新聞編 13
「では、続いて生徒会長の話です。生徒会長、お願いします」
「はあーい」
相変わらず小学一年生みたいな返事でどたどたと壇上に上がる生徒会長さん。
私は生徒会の人たちと混ざって、この新生徒会歓迎会を見ている。そして、気まずいと言ったら悪いけれど……その生徒会の中には、ふーちゃんがいて、そのふーちゃんは、私の隣にいた。
新聞の話については、何も話さなかった。だって、新聞とかの話は、もう私の中では終わっている。今は、ふーちゃんを応援したい。
私の、好きな人が相手だけれど……
でもきっと、ふーちゃんと竹お兄ちゃんが両想いになっても、きっと、私はちゃんと応援できる。
そう、信じてる。
生徒会長さんは珍しく真剣に、原稿を見ながらすらすらと話す。
生徒会長さん、って、ああいう風にしっかりしているところを見ると、出来る女性、って感じでかっこいいなあ……
と、憧れていると、生徒会長さんは話を終えて、原稿をたたんで全校生徒を見据えた。
そして、締めの一言。
「まぁ、心にも思ってないけどね」
そう、けろっとした顔で告げて、生徒会長さんはお辞儀をして退場した。
今の、ナチュラルすぎてなんの反応もとれなかった……!
私は思いがけないことをしでかす生徒会長さんを目で追うと、竹お兄ちゃんが生徒会長さんに近寄り、叱っていた。
私はそれを見て、くすくす笑った。
しかし、竹お兄ちゃんはため息をつくと、これで会は終わるはずなのに、壇上に上がってきた。
私は、首をかしげた。
竹お兄ちゃんは、全校生徒を見つめて、口を開いた。
「副生徒会長としてではなく、一生徒として、話があります」
と、前置きをした。
私は、嫌な予感がした。
血の気が引いて、体温が低くなっていく気がした。
「新聞の、件についてです。みなさんもご存知でしょう。けれど、あの新聞は全くの誤報です。ここで名前を言うのも気が引けますが、はっきり、断言させて頂きます」
丁寧に、厳格な表情で話す竹お兄ちゃん。
言っちゃダメだ。
私は、止めようとした。
でも、ここで、みんなの前で言わないといけないんだ。言わないと、いけないんだ……
色々な感情が入り交じる。
たくさんの人たちの顔が浮かび上がる。
竹お兄ちゃんは、口を開いた。
「わたしは、梅田さんとは何もありません。ただの友達で、恋愛感情を抱いたことはありません」
隣の人が、動いた。
そうだ。私のとなりには、ふーちゃんがいるんだ。あんな、あんな冷たい言葉を叩きつけられて、ふーちゃんが平気なわけない。私はふーちゃんの方を振り返った。
そうしたら、ふーちゃんは、
「ふーちゃん……」
竹お兄ちゃんを真っ直ぐ見たまま、泣いていた。
私は、目を見張って、その悲しい光景を見ていた。
ふーちゃんは、言葉の意味をまだよく分かっていないみたいで、ただ竹お兄ちゃんを見ているだけで。でも、確かに冷たい言葉を言われたとは理解していて。
ただ、前を向いて泣いていた。
私は、胸がすごく苦しくなった。
ふーちゃんの泣いている顔を、しかもこんな大勢の中で、見たことがなかったから。
だから何か声をかけなければいけないと、思った。…慰めの言葉じゃなくて、そんな悲しい言葉じゃなくて、励ます言葉じゃなくて、そんな生温い言葉じゃなくて……
なんて、言えばいいんだろう……
「ふーちゃん……」
私はそうやって呼ぶことしかできなかった。
私が不安なときや、泣いてしまったとき、決まって最初に声をかけてくれたのは竹お兄ちゃんだった。どうした?とか、大丈夫、って言って、そっと傍にいてくれた。だけど、そんな優しい竹お兄ちゃんが、今は無意識のうちにふーちゃんを傷つけてしまっている。
なんて言えばいいのか分からないよ……!
「なんで梨緒ちゃんが、そんな顔するの」
私は、ふーちゃんを見た。
ふーちゃんも、私を見ていた。
瞳を赤くして、涙をいっぱいためて。
堪えながら、ふーちゃんは私を安心させるように微笑む。
「梨緒ちゃんはそんな顔しなくていいの」
優しいお姉ちゃんみたいに、微笑んでくれた。
だけどそんな優しさが、強がりが、私には辛いものにしかならなくて、泣きそうになった。「ほら、言ったでしょ? フラれちゃったんだ、って」
一生懸命言葉を紡いで、自分の感情を押さえ込もうとしているふーちゃん。
竹お兄ちゃんの姿はいつの間にかなくなっていて、司会の人が会の終了を告げた。
気がつくとふーちゃんはまだ赤い瞳をしていたが、真っ直ぐと立って、生徒会の人と話をしていた。苦笑いをしながら、おどけた笑いをしながら。
私はそれを呆然と見つめながら、痛む胸を抑え、考える。
何か、してあげなくちゃ。
あばばば……!かなり間が空いてすみません……!テストが終わって余裕ができたのでまたしばらく執筆していきます。
新聞編はあと次話で完結しそうなので頑張ります。リアルタイムに合わせて進行させていきたいので、頑張って追い付かないと……!時の流れって早いわ