表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
84/100

離婚編 02

刺すような寒さの中、家に帰ってきた。

いつもと変わらない家。

なのに、私は。

私の胸はとてもドキドキしていて、自分の家に帰ってきた安堵感なんてものはなかった。

どこか、すべてがよそよそしい感じ。

見る世界全てがやけに暗かった。

とても、怖かった。

「……」

何かを吐き出してしまいそうになるのを必死でこらえたせいで、ただいまの一言も言えなかった。

けれど扉の音で気付いたお兄ちゃんが、明るい声で私を迎える。

「お帰りー!寒かっただろ、早く炬燵に入るんだ!」

お兄ちゃんが、いつものように温かく私を迎えてくれた。

私は震えそうになる声を必死に張って、お兄ちゃんの顔をひょこりと見る。

「ただいま。あの……お母さん、帰ってきてる?」

「え?まだだけど……」

お兄ちゃんは私の質問に不思議そうに答えた。

「そう、だよね……」

残業じゃなくても、お母さんはこの時間には帰ってこない。まだ、仕事をしている時間だ。

私は、頷いて、二階に行く。

「あれ、梨緒ー。お兄ちゃんの胸に飛び込んできてくれないのかー」

お兄ちゃんの声が追いかけてきたけれど、立ち止まることはしなかった。

ただ、胸の高鳴りを抑えられないまま。

二階に上がったら、すぐにお母さんの部屋へ入った。

暗いままだったけど、電気をつけることも忘れていた。

お母さんの部屋の本棚にすぐに駆け寄り、その中からアルバムを探す。

家族で撮った写真があるアルバムを見つけ、すぐに手に取り開く。

でも、私の求めている写真はなかった。

いや、あるほうが変だろう。

私たちに見られては、いけないものだろうから。

私たちが見ては、いけないものだろうから。

アルバムをしまって、他に写真がないか探してみる。たった一枚の写真が、隠せる場所。

次に机の中を見てみた。勝手に覗くのはいけないんだろうけれど、でも、確認しないと、

嘘だと言ってくれないと、私は怖くてたまらないのだ。

二つ目の引き出しをあけたとき、息が止まった。

そこにあった、私が探していたものを見つけたせいで。

それは家族写真だった。

私の家族の写真。

四人いた。

うちには、三人しか暮らしていないのに。

三人しか、いないのに。

でもそこには四人いた。

それに、少し雰囲気は違うけれど、その四人目、つまりは、お母さんと並んで映っている人は、


私がさっき話した男の人だった。




帰ってきて部屋で課題を片付けている時、啓悟から電話がかかってきた。

なんだろう、梨緒と一緒に帰らなかった説教でもしてくるのだろうか。

憂鬱感満々で出てみると、

「少し、聞きたいことがある」

と、まあとても落ち着いた前置きが聞こえてきた。

「なんだ?」

「梨緒のことなんだけど……」

「あぁ」

梨緒以外の話を聞いてみたいところだが。

「今日、梨緒何かあったか?」

「?どうしたんだ。何かあったのか?」

「いや、何かあったのか聞いているのはこっちなんだけど」

「だから、梨緒の様子が変だから、何かあったのかと聞いたんだ」

啓悟は少し苛々している様子で答える。

うん、今のは俺が悪い返し方をしたな。

梨緒のことで頭がいっぱいな啓悟は少し煩わしいことになると怒りやすいのだ。

「あ、ああ、別に、何もなかったし、変わったところもないはずだが」

「……そうか」

「様子が変って?」

「なんか、よそよそしいというか。何か、隠している感じだ」

「恋でもしたんじゃね」

「なにっ!?」

思いつめているようだったので、明るい話をしようと冗談を言ってみたら、予想以上に食いつかれた。

こういう話も禁句だな。

「誰だ、相手はどこの馬の骨だああぁぁあ!」

「落ち着け、すまん、今のは嘘だ」

「お兄ちゃん知らんぞ、お兄ちゃんは許さないぞ!」

「分かったかr」

「あれだけ大切に育ててきたのに、いやそれでもオレは梨緒を憎むことは!」

「うるさい黙れ」

「はいすいません黙ります」

とりあえず啓悟を落ち着かせて、

「とにかく、まあ多少は俺たちでも察せられることだろう。放っておくのが一番だ」

「む……」

そう。これはどうしても振り払えないことで、たとえ何かしてやろうとしても、俺がやったら梨緒を傷つけるだけだ。

この問題は、啓悟と梨緒二人の問題で。

問題は、当人じゃないと解決できないから。

そうして啓悟を説得し、しばらく他愛もない話をして電話を切った。

携帯を傍らに置き、開かれた問題集を見つめる。

しかし、取り掛かるような気力もなく。

頭の中には梨緒のことばかりだ。

何かしてやりたいのに、でも何も出来ないんだ。


これは、梨緒の問題だから。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ