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離婚編 03

啓悟からの電話をもらった翌日。

結局問題集もあれから手をつけることもなく本棚に戻し、そのまま布団に入った。

そうして起きたのが、四時だった。

もちろん夕方ではない。朝だ。早朝だ。

……眠りが浅い。

でも頭はとてもすっきりとしている。このまま二度寝、ということはさせてくれないらしい。

俺はのろのろと思考しながら頭をかく。

どうやら俺は梨緒のことが気になっているらしい。

いつものこと。毎年のことだと知っている。

俺は梨緒が毎年ああなることを分かっている。

なのにどうして今年は、こんなにも不安で、心が揺らぐのだろう。それに、あの電話。

啓悟が、言っていた様子が変だという言葉。

啓悟は梨緒に関してのことは誰よりも早く気付くし、誰よりも対処がうまい。俺はそう思っている。その啓悟が毎年ああなると知っていながら、あんな電話を寄越してきたのだ。今まで以上の何かが起こっているのか?

ああ、そんなことを考えていたら学校が煩わしくなってきた。

しかしこんなことがあっても学校には行かなくてはいけない。

まあそもそも梨緒にもさりげなくは聞きたいことはあるから、学校には行くが。いや、生徒会長が学校をさぼろうなどと考えていない。そして考えてはいけない。少し煩わしくなっただけだ。それだけだ。

うん、それだけだ。

……さて考えがまとまったところでどうしようか。

まだあたりは真っ暗で、日本には朝が来ていないことを知らせている。

しかし俺は起きてしまった。

少しあたりをみまわして、しかしみまわしたが若干視力が悪いのと視界が暗いのでめぼしいものも見つけられないため、電気をつけた。

ぱっと部屋が明るくなる。

しかし布団から出てしまったから寒い。部屋の中だと言うのに、だから冬は嫌いなんだ。

冬は、嫌いだ。

俺はまた考えが戻りそうになったから、とりあえず昨日やりそこねた問題集をやろうと本棚から引っ張りだす。机に問題集を広げ、寝巻きの上に厚手の上着を着込む。こうでもしなければ勉強するどころか凍死してしまう。

さて、六時まで進めるか。

意気込んで、俺は勉強を開始した。


オレはその時、起きた。

何か物音がしたのだ。

いつもなら些細な物音でも寝たままなのだが、なぜか今日は眠りが浅い。

頭をかいて、すくっと起き上がる。

時計を見ると、六時だった。

けれどまだ太陽はのぼっていなくて、部屋はうす暗い。

なんだろうか、母さんはこんな早く起きるはずはないし……梨緒?

そう思い立ったとたんに、体は動いていた。

あまりにも心配しすぎだという考えなんかなかった。

だって、オレは――

部屋を出て、隣の梨緒の部屋の扉を叩く。

返事はない。

寝ているのだろうか。いや、寝ているはずだ。

オレは焦りすぎて、扉を開いた。

怒られても良い。むしろ怒ってくれて良い。

だから――

扉を開き、梨緒の姿を確認しようとした。

したけれど、そこに梨緒の姿はなかった。

ベッドの上の布団は綺麗に整えられていて、しんと冷たい冬の空気が漂っているだけだった。

「梨緒……?」

今のこの光景が信じられなかった。

不安が、つのりすぎて。

あまりにも思い当ることが多すぎて。

怖い。

とっさにそう思った。

オレはすぐに家を飛び出した。

家の周りを確認する。誰もいない。

不思議なくらいに、恐怖をあおるように誰もいない。

心臓がやけに動いていて、その動きさえも邪魔で、とにかく梨緒の姿を探した。

駅まで走ったが、梨緒の姿は見つからなかった。

すぐに戻ってきて、自分の家の前で茫然と立ち尽くす。

学校に行ったのだろうか。でもなぜこんな時間に。

電車で行くといっても、学校まで5分程度だ。今学校に向かっても学校はまだ開いていないだろう。

じゃあ、どこに……

まったく頭が動かなかった。

どうすればいいんだ? オレは、どうすれば……

「……啓悟?」

ふと、後ろから声をかけられた。

オレははっとして振り返る。

そこには、制服姿の竹都が驚いた顔をして立っていた。

「……梨緒が」

「?」

「梨緒がいないんだ! どこにも……どこにもいないんだ……!」

すがりつくようにオレは竹都に言う。

竹都はすぐに察してくれたのか、すっと真剣な顔になる。

「とにかく落ち着け。お前、そのままじゃあ風邪ひくぞ。とりあえず家に入ろう」

オレは焦りに焦っていたが、もう頭もうまく機能してくれなくて、ただ竹都に背中を押されて家の中に戻ってきた。

すると、

「あれ、お兄ちゃん?」

玄関の扉をあけると、そこには梨緒がいた。

「え……梨緒?」

オレは目を丸くして、幻覚なんじゃないかと思った。

思ったから、目の前にいる梨緒が消える前にと、とっさに梨緒の両腕をつかむ。

「?」

梨緒はただ戸惑ったような表情をしているだけだった。

「梨緒、だよな……?」

声が震えていた。

「お兄ちゃん……どうしたの?」

梨緒は状況がつかめないまま、ただ不安げにオレを見ていた。

おかしいかもしれない。ただ梨緒が見えなかっただけなのに、こんなにも不安だったのはおかしいかもしれない。

「梨緒は、どこにいたんだ」

オレは梨緒に尋ねた。

梨緒が見つかっても、嫌な予感は離れない。じっとりとオレの背後にまとわりついている感じがする。

「え、私は……ずっと家にいたよ」

「嘘をつくな!」

オレが怒鳴ると、梨緒は怯えたように体を縮めた。

べつに怒っているわけじゃないんだ。でも、ただ本当のことが知りたくて。

「じゃあなんでさっき家にいなかったんだよ!」

「おい啓悟やめろ」

竹都が後ろからオレの肩を掴み、止めにかかった。

オレはそれで我に返り、梨緒から手を離す。

「……ごめん……梨緒……」

オレは俯き、ただそう呟いた。

「とりあえず寒いから、家に入ろう。話はそれからだ」

竹都はそう言ってこの場を収め、オレの背中を押して促した。

オレは梨緒の顔を見ることもできず、ただそれに従った。



なかなか多忙で時間を見つけられず……久しぶりに更新です。

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