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後日談 side京


 梨緒ちゃんの件が一段落し、冬休みへと無事に突入した。

 あれから三日たって、遠野と、それから生徒会長……京がオレの家へ来た。

 ちなみに何故オレの家かという理由。

 京が暴れたら片付け大変だから。

 とのこと。これがオレの彼女が言った台詞である。

 泣きたい。

 ちなみに京は遠野に会ってそうそう、遠野に抱きついていた。

 オレでも滅多に抱擁などされないのに。

 まあ、あんなことがあってからなら、最低なオレも黙って見ているさ。

 遠野から離れたときの京の一言に、拳を強く握ったけれど。

 柔らかくて大きいって。

 なんの感想だよ、うらやましい。

「ちょっと、やらしいこと考えてるんじゃないでしょうね」

 オレがしらばく部屋で黙っているので、遠野はオレに問い詰めてきた。

 問い詰めると言うか、これ拷問だ。

 今オレ首しめられている。酸素の供給量が急激に減っている。

「このカップルも相変わらずだねー」

 京はのんきにそんなことを言っている。

 いや、確かにこんなこと、いちいちリアクションをとっていてはきりがないだろう。

 あ、ちょっと待って、意識が。

 マジで意識が遠のいて……


「松川くんとには、ちゃんとまっすぐな愛をあげなきゃだめだよぉ」

 わたしはのんびり言いながら、松川くんが律儀に出してくれたココアをいただく。

「ストレートでしょ、アタシの愛」

 ベッドに座りながら、後ろで意識を失って寝転がっている松川くんの頬をつつく。

「ストレートって、それ技名だよね」

「ま、それもあるかも」

 遠野ちゃんはそう言って、ふくふくと笑う。

 手はいつでも凶暴だけど、遠野ちゃんも幸せそうに笑えるようになったものだ。

 親友の成長を、少しほほえましく思った。

「……三学期は、ちゃんと学校に戻るの?」

 遠野ちゃんは、現実的なことを突き出してきた。

 さすがは遠野ちゃん。ぬかりないなあ。

「うん、戻るよ。ちょっと、戻りにくいけど」

「そ。ならいいわ」

「……」

 わたしはきょとんとした顔で遠野ちゃんを見た。

 遠野ちゃんは、その顔に反射したようにきょとんとした顔をした。

「何よ、その顔」

「いや、なんか、あっさりしてて」

「アンタが元気なら、アタシはそれだけで良いの」

 遠野ちゃんは言って、大きなため息をつきながら寝転がる。

 もちろん、遠野ちゃんのうしろには松川くんが寝ている訳だから、遠野ちゃんは松川くんの腹部にダイブしたような形になるのだ。

 瀕死の彼にも容赦ない。

「戻ってきてくれて、嬉しいのよ」

 遠野ちゃんは呟いた。

「ふーん」

 わたしは、ココアを飲んだ。

 あったかいなあ。

 思う。

 ありがたいなあ。

 わたしは、弟のお墓を見たときには泣けなかったけど、今なら泣けると思った。

 でも泣かない。

 こんな正直で可愛い遠野ちゃん見せられちゃったら、泣けないよ。

 笑いながら泣くなんて、ちょっと失礼だもんね。

 わたしはココアが入っていたコップの底を眺める。

 零になった気がする。

 何もなくなった。

 でも、ここからまた始められる気がする。

 本当に、そう。

「……そういえば、現生徒会長さまは元気?」

「んー、梨緒ちゃんと仲良くよろしくやってんじゃない?」

 遠野ちゃんは寝転がったまま、眠そうに返す。

「へえ、よくあのお兄ちゃんが許したね」

「啓悟ねー。啓悟、意外なところで達観してくれてるからね」

 よいしょ、と遠野ちゃんは起き上がる。

 それに遅れて、松川くん蘇生。

 いや、幽体離脱かも。

「竹くん、ちょっとは男前になった?」

「まだまだヘタレですよ」

 松川くんが肩をすくめながら応える。

「アンタよりは全然」

「遠野が女王様すぎるんだろ」

 珍しく松川くんが遠野ちゃんにかみつく。

 しかし、遠野ちゃんの睨みは怖いね。一瞬の反抗だったね。

「ま、王子様は、お姫様を悪の魔の手から救いました、と」

「めでたしめでたしー」

 わたしはにっこり笑う。

 遠野ちゃんも、目を細めて微笑んだ。

 松川くんも、仕方なしというふうに。

 これから、寒い寒い冬が訪れる。

 でも、竹くんや、松川くんたちは、これからだって春なんだろうな。

 芽生え始める小さな、ささいな芽を、わたしは、静かに見守っていよう。

 この冬の、温かな雪の中で。

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