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文化祭 04

「あの、本当にお任せしても良いのでしょうか……」

少なからずの罪悪感を感じながら、あたしは遠野さんにおずおずと尋ねる。

ドレスを脱いで制服になったため、随分息が楽だ。

遠野さんは気さくな笑顔で、ドレスの裾を整える。

背が高く、スタイルの良い遠野さんが胸やくびれがよく見えるドレスを着ると……悔しいけどよく似合っている。

「良いのよ良いのよ。アンタに悪い虫がつかないようにと……実はアタシもドレス着てみたかったとか呟いちゃったり」

ふふ、と綺麗に笑う。

あたしは時計を見て、あれから10分も経っていることに気付く。

「あ、あの、それではお願いします……!」

「はいはい、さっさと行きなさいな」

遠野さんはにっこり笑ってあたしを見送ってくれた。

あたしは軽く会釈をして、走って生徒会室へ急いだ。



「さて、宣伝してまいりますかな」

アタシは長くてうざかった髪を高く、ラフに団子にして、そう自分に言ってみた。

うーん、興味本位で着てみたけれど……やっぱり苦しいわね……

アタシは大きく深呼吸をし、歩き出した。



「わあー!竹お兄ちゃーん!」

何か声がしたかと思うと、腰に何かが突撃してきた。

俺は後ろを振り返る。

そこには小さな頭と、白と青のドレスがあった。

梨緒だった。

「おお、梨緒……」

俺は久しぶりに梨緒を見た気がして、安堵の笑みを浮かべる。

梨緒が顔をあげてこちらを見ると、半泣きなことに気付く。

俺は驚いてばっと振り返り、梨緒の細い肩を両手で掴んだ。

「え、ど、どうした!?」

俺がいない間に一体何が!?

梨緒はびっくりしながらも、小さな頭をふるふると振った。

「ぜ、全然大丈夫だったよ……!ただ、一人が心細かっただけで……」

梨緒はそう言って、涙目ながらも微笑んだ。

「そうか……?」

多少疑いつつ、俺は手を離した。

「竹お兄ちゃんは見回りだよね?」

「あぁ……」

俺はひどく疲れた顔をして頷いた。

「……? どこを見回りするの?」

「……校内全域」

「……生徒会副会長も大変だね……(生徒会長さんの相手が)」

「あの人は一体いつまで生徒会長を続けるつもりなんだろうか……」

普通は一年生歓迎会あたりで生徒会長を二年生に譲るはず……生徒会長は受験とか大丈夫なのだろうか。

「そういえばそうだね。文化祭が終わったからかな?」

「いや、体育祭もやる気満々だったぞ」

「う、うーん……」

梨緒は困ったように笑って、何か思いついたようで目を丸くした。

「校内全域ってことは、一緒に文化祭まわれるの?」

そう、嬉しそうに弾んだ声で聞いてきた。

ああ、なんだかこういうのも久しぶりだな。

梨緒のこんな風にはしゃいだ姿を久しぶりに見て、つい顔がほころんでしまう。

俺はああ、と微笑みながら頷く。

「じゃあね、私クレープ屋さんに行きたいなー」

梨緒がそうリクエストを出した。

「そうか、じゃあ行くか」

俺はそう言って、クレープ屋の売っている三階まで行くことになった。

ここは一階だから、階段を上ろうと、梨緒と一緒に歩き始めた。

すると、周りの視線が痛い。痛いほど感じる。

なんだろうかとさりげなく周りを見ると、梨緒の格好を珍しがっているようだ。同じこの高校の奴も、どうやら間近で見て喜んでいるらしい。

俺はさりげなく梨緒と手を繋いだ。

「?」

梨緒はたいして気にした様子も無く、頭上にクエッションマークを浮かべて、その後に笑った。

いや、別に嫉妬とかそういうんじゃなくて、確かに一人でこの格好で、こんな視線で見られていたのは心細かっただろうなあという配慮であり、醜い嫉妬ではない。

ほら、きっと啓悟だってそうするだろう。

「おい、お前ら! 梨緒が可愛すぎて仕方ないのは分かるがそんなじろじろ見るな!」

違ったようだ。

いや、この変な金髪野郎でまわりに威嚇して怒鳴っているのもきっと人違いだろう。

「あ、お兄ちゃ」

「さあ行こう」

俺はさっさと梨緒の手をひいて階段を上る。

「おいおいおいおい、竹さん竹さん、オレの大事な梨緒をつれていったどこに行くというんだい?」

「クレープを食べに行く」

「素直に答えられるとちょっとへこむ……」

「あ、みーちゃん!」

評判の悪い高校の人が怒鳴り散らしたため、周りには梨緒を見る人がいなくなったようで、静かだ。その静かな中、置いていかれたのかそれとも梨緒を見つけてやって来たのか、実さんがいた。

「梨緒……きれい」

「あ、ありがとう……!」

梨緒は褒められた、と喜んだ。

「クラス展は大丈夫なの?」

「いや……喫茶店のウエイトレスをやっていたら、啓悟さんが……」

「へ」

啓悟は笑顔のまま固まった。

どうやら勝手に連れ出してきたらしい。

「え、それじゃあみんな困ってるんじゃない?」

梨緒が言うと、

「へ」

まだ固まっている。

「まあ、楽しいから良いと思いますが……」

「だよな! そうだよな、さすが実ちゃん!」

「いや、駄目だろう。実さん、こんな馬鹿の相手してないで、戻ったほうが……」

「大丈夫ですよ。わたしが啓悟さんとまわりたいとわがままを言っただけなので」

……俺はきょとんとして、その言葉に返事が返せなかった。

もしかして……そういえば遊園地の時だって、そんな感じが……

「ここで梨緒にも会えましたし、一緒に回りましょう」

実さんはそう啓悟に提案した。

啓悟はにっこり笑って、

「おうよ、梨緒、一緒にまわろーぜ」

「うん!」

どうやらこの四人で回ることになったようだ。

まあ、梨緒も楽しそうだし、良かった良かった。


「そういえばさっき、赤いドレス着た奴がいたんだけど、あれって梅田のはずじゃなかったか?」

クレープを食べ終わり、次は中庭にお店が集まっているようで、そこに向かっている途中、啓悟が不思議なことを言った。

「え、ふーちゃんだよ。私と同じで、ファッション部の宣伝のために着ているはずだけど……」

「でも、黒髪で、しかもすげえ背が高かった」

「梅田もそれなりに背が高いが……」

「いや、あれはオレと同じくらいだったな……」

「まさか、ふーちゃん急成長!?」

「それはない……」実さんがばっさりと切り捨てた。

梨緒はうぅーん、とうなって考えた。

「あ、そういえばさっき書記は食事の準備があるから生徒会室に集められてたよな」

「うん、じゃあ、それで他の人に任せたのかな?」

同じクラスの人だろうか……

そんなに背の高い女子なら覚えているようなものだが……いや、女子は全然記憶に無い。

そして俺たちは、中庭でその人と出会うのであった。


「……」

ヒマだわ。

あり得ないくらいにヒマ。

ドレスを着たまま歩くのも辛いし、回りの目はうざったいし、殴りたいし、よくあの子は耐え切れたわよねー。

なんて感心しながら、アタシは中庭に来た。

とりあえずここが最後だ。あとはあらかた回ったし、ファッション部の宣伝にも貢献できたんじゃないかしら?

なんて思いながら、とりあえずマナーの悪い我が高校の生徒にちょっとした制裁をする。

まあまあ、一、二発殴るくらいよ。

「ありがとうございます、遠野姉さん! お綺麗ですよ!」

男子生徒はそうきっちり九十度お辞儀をして、走ってどこかへ行ってしまう。

綺麗なのは当たり前だこの野郎。

アタシは心の中で呟いて、あと他にはいないかしらと周りを見渡すと、


「……」


唇をかみ締めた。

そういえば、アイツはこの高校だったわ……

アタシはそう思って、腹の中が煮えたぎり、怒りのまま、つかつかと彼に近づいた。

彼の周りにはうちの高校の女子がいた。

どうやらナンパらしいことをしているらしい。

アタシの可愛い後輩に何してくれるのか。

アタシはさらに怒りが増して、彼の背後に立つ。

「ちょっと、アタシの可愛い後輩に何ナンパしてんのよ」

そう、にっこりと笑って言った。

すると、彼は、大きく肩を揺らしてこちらを恐る恐る見てきた。

そこには、相変わらず腑抜けた顔があった。

「……と、遠野……」

アタシだと確認した後、すぐにきまずそうな顔をした。

「……久しぶりね、松川」


ネットが使えない状態になりわたわたしてました。そうしていたらいつの間にか夏休み終わるー!

そしてまさかのスランプ。

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