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文化祭 準備編 05

昼休みは有意義に使うものだ。

オレはそう考える。

竹都のように窓を眺めながらぼーっとしているなんて、そんな老人のようなことはしない。ま、そんな竹都も生徒会で最近忙しそうだが。加えて今日は梨緒ちゃんに話があるみたいでいないのだが。

暇になった俺は、興味本位であるところに向かうことにした。

廊下に出ると、梨緒ちゃんと梅田ちゃんが何か話をしていた。

邪魔してもよかったんだけど、話の内容はだいたい予想がつくし、梅田ちゃんに本気で殴られそうだから見つからないように逃げた。そして、被服室へと向かう。

そう、被服室だ。暇だからこそ、余計な詮索もするのだ。

被服室へと続く廊下に来ると、ある少女が目に入った。

あれは……!

忘れたくても忘れられない人物がそこにいた。

「よっす、秋人くん」

なるべく声をかけられないようにひっそりと横を通りすぎようとしたが、話しかけられた。というかなんで話しかけるんですか、生徒会長。

生徒会長は文化祭がなんたらと書いてある書類を何枚か持っていた。

確かに生徒会長とは赤の他人とは言えない。たまに教室に来て竹都と話しているから、オレと面識はある。が、軽い挨拶を交わすぐらいだ。

「あ、生徒会長」

オレは今気づいたようなふりをした。

――そして何故名前を知っているんですか。

生徒会長は相変わらず毎日が楽しそうな顔をしていた。

「うふふー、松川くんは今日は一人ぼっち?」

「ぼっちとか言わないでください」

生徒会長はえへ、と可愛らしくおどけた。いや、可愛くないけど。

「松川くんって性格かなり悪いらしいね」

「ぐ……っ」

ほぼ初対面の相手になんてことを……!やはりただ者ではない。

「生徒会長、そういうのは思っていても言うべきではないと思いますが」

はっきりと言うと、生徒会長は気にせずにこ、と笑う。

「あんまり人の恋路を邪魔するものじゃないぞ」

人差し指をぴん、と立てて腰に手を当てて姉のように注意してきた。

……なんで知ってんだ、この生徒会長。

オレは驚きと呆れで何も言えなかった。

「ふふー、生徒会長ちゃんは何でも知っているのです」

「……はぁ」

「詳しく言うと、この学校を統治する生徒会長ちゃんはどこからでも生徒の情報を取り出せるのです」

「プライバシーの侵害じゃねえか!」

ほぼ初対面の相手に全力の突っ込みをしてしまった。

「ちっちっち。生徒会長ちゃんの名前を知らしめようと試みているのさ」

「悪い意味で轟きそうです」

「轟くときたか!良いこと言うね!」

「喜ぶところでも誉めるところでもありませんから!」

なんか生徒会長といると調子が狂うぞ。あれ、オレこんなキャラだったか……?

生徒会長マジックで自分を見失いはじめてしまった。こんな変人とはもう関わらない方が良さそうだ。

「では、オレはこれで」

オレは盛大なため息をついて生徒会長の横を通りすぎる。

「どこ行くのー?」

「教えません」

背中で生徒会長の言葉を受けながら、さっさとファッション部部室へ向かう。

「あ、ファッション部の部長に、『松川くんが来たらどんな手段を使ってでも追い払ってあげて』って言ってあるから、気を付けてねー」

幼い子供みたいな声で生徒会長は言い、それからぱたぱたと走っていく音が聞こえた。

オレは目を丸くして振り返ったが、もうすでに生徒会長の姿はなかった。

「カマかけやがって、あの化け狐……!」

権力高き生徒会長を妖怪呼ばわりし、オレは煮え切らない気持ちを抱えてなお、ファッション部に向かった。



「梨緒、それに冬子。丁度良かった」

俺は窓際で何か話をしている梨緒と冬子に話しかけた。

一年生である梨緒が二年生の廊下にいるのは疑問に思ったが、それより今は自分の気持ちを伝えることだ。

「ファッション部からの依頼のことだが……」

「ほら、梨緒ちゃん」

が、俺の言葉の間に冬子が無理矢理入ってきた。

冬子は梨緒の背中を軽く押す。

それに梨緒はわ、と驚いたが、目の前にいる俺を見て何か言おうと口を開く。

俺は不思議に思って口をつぐんで梨緒の言葉を待つ。

「えっと、えっとね……」

梨緒は戸惑ったように目を泳がせる。それから目をぎゅっと瞑って、ぱっと俺を見る。

「あのっ、モデル、やろうと思うです!」

思うです……!?

そんな突っ込みが頭の中をよぎったが、俺は梨緒の答えに目を丸くした。

「えっと……駄目、かな」

「いや、いいt……」

「きゃわー!流石梨緒ちゃん!そういってくれると思ったあ!」

ざっと黒い影が視界の端に見えたかと思うと、目の前にいた梨緒に誰かが抱きついていた。

「わーわー、なんかもう梨緒ちゃん神様だよ、ありがとおお」

嬉々として抱きついていた誰かが今度は泣き出した。

ちなみに周りの俺も冬子も、梨緒さえもぽかんとしている。

「あ、あの」

ついにどうするべきか考え付いた梨緒は誰かの肩を持ってそっと引き剥がす。

「わー、ごめんごめん。驚かせちゃったね。わたしはファッション部ですっ」

梨緒の首に腕をかけたまま、ファッション部の子はにっこり笑う。

「いやあ、先輩のためにちょっぴり黙って様子を見に来たんです。そうしたら、さきほどの会話が聞こえまして。いやあ、もし断れたらどうしようかとはらはらしておりましたよ」

「はぁ……」

「ままま、二人ともモデルを快諾してくれたと言うことで、わたしはこれでっ」

しゅたっ、と彼女は忍者のように消えた。ファッション部はみんなあんな風にテンションが高いのか……?

俺は嵐のように去った彼女を思いながら考える。まあ、仲が良いんだろうな。

「さて、あたしは用事があるからこれで。竹都も、放課後きちんと生徒会室に来るのよ」

お姉さんみたいに注意して、冬子はさっそうと階段を降りていった。

取り残された俺と梨緒は、目がバッチリと合うと何もないのに笑い合った。


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