聞いてみるのもいいかもしれませんね」
それは悪魔的発想であった。
和にとっては純心たる考えであったのだが、他の会員からしてみれば血で血を争うイベントだ。
◇
翌々週の土曜日。老舗旅館の前に、六人の美少女たちが肩を並べていた。
「ちょっと、何を当たり前のように和の隣を陣取っているの? 殺すわよ?」
「そちらこそ、和さんに触らないでもらえますか? 和さんが汚れてしまうので」
凛と瑠璃が、和を挟んで火花を散らす。
「ガキ……お子様は帰った方がいいんじゃないかな」
「そっちこそ。帰れ」
蘭とロロが睨み合う。
「あーあ、やっぱりこうなっちゃったか」
「あ、その、皆さんどうしたんですか、仲良く、仲良くいきましょう! えいえいおー!」
玲奈は楽しそうにカラカラと笑い、会員同士のいがみ合いを見た和は目を回してその場を取り繕おうとする。
姫サーの姫を懸けた姫たちの大規模な戦争が始まろうとしていた。
人物紹介
六花 和
物語の中心にいる姫サーの姫。隠れ万能超人。桃色の髪に抜群のスタイル。
激しいスキンシップに慣れている分、恋愛感情には鈍感。人間関係の機微にも鈍感。でも可愛いから許される。
趣味は何かを育てること。ゲームのレベリングなども好きなようだ。
一葉 蘭
ヒロインその一。白髪碧眼。まな板。
暴漢に襲われていたところを助けられてから和にぞっこん。妄想癖あり。
ディジタルに強く、ヒロインたちの妨害工作はお手の物。和の監視もお手の物。
二葉 凛
ヒロインその二。金髪ツインテ。
桜咲く季節に和へ一目ぼれ。その点では意外と乙女。恋愛も私生活もガンガン攻めるタイプ。
蘭とは従姉妹の関係であるが仲が悪い。ヤンデレ気味。
三根 瑠璃
ヒロインその三。黒髪長髪。
絶対不動の幼馴染ポジション。逆境を乗り越えて和との再会を果たした。財力は凛と比肩してピカ一。
以前までは正妻の余裕を見せていたが、最近は若干焦りを覚え始めている。幼馴染は負けヒロイン、と言われると激怒する。ヤンデレ。
四芽 玲奈
ヒロインその四。髪色は仕事で変化するが、最近は金髪におさまっている。脚が長い。
今を時めくトップモデル。他人と群れるのを嫌い、ヒロインレースにもあまり興味がない。
気分屋の猫と一匹狼が一緒くたになったようなカッコいい女の子。実は頭がいい。
五実 ロロ
ヒロインその五。茶髪のくせ毛とジト目が特徴。中学二年生。
絵を描くことが趣味で、将来の夢はイラストレーター。感情表現は苦手だが、和に甘えるのは上手。
和に対しては恋愛感情というよりも家族としての親愛感情を強く抱いている。でも独占欲は強い。
ヒロインレースを勝ち抜くのは誰だ…・…!!