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風邪編

番外編です。本編に関係ないです。


梨緒が風邪をひいた。



どうしよう、死んじゃう(オレが)。




しかも母は仕事で明日に帰ってくると言う。

……あぁ、死んじゃう(オレが)。

とにかく梨緒に何かしてあげないと、と思い、とりあえず寝かせておいた。

ちなみにオレは幼稚園以来風邪をひいたことがないので看病の知識は皆無だ。

オレってば元気!

というわけで何をしようにも何もできない。何をすれば良いのか分からない。

でもやっぱり傍にいてあげなきゃいけないからー……今日は日曜日だから良いが、明日はどうしようか……梨緒を独りにするのはまずい……

そうだ、欠席をしよう。

オレは名案をだした。

梨緒の風邪は長引くから、保護者であるオレが看ていなければ……!

「お兄ちゃん」

ベッドから、弱々しい声音が耳に届く。

「梨緒、死ぬなよ!お兄ちゃんがついてるからな!」

「大袈裟だよ……お兄ちゃんも風邪うつっちゃうから、一緒にいない方が良いよ……」

「お兄ちゃんは心配ご無用だ!」

「……大丈夫だから」

梨緒は言って、熱で苦しいのに、オレに微笑んだ。

その姿がさらに痛み入る……はっ!

「うおぉぉお!なんて死亡フラグだ!あれだろ、あれ!一人で大丈夫とか行って一人にして、次に見にきたらもう既にこの世にいない……とかそういう話なんだろッ!」

「(頭きんきんする……)」

オレは力の限り叫んだ。

梨緒には寂しい思いをさせながら死なすわけには……!いや、そもそもオレは梨緒を死なせはしまい……!

「一生ここにいるぞー!」

「……」

……え。

え、なんか無言で布団被っちゃった……

まさか、まさかお兄ちゃん嫌われた!?

オレは有り得ないほどの絶望に苛まれる。

「り、梨緒ぉ……」

恐る恐る梨緒の名前を呼ぶ。

「……」

返事がない。ただのしk……いやいやいや、いらないことをつい口走ってしまった……

……

それでも続くこの沈黙!

悲しいとしか言いようがない。

お兄ちゃんは退散した方が良いのか……?

「……り、梨緒、まだ朝食べてないだろ」

「……」

「なな、何か作ってきてややるからな」

なるべく静かに、冷静にオレは言った。

そしてそっと部屋を出た。

……よし、気を取り直して、レッツクッキングだっ!



……おかしい。

おかしい。おかしすぎる。

悶々と考えながらオレは目の前にあるほぼ汁物状態のご飯を見る。

おかゆってどうやって作るんだ?え、おかゆってあれだろ、米が水浸しならぬお湯浸しになってるんだろ……?

なんでだろう。これは一体なんだろう。

「この気持ちはなんだろう」

「『春』かよ」

後ろから期待していた突っ込みが来た。

あ、え?なんで突っ込みが?

「なんの実験をしているんだ?」

振り返ると、竹都がいた。

「……不法侵入?」

「え、いつもこうなんですが」

竹都は言って、俺の目の前に展開されたおかゆ世界を一瞥する。

「……なんだこれ」

「おかゆ」

「……」

「もどき」

「もどきですらない」

断言された。

「もう飯汁だよ、これ」

「糊になるね!」

「梨緒に糊を食わせる気か」

「う、それは……って、え?」

なんで梨緒のためのおかゆだって知ってるんだ?

オレは竹都を見つめる。

竹都はオレの頭の上のクエッションマークに気付いて、口を開いた。


「……梨緒から連絡があったんだよ」




梨緒のメールが来たとき、俺は宿題をやっていた。

携帯が光ったから、俺は携帯を見てみた。

そこには、

『風邪をひいただけで死んだりしないよね?』

という梨緒からの謎の文章。

『いや、死なないだろ』

普通に突っ込みを入れた。

しかし朝だからといって梨緒が寝ぼけている訳でもないだろう。啓悟じゃあるまいし。

誰か風邪をひいたのだろうか。

啓悟……という線はまず無い。母親は明日まで帰ってこないというし……

だったら、梨緒か。

『風邪か?』

聞いてみた。

……返事が来ない。

寝てしまったのだろうか。

すると、電話がかかってきた。

「……」

画面に表示された文字は、梨緒。

状況を把握できていないも、俺は電話に出た。

「あの」

梨緒が先に切り出した。

が、布団を被っているのか、声がくぐもっている。

風邪をひいたのは梨緒か……

「はい」

とりあえず梨緒から言ってくれるまで待つことにした。

「風邪、ひいたら、ね……ッ」

!?

声が震えている!

泣いているのか……?

「死んじゃうってね……ッ、お兄ちゃんがね、言うからね……!」

「死なない、死なないから」

早口で訂正をする。

こんな調子じゃきっと熱も高いんだろうな……

「大丈夫だから、啓悟は?」

「……たぶん台所」

……

……何か調合しているに違いない……!

おかゆだろうな、きっとおかゆ作ろうとして失敗してるんだろうな。

「啓悟だけじゃ心配だから、俺も今すぐいくから」

「う……」

「うん、だろ」

「うぅ……」

「……」

「……うん」

「何か必要なもの……食欲はあるか?」

「……あんまり」

「体温計ったか?何か食べたいものは?」

「まだ……食べたいものは……ない」

「……じゃあ、体温計っとけ。必要なもの買ってくるから。水分とれよ。スポーツ飲料はあるか?」

「……ない」

「じゃあそれもだな」

てきぱきと指示を出しながら買うもののメモをとる。

「……ごめんなさい」

「……ん?」

小さすぎて聞こえなかった。

「ごめんなさい」

「……いいや」

俺は優しく宥めるように言って、じゃあな、と電話を切った。

そして、ため息。

肝心なことは、言わない。

いろんなことを言ってくれているようで、大事なことは言ってくれない。

それが梨緒なんだ。

それが彼女の良さだとは思う。

……けど。

「……けど」

俺は宿題を片付け、財布を持って、家を出た。


肝心なことを誰にも言わないまま隠せるほど、梨緒は強くないと、知っているんだ。



「というわけで、手伝いに来たというわけだ」

「……な、なんという救世主!早く梨緒の風邪を治しておくんなまし!」

「いやいやいや、看病だけだぞ、病気を治すという能力は俺にはないからな!」

「分かってる分かってる!」

相当不安だったのか、やたらとにこにこしながら俺の背中を叩いた。

痛いです……

「とにかく、おかゆは俺が作り直すから。この袋に熱冷ましシートとか飲み物が入ってるから、梨緒に渡すついでに熱の具合でも聞いてきてくれ」

「了解だ!」

啓悟はきびきびと動いて、二階へ行った。

さて、俺はおかゆを作りますか。


「……梨緒は?」

おかゆを作り終えた頃、啓悟が二階から戻ってきた。

「寝てるぞ」

「そっか……起こすのは悪いが、ご飯はちゃんと食べてもらわないといけないからな……」

「じゃ食べさせてくるー」

「お前じゃ駄目だ」

おかゆを持っていこうとする啓悟の手を止める。

「えー」

「熱いから、火傷したら大変だろ」

「え、どっちの心配?」

「残念ながら両方だ」

「なぬー」

ぶうぶう言ってる啓悟を置いて、俺はおかゆを盆に乗せて二階に上がった。

梨緒の部屋のドアをノックする。が、やはり返事はない。

「入るぞ」

ドアを開くと、梨緒はベッドの傍らに置いてあったらしいぬいぐるみをいじっていた。

「おいおい、寝てなきゃ駄目だろ」

「あ、竹お兄ちゃん」

「まあ、丁度良い。おかゆ作ったから、これ食べて、しっかり寝なさい」

「……竹お兄ちゃん」

俺はベッドの横の小さな机に盆を置く。

「……なんだ?」

梨緒は、ずっとぬいぐるみを見ている。梨緒の小さな額には、べたりと熱冷ましシートが張ってあり、梨緒がひどく小さな子供のように見えた。

「どうした」

良く分からないが、俺は優しく宥めるように聞いた。

「……なんでもないよ」

梨緒は、そう言って、笑った。

丁度、あの時のような。

遊園地の観覧車の中で見た、あの寂しそうな、でも日だまりのような笑顔。微笑。

前にも見たことがある。確かに俺は、見たことがある。

いつだったか。

……いつだっただろうか。

よく思い出せない。まあ、いいか。

俺はその不思議な引っ掛かりを楽観的に考え、流すことにした。

「熱はどうだった?」

「三十八度」

「高いな……食欲はなくても、少しでも胃に入れなさい」

そう言って、俺はおかゆを勧めた。

「うん……」

梨緒は曇った顔で、ぬいぐるみを手放し、おかゆをのろのろと持ち上げる。

そして、一口。

「……」

熱が高いから味覚が薄れているのだろう。眉をひそめたまま、もぐもぐと口を動かしている。

梨緒が食べている間、ぬいぐるみを見ていた。幼稚園児が持っているような柔らかい生地の、うさぎのぬいぐるみ。

そういえばこのぬいぐるみ、俺が梨緒と出会ったときから大切そうに飾っている。

何か深い思い入れでもあるのだろうか。

「……」

色々考えていると、梨緒がお盆におかゆを返した。

半分は食べてくれたようだ。

「……ごめんなさい」

決まり悪そうに、梨緒は謝った。

「いえいえ」

俺は目を伏せながらそう丁寧に、冗談めいて言ってみた。

そうしたら梨緒は、少しは気が楽になったのか、弱く笑った。

「さ、ご飯食べたら寝て治す!」

少し急かすように言って、梨緒を横にさせて深くまで布団をかぶせる。梨緒の顔の傍に、ぬいぐるみも置いてやった。

「じゃ、ゆっくり休むんだぞ」

釘を刺すように言って、お盆を持って部屋を出ようとした。

が、何気ない気持ちで、ふと振り返って俺は聞いた。

「そのぬいぐるみ、何か思い入れがあるのか?」

と。

聞かれた梨緒は、何故かいきなり布団を頭からかぶってしまい、

「……なんでもないよ」

とだけ答えた。

「……そうか」

少しきょとんとしながら、俺は部屋をあとにした。



居間に戻ると、啓悟が机に頭を乗せて呆けていた。

「梨緒は?」

「寝た。……睡眠の妨げをするなよ」

とりあえず落ち着いたので、俺も一息つくことにした。

「……」

「……」

梨緒が元気じゃないせいか、啓悟もなんだか覇気がない。

「……啓悟、宿題とか大丈夫か?」

会話がないので、無理矢理話をすることにした。

「宿題なんか出るわけないじゃんかー」

「あぁ、そうか」

「ま、出てもやらないけどな、HAHAHA」

啓悟は力無く笑う。

……ホントに魂がおおかた抜かれてるぞ。

「……大丈夫か?」

「おお、オレのことは気にかけるなー……HAHAHA」

「その笑い方やめろ」

「む……つーか、なんかさみぃな」

「あぁ、確かに……もう秋だな」

最近は急に寒くなり始めた。だからきっと梨緒も風邪をひいたのだろう。

「……もう一年が終わるな」

「まだあと三ヶ月もあるぞ。いきなり老けんな」

「老けるとか言うなやー」

啓悟は頭をごろごろ動かしながら言う。

俺はくつくつと笑う。

「遠野さんは元気かな……」

「あぁ、松川は生きているだろうか……」

啓悟が呟き、俺が呟く。

文化祭から二ヶ月が経ち、松川から遠野さんの話は聞いている。……まあ、遠野さんに会った翌日の松川の顔が物語っているのだが。傷的な意味で。

「梨緒の風邪、早く治るといいなー」

啓悟は駄々をこねるようにわあわあと言った。

俺は、

「すぐ治るさ」

と宥めて、微笑んだ。



その翌日。しかも早朝。

啓悟から電話がかかってきた。

「なんだよ」

寝起きで少し機嫌を損ねながら、電話の向こうの啓悟に用件を訪ねた。

「あのな、あのな、あのなー!」

耳元で音割れするほどきんきんする声で、歓喜の声をあげる啓悟。

しかも、背後からはどたどたと階段を上る音がする。

まさか。

俺は部屋のドアを振り返る。

瞬間。


「梨緒の風邪が治ったあー!」


ドアを乱暴に開け、現れたのは啓悟だった。

「梨緒の熱がな!平熱にな!治ったんだよー!」

「うるさい」

俺は電話に言って、即携帯を閉じた。

「……朝からきいきいと……」

俺は嘆息して、頭から布団を被った。

「おいおい、良いのかー?今日は生徒会の集まりが朝にあるんだろー」

「……?」

集まり……?

時計を見ると時刻は六時半。

血の気がひくのを感じた。


「やっべえぇ!!」


そして早朝の春川家に啓悟以上の声が響いたのだった……





竹都忙しいねっていう話です。


しばらく本編進みません。ショートショートみたいなのをたくさん思いついたのでだらだら長く書かないで、短時間で読めるおまけ的なものを11月まで書いていこうと思います。

更新頑張ります。

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