喧嘩編 後日談
「そこ行くとボスだからセーブしておいた方がいいよ」
某ゲームプレイ中に梨緒が親切に教えてくれた。
しかも、また俺の足の上で。
「……梨緒、お兄ちゃんの傍には来てくれないのかい……?」
寂しそうな口調で啓悟が尋ねる。
「うん、竹お兄ちゃんのとこが一番安心だもん」
満面の笑みで梨緒は言う。
と、梨緒は時計を見てがば、と立ち上がる。
それを見計らって俺は後ろへ仰け反る。前回のように顎に激突はもうない。
「お母さんのお手伝いに行ってくる」
梨緒は騒がしく部屋を出ていった。
これはいつもの梨緒の日課だ。梨緒は料理が好きだから、手伝いつつ色々な料理の作り方を教わっているらしい。将来有望だな。
などと呑気に考えていると、
「なぁ」
真剣な面持ちで、啓悟が話を切り出す。
「梨緒が、あれから高校について話してくれた」
「……」
取りあえず、黙って聞く。
「今の成績だと少し厳しいらしいけど、梨緒ならきっと大丈夫だと思う」
俺も受験するときぎりぎりだったからなー。
「オレの通ってる高校はダメなのか、って聞いたんだ。そしたら、『お兄ちゃんの通う高校について先生に聞いたら、あの学校はやめなさい、って力説されたから行かない』、って言われたんだ」
あー、確かに啓悟の通う高校はレベル低いもんな。公立ってのが救いだが……
「……本当に、梨緒をそそのかしたんじゃなかったんだな」
……
「あぁ」
あ、ボス戦だ。
そそのかす、ねぇ。
俺は横目で啓悟を見る。
啓悟はゲーム画面を見ていた。
べつに、梨緒のことを好きになるなんてことは、ないと思うんだ。だから、啓悟の過保護は杞憂なんだと思う。
梨緒を好きにならない、という理由は、よく分からないけど。
きっと、俺は今までもこれからも、梨緒を妹のように思うことだろう。
俺は、きっとこの三人で、一緒にいたいんだと、思う。
「……梨緒のこと、よろしくな」
「……おうよ」
ボス結構強いな。
「合格したらだが。いや、オレの梨緒なら絶対に合格するが」
「オレの、はどうだか不安になるが、梨緒なら合格するだろ」
お、倒した。
「おにぃちゃあ〜ん?」
梨緒がどたどたとやってきた。
「あ、竹お兄ちゃんも、夕飯食べてく?」
「いや、竹都は早く帰んないといけないみたいだ。お母さんが危篤のようで……」
「おい」
なんて不謹慎な嘘だ。
「あ、じゃあ一緒に食べよ!」
梨緒は啓悟の発言を無視することにしたらしい。
「ほらほら、早くセーブしてっ。冷めちゃうんだから〜」
梨緒は俺の腕を引っ張ってくる。
はいはい、と俺はセーブをして、ゲームを終了する。
「うぅ〜。オレの梨緒が最近冷たいよ〜」
「お前が過保護なだけだろ。さっさと来いよ」
梨緒が掴んでいない方の手で、啓悟の首を掴んで連行する。
梨緒が、掴んでいない……?
……
そういや、梨緒が手を握っている……
俺は梨緒と俺の手を見つめる。
って、何考えてんだッッ!!
俺は首を振って考えを振り払う。
いや、確かに梨緒は小さくて可愛いが……
あー!! 取り繕うとすればするほど墓穴を掘っていく……
落ち着け、落ち着くんだ。
……(心の中で深呼吸し中)
あえて言おう。
俺は、ロリコンじゃありません。
喧嘩編終了です。