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番外 七夕編


今日は7月7日。七夕の日だ。どこかの地方では1ヶ月遅れるものらしいが、オレの家は、七夕は7月7日だ。

というわけでこの家の長男たるオレが、小さな竹を持ってきてせっせと短冊を作っているのだ。

毎年恒例なのに、毎年楽しみにしてくれる梨緒のためにも、お兄ちゃんは頑張っちゃうぞ。

机の上でいそいそと折り紙を切ったり紐を通したり。毎年やっているおかげでもう職人技になっている。

梨緒は今年はなんの願い事を書くのかなあ、なんて考えながら紐を通した。

小さい頃は、なんだったかなあ……

と、オレは小さい頃の記憶を掘り起こしてみた。


あれは、確か幼稚園の時だ。

幼稚園で七夕をやるから、みんなで短冊に願い事を書いた。

オレたちが通っていた幼稚園は小さな所だったから、教室は年少も年中も一緒だったのだ。

そこで、オレと梨緒、竹都と冬子は同じ机で一緒に書いていた。

「せかいせいふくできますように、と」

「おにいちゃん、こわいこと書かないでよお」

梨緒がむっとした顔でオレの短冊に書いた願い事を消ゴムで消した。

「あー!りお、ひどい!」

「あ、りおちゃん、けしごむ、かしてくれる?」

「うん!はい、ふぅちゃんっ」

「ありがとう」

冬子はにっこり笑って、消ゴムを受けとる。

ついでに梨緒の頭も撫でる。

「こおらふゆこ!オレのいもうとにきやすくさわるな!」

オレはび、と冬子を指差す。

「ふゆこじゃなくて、と・う・こ!」

冬子も勢いに任せて机を叩いて立ち上がる。

それに驚いた、梨緒は、オレと冬子の間で目をうるうるさせた。

「う……うぐ……」

「りおがおどろいてるだろ。ふたりとも、しずかに」

梨緒の隣で静かにしていた竹都が、ついに割って入った。

「う……」「うぐ……!」

冬子は慌てたような困ったような顔をして戸惑った。

オレは心に絶大なダメージを受けて固まる。

竹都は梨緒を庇うように寄せ、頭を撫でて落ち着かせている。

「う、うおおお!りお、おにいちゃんがわるかったああぁ!だからなかないでくれえぇ」

「おにいちゃんうるさいっ」

泣きながら梨緒はぴしゃりと言った。

「りおちゃん、ごめんね」

「ううん。いいの。びっくりしただけ」

梨緒は小さな頭をふるふると振った。

竹都はそれを見て、安心したように笑う。

「よし、おにいちゃんはりおのあんぜんのために、ひじょーにちきゅうにやさしい、おねがいごとをするぞ」

オレは鉛筆をむんず、と掴んで消し残しがある短冊に再び新しい願い事を書きなぐる。

「じゃあ、ぼくはこうしようかな」

竹都も、鉛筆をとってさらさらと書き始めた。

梨緒はしばらく考えて、何か思い付いたのか、にこにこしながら書いていた。



「お、飾ってあるー!」

次の日、幼稚園に行くと早速竹があった。

青い空を背景に、短冊がひらひらなびく。

それに気付いたオレは、走って竹の下に寄った。

「あ、ふゆこのはっけーん!えーと、」

「ば、バカ!よまないでよ!」

冬子が真っ赤な顔して近づいてくるから、オレは大きな声で読んでやる。

「およめさんになりたいー!!ぶぎゃあッ」

「おおごえでよむな、ばかけいごぉお!さいあく、もうやだあぁあ」

と、冬子はオレの頭を思いっきりぶって、わんわん泣き出してしまった。

「おい、けいご」

竹都はオレを責めるようにみてきた。

「だって、でも、ふゆこオレのあたま……!」

オレは必死に言い訳をする。

「けいごがわるい」

竹都はオレの弁解の余地を与えない。

「うぅ……しかたねえなぁ。ほら、よめふゆこ、あやまるからゆるせよ」

「さいていッ」

「あべしッ」

ぺちんと顔を叩かれた。

「なんかふゆこ、ゆるしてくんねーんだけど」

「あたりまえだ」

「おにいちゃん、どげざするの!」

「!?りお、おにいちゃんになんてこくなことさせるの!?」

オレは梨緒の思いがけない要求に難しい言葉を使ってしまった。

「まあまあ、ほら、ふゆこもぶったことあやまって」

竹都が仲介に入った。

冬子は口を尖らせながらも啓悟に謝った。それが随分素直だったから、オレも驚いて謝った。

すると梨緒は、それを見て嬉しそうに笑う。

「どうした?」

オレが聞くと、梨緒は肩をすくめて言う。

「たなばたさまにおねがいしなくても、よかったのかな、って」

なんて、大人びた口調で言ったのだ。



確か、あの竹にあった梨緒の短冊が……

と、オレは曖昧な記憶になりつつあることを必死に思い起こす。

そうだ。

あの竹の、一番上に、兄妹の短冊が揺れていた。

そこに書かれた言葉は、仲良しなまでに同じで。

オレは、つい顔がほころぶのを感じながら、いそいそと短冊を作る手を早める。


みんなが仲良く暮らせるように、と、願いを込めて。




え、もう一週間過ぎてるって?

え、だって私の地域じゃまだ1ヶ月後だよ?

許されます!

と、無理矢理な感じで七夕です。ちんまい竹都たちを書けて楽しかったです。


なんかもう文化祭シーズンも思いっきり過ぎてしまいましたが、まだまだ文化祭編も続きますのでっ

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