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会長編 03

というわけで、俺たちは夏池宅で送りだす会の内容を考えている。

会長よりもすごいこと、と言っても、会長の発想は独特ででもみんなが喜ぶもので、……なんというか、会長って実はすごい人だったんだな、とは思った。

「会長さんが今までやって来て、一年生の私でも耳に入ってきたのが……クリスマスパーティーで、大きなクリスマスツリーを飾ったとか、年賀状を全校生徒に送ったとか、春休みの間に一人で校内中の掃除をしたとか……最後のは、噂だけど……」

「校内中の掃除……!?俺もそれは初耳だな……」

「せめて生徒会でするよね……」

いや、会長ならやりそう……うーん、やろうとしたが計画倒れの方がありそうだ……

「しかし、どれも予算が馬鹿になら無いものだなあ」

「会長さんのおうちって、お金持ちなのかな?」

「うーん……ありそうな、なさそうな……」良いとこの人ほど、あんな性格の人が多いような気もするが……

「先生から詳しく聞いたところ、出発するのは今週の金曜日。後期委員会の委員長受け渡しの会が終わったら、すぐに空港に向かうらしい」

生徒会長を俺に任せたらすぐ、学校を立ち去るということだ。つまりは三日後。

それはあまりにも……唐突だ。

でも俺には会長を止められる権利なんか無いし、止める気もない。

せめて、そんな俺でもできることをしよう。

あんな不安げな会長を、しゃんとさせて、送り出そう。

「たっだいまー。うおーさみぃさみぃ」

そう決意したところで、啓悟が帰ってきたらしい。

啓悟一人だけで何故かがやがやする。

「うお、二人で何してるんだ?」

リビングのテーブルに広がる紙を見、目を丸くした。

「会長が留学するって話……啓悟は知っていたか?」

啓悟が座るのを待つ前に、俺はたずねた。

啓悟はそれを聞いて鞄を下ろそうとしてそのまま二秒ほど、固まっていた。

やはり知らなかったのだろう。

俺は詳細を話そうと口を開いたが、先に啓悟が言った。


「……誰から聞いたんだ?その話」




弟は私の一つ下だった。

だけど時々、弟は私よりも、他の大人よりも大人びて見えるときがあった。

でも、近所の友達と遊んでいるときは、やっぱり小さな子供だったし、欲しいものが買ってもらえないときは、泣きながらぐずついていた。

結局本質は一緒だったんだ。

弟はやっぱりしょうもない子供だった。

私は、当時の私はそう信じていた。

実際に聞いたことはない。


あんたのそれは、演技?


そんなことは、絶対に聞かなかった。

答えを聞くのが怖かったんだ。

弟の口から、その答えを聞くのが怖かった。だってそうでしょ?

演技だよ。

あの幼いかおで、落ち着いた声で言われてしまったら、私の心は辛すぎて……

弟の目の前で、泣いてしまうだろうから。



「お兄ちゃんも、知ってたの?」

準備に必要なものを書き出していた梨緒が、手を止めて聞いた。

「……」

啓悟は困ったような顔をして、黙っている。

「……松川から聞いたんだ。松川は、もう知っていたかと思っていた、って……言った後に、青ざめてた」

「……遠野さんに、口止めされていたんだ」

あまり気乗りしない様子で、ぽつりと言った。

「遠野さんに?」

「事情は全く説明してくれなかった。ただ、竹都と梨緒、冬子には言うな、って」

じゃあ、冬子は今も知らないわけか……

「でも、あの遠野さんの剣幕はすごかった。鷹の目だな、あれは」

啓悟は思い出して、身震いをしていた。

遠野さんの鷹の目……想像するのさえ怖いな……

「まあまあ、ワケわかんない話なんだけどなー!」

いきなり啓悟が明るくでかい声を出してきた。

なんだこの切り替え。

「そうだよな。遠野さんも、会長と何か企んでるかもだし」

あの人もあの人で、悪乗りしやすいから。

「ま、でもあんま公にはしない方向が良いんじゃね?」

啓悟は足を投げ出し手を後ろにつき、適当に言った。

しかし俺にはそれが妙に引っかかり、なんでだよ、と少々低い声で聞いた。

啓悟は俺の異様な反応に多少目を丸くしたが、

「んー、……勘?」

と、さも当たり前のように言い放つ。

馬鹿らしくなってきた。

確かに、こんな分からないだらけの時に怒ったりするのはよくないな。と、自分を落ち着かせつつ、時計を見る。

只今の時刻は七時前。

と、そこで俺はとある静けさに気づいた。

周りを見渡してみる。

そこはいつものリビングで……

「どうした、急に」

啓悟が聞いて、梨緒はまったく見当がつかないと言うように首をかしげる。

あ、そうだ、分かった。

「あれ、夏池母は?」

「……」

「……」

聞かれた二人はお互いかおを見合わせた。

そして、二人同時に目を丸くし、次に顔を青ざめ、立ち上がる。

「ご飯の仕度しなきゃ!」

「……」

梨緒は言って、すぐにキッチンへ向かった。

啓悟は静かに座る。そして机に伏せ、拳を叩きつける。

「最後の最後でずれた……!」

「無理に梨緒に合わせようとするな!というか、あそこまで被っただけでも奇跡だから!」

お前らは双子か……

「双子なんかなったら梨緒とべたべたできちゃうだろー!同年代的な意味で!」

「あれー、心の中で言ったはずなのにー。あと同年代じゃなくても現在十分べたべたしてるからな」

加えてデジャヴだ。

「で、夏池母はどうしたんだ?」

「最近残業があって遅いんだ」

「へえー……まあ、このご時世、残業があるとか仕事が忙しいとか、嬉しいことだろうな」

「へ、嬉しいの?」

「……新聞を見てくるといいさ……」

もうこの子の相手してられない!

「よく分からんが、今日はもう帰れば?」

……え。

啓悟が、唐突にそんな、冷たいことを言った。

驚いた。

普通に驚いた。

啓悟の口から帰れ、なんて言葉出てくるとは思っていなかった。

「……いや、なんつーか、ほら、遠野さんが本当に絶対に言うな、つっててさ、それで……遠野さん的には、静かに見送る方が良いんじゃないかと思っていると思ってると思う……」

「思ってるが一つ多い気がする」

「うがー!本当にマジでなんかいろいろ分かんなくてただ勝手に想像しただけで混乱してるだけだから!オレにはなんか合わない感じだけどっ!」

啓悟はわたわたと一息に言った。

俺はその啓悟の慌てぶり、混乱ぶりに微笑し、テーブルの上にばらまかれた案の紙を集める。

「俺もよく分からないさ……でも、そうだな、今は、まだ大人しくしてるよ」

「お、おう」

啓悟は眉を寄せて頭の上にクエッションマークを浮かべながら頷いた。

全然分かってねえよ、こいつ。

案の定の馬鹿さにむしろ胸をなでおろし、俺は啓悟と梨緒に挨拶をして帰った。



弟は、きちんと保育園に行っていた。

私はまだまだ小さくて、やんちゃで好奇心旺盛な弟に手をひかれてた。私は本当はすごおく大人しい子なのだ。

でも、弟に出会ったときから、ちゃんと弟は守ってやらなきゃ、って、きちんとお姉ちゃんはやっていた。

だから、どこかに冒険に行こうとする弟の手を離すことは一度だってなかった。

おねえちゃん、向こうにね、大きなおうちがたったんだよ。

みてみて、おねえちゃん!ありさんが並んでる!

いつでもどこでもおねえちゃん、おねえちゃん。

流石に私はうんざりしていたけど、はしゃぐ弟の笑顔を見ていると、こっちも嬉しくなってきたんだ。



俺は誰もいない自分の家にただいまと言い、すぐに部屋に向かう。

家族がいないとかそいういうんじゃなくて、両親ともに仕事、姉はまだ大学でわいわいやっているだろう。

ということで一人なのだ。

部屋のドアを開き、すぐに私服に着替える。

そして、ベッドの上に寝転がる。

……いかん。

これはだめだ。風呂に入る時まで寝るパターンだ。

そう過去の過ちを思い出しながら、鞄の中から先ほどの書類を出す。

いろいろ案をだしてみたが、どれもありふれたものだ。

でも、こういうありふれたものでも、人の心は伝わるんじゃないか?

思いながら、ベッドの上に寝転がる。

……いかん。

ループだ。完全にこれはパターンに入っている。

俺はうとうとしそうな瞳をこすり、なんとか起きようとする。

授業中は全く眠くはならないのが良いのだが、どうも人が周りにいないとだらだらしてしまう。

一生懸命書類を見まわし、この中からせめていくつかは決定をしておきたい。

何せあと三日しかないのだ。むしろ、間に合うかどうかさえ怪しい。

委員会にも呼びかけをしなければいけないし、先生たちにも許可をとらなければ……

会長がやらなかったから、そういうことには慣れているが、みんな協力してくれるだろうか。

さまざまな心配ごとがあるが、今は何も考えずに突き進もう。

「……」

すでに寝る体勢に入っている脳で、俺は会長のことを思い起こす。

会長のあの不安げな背中。そして遠野さんの口止め。公にしないほうがいい。静かに送りだした方がいいんじゃないか。それはいったい、なぜだ?

何が理由で、そうなっているのだろう。

留学はすごいことだ。学力だって、決意だって。

隠さなければいけない理由があるのか?あの会長に?

「……だめだ、眠い」

そうだ。一人でぐるぐると考えていても何にもならない。

いくら一人で考えても、何も発展などしていかないのだ、この問題は。

というわけで、俺は寝る。




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