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文化祭 02

「さあさあ、ついに始まりました、文化祭!」

テンションがいつも以上に高い会長の声が体育館に響く。

俺は生徒会の仕事で放送を担当しているため、舞台上が見えない。

「今年の開会宣言は、あの可愛らしい一年と、美しい二年の女の子が担当してくれます!さあ、拍手で迎えましょー!」

大きな拍手とざわめきで体育館が震えた。

壇上が暗くなり、左右の舞台袖から青と赤が出てきた。

梨緒と冬子だ。

放送室の小さな窓から俺は二人を必死に追う。やっぱりここからじゃ見えにくいな……

と思っていると、

「あ、竹都先輩。今暇ですから、見に行っても良いですよ」

隣にいた生徒会の後輩が気を使ってかそう言ってくれた。

「え、良いのか?」

「はい。ほら、さっさと行く!」

半ば追い出されるように背中を強く押されて、俺は体育館に出る。

そして壇上を見ると、中央に並んで梨緒と冬子がいた。

その姿に、俺は息を呑んだ。

梨緒のドレスは青と白だった。淡い海のようなイメージの、少し幼さのあるドレス。そして片側の髪を団子にしたり、白いヴェールをのせていたり、ふわふわした妖精のようだった。

冬子のほうは梨緒とは対照的に作られているのか、赤かった。プロポーションの良い冬子に合わせて作られた、ドレスらしいドレス。ところどころに薔薇があり、それもまた華やかさを増していた。

二人は開会宣言を終えた後、こつこつと舞台袖に戻っていった。

俺ははっとわれに帰り、放送室に戻った。



「じゃ、今からは見回りの時間だよ。ちゃんと報告したものしか販売していないか、余計なものは売られていないか、価格は規定どおりか、などなど注意して見回りしてください。危ない人に会ったらとにかく先生を呼ぶこと!」

生徒会長がきびきびと指示をする。

今日は珍しくきちんと仕事をしてくれるようだ。

「じゃ、みんな群れて見回りしないようにね!」

可愛らしくウインクをして注意をし、それから生徒会は見回りの仕事に取り掛かった。

さて、俺はどこを見回るのかな。

と自分の紙を見てみると、

学校全域

と書いてあった。

「いや、おかしいだろ!」

つい一人で突っ込んでしまった。

いや、でもこれは仕方ない。だってなんで俺だけ学校全部回らなきゃならないんだ!

「会長、なんですかこれ、なんの罰ゲームですか」

「え、これは生徒会長ちゃんなりの愛の形だよ」

大真面目返された。

「何が愛ですか、生徒会長が仕事したくないだけじゃないんですか?」

「失敬な。これにはちゃあんと理由があるの!ほら、さっさと見回りに行くのです!」

背中を思い切り叩かれた。

俺はつんのめりながらも渋々歩き出した。

「あ、生徒会長ちゃんの良きライバルも来てるから、会ったら愛想良くしてねー!生徒会長ちゃんの居場所とか吐かないでねー!」

命でも狙われているのだろうか。

その注意を背中で聞きながら、適当に手を振って応える。

まあ、自由な人だから恨まれたりもするのだろう。とか、勝手な妄想をしてみた。



「ううん……」

私はうなっていた。

待ちに待った文化祭なのにうなっていた。

でも文化祭って友達とまわるものだから、今一人でいるわけだし、こんな文化祭は待っていないわけで……なんて一人で自分を説得してみる。それもむなしいなあ。

みーちゃんは新聞部の仕事(ネタ集め)で忙しいし、お兄ちゃんはまだ来ていないみたいだし、竹お兄ちゃんは見つからないし……

このドレスのまま文化祭を回るなんて思っていなかったし。

私は自分の姿を見下ろす。

青と白の淡いドレス。可愛いけど、可愛いけど……!やっぱり恥ずかしい。

開会式が終わった後、いきなりファッション部の人たちに言われたのだ。

ファッション部の展示ってそのドレスだし、どうせならこのまま文化祭をまわってファッション部の宣伝してきてよ!

と。

確かに目立つ。このドレスも私も……

私は複雑な気持ちになりながらも歩き出した。

まだ始まったばかりでこの学校の人しか見ないけど、すごい見られている……!

私は熱くなる顔を手で覆いながら、とにかく竹お兄ちゃんを探そうと思った。

竹お兄ちゃんに、このドレス姿を見せたかったのだ。

多分それは、運動会で一等賞をとった妹の気持ち。

綺麗になった私をみてほしいという、恋する女の子の気持ちではないのだ。

きっと。


しばらく気になっていた出し物を見に行ったりしていると、ある人に話しかけられた。

「あ、松川先輩」

「わあ、梨緒ちゃん!すっかり可愛くなっちゃったね。いや、もとから可愛かったから、さらに、かな」

「うふふー」

私はつい笑みがこぼれる。

「竹都とは一緒じゃないの?」

松川先輩はあたりをきょろきょろ見渡す。

私はふるふると首を振った。

「はい。今探しているところです」

そうして苦笑してみせる。

と、松川先輩はふうむ、と悩む仕草をした。どうしたのだろうか。

「こんな可愛い子を野放しにしておくなんて……知らない人に話しかけられたらどうするんだ」

なんて、大げさなことを言っていた。

「そんなことありませんよ」

「梨緒ちゃん、十分気をつけてね。オレは用事でそばにはいられないから……竹都を見つけたら梨緒ちゃんが探していたよ、って言っておいてあげるよ」

「あ、ありがとうございます」

相変わらずいい人だなあ……としんみり思いながら私は頭を下げる。

松川先輩はいいよいいよと手を振って、すぐにその場を去った。

それは急いでいるようにも思えて、少し罪悪感みたいなものが残った。

だけど、ちょっと一人で心細かったから、私は自然と笑みをこぼしてまた歩き出した。


「げ」

「うっわ」

最初があたし。

そしてその次があいつ。

お互い顔を合わせた瞬間この反応。本当に相思相愛ならぬ相思相嫌。なんて。

「何よ、会っていきなりうっわとか、こっちの台詞なんですけど」

「いやいやいや、お前嫌な顔しながらげ、とか言ってただろどっちもどっちだろ」

「ていうか何で松川がここにいんのよ」

「ここオレの学校なんですけど。そもそも文化祭なんですけど。お前もなんだよ、まだ着てんのかよ」

「これは仕方ないの!ファッション部の人に頼まれたんだから」

「へー、ま、興味ないけど」

「むかつく……!」

竹都を諦めた今でも、松川はあたしと仲良くするつもりは無いらしい。

しかし、なんか今日の松川は挙動不審だな……

そんなくだらない事に気付く。

「あ、オレはもう行くから。っていうか梅田ちゃんなんかと話すこともそもそもないし」

「……」

頭にきたけどここは黙っておこう。

あたしはこぶしを強く握り締めて怒りを静める。

「なんかあるの?今日」

「は?何もねえよ」

……ちょっと握ったこぶしが動いてしまった。

人が心配して聞いてあげてるのに、今の言い方はないわよね。

とぶつぶつ考えて、もう松川の心配をするのはやめた。

「あー、すみませんね、お忙しいところ引き留めて!」

「お前、これからしばらくその格好でうろつくのか?」

さっ、と、松川の表情が真剣になった。

あたしは不思議に思いながらも正直に頷く。

松川はそうか、と頷いて、決まり悪そうに口を開いた。

「あのさ、もし高飛車で偉そうな女が来て、オレのこと聞いても知らないと答えておいてほしい」

今まで悪さばかりしてくれてた松川だけど、あたしは松川のその真剣(というか必死の)眼差しに何も言えずに頷いた。

それだけ言って松川はすぐに小走りにどこかへ行ってしまった。

「……何よ」

ヒントがアバウトすぎるわ。

年齢も分からない……

あたしは大きくため息を吐いて歩き出した。

その直後に、その人と会うとは思わなかったのだけれど。

展開が早めです。

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