新聞編 07
少し距離を置いた先には、松川が平然と歩いている。
あたしは、それに必死についていった。
放課後で、人もあまりいないというのに、距離を置いて歩けというのだ。
そんなに噂立てられたくないか!
…なんて一人心の中で怒ってみる。
あたしの気も知らず、松川は迷いなく新聞部へと向かっている。
そう、あたしたちは今から新聞部に殴り込みなるものを実行しようとしている。
放課後、あたしと、松川の二人で。
松川はあの新聞をすぐにナシにしようとするのを協力してくれるのを見る限り、ネタ提供もしていない、と思う。
それに、あの新聞は松川にとっては邪魔みたい……どうせ、竹都と梨緒ちゃんがくっつかなくなるから、とかなんだろうけどさ。
と、考えていると、目の前の、廊下の先に部室がぽつんとある。その扉の前に、松川が立ってこちらを見ていた。
考え事をしていたらついていたらしい。
あたしは早足でその部室に近づく。
「ここが、新聞部の……?」
あたしは部室の札を見る。新聞部、と綺麗な字で書かれていた。
「あぁ。じゃ、殴り込みに行くが、お前は待ってろ」
「うん……って、なんで!」
ノリ突っ込みじゃない。つい頷いただけ。
「しっー」
松川は似合わず可愛い擬音語であたしを黙らせた。
「お前がいるとジャマだから。約束も破りそうだし。ほら、そこらへんで引っ込んでろよ」
松川はそう言うと、あたしの返事もなしに部室の扉を開けた。
あたしはいきなりだったから、つい松川の言うとおり、扉の影に隠れてしまった。
な、何してんだろ……
松川が部室に入るとすぐに扉は閉められ、そして早速新聞部員が迎えてくれたようだ。
「あらら、あなたは確か、竹都先輩のご友人の、松川先輩じゃないですか?」
どうやら迎えてくれた新聞部員は女の子で、一年生らしい。
あたしはひっそり隠れながら、会話に耳を傾ける。
「……竹都先輩の、ってことは、要件は分かってんだろうな」
うわっ。すごい喧嘩腰……!大丈夫かな。
「えぇえぇ。あなたのご友人竹都先輩と二年で一番美人の梅田先輩のネタ、おいしすぎてもう新聞部は大繁盛ですよ!」
「でまかせの癖に、よくそんな堂々と学校にばらまけるな、そんなネタ」
吐き捨てるように松川が言う。
「いいえ、でまかせではありませんよ。これから本当になるんですからー」
得意げな口調の新聞部員。
これから本当になる、って……?
あたしは扉に耳を押し当てた。我ながらに不審人物。
「ふふん。新聞部のあの新聞によって、梅田先輩の恋は成就するんですよ。お互い、特に竹都先輩が意識するようになるんです。そうすればあとは梅田先輩が告白なんかしちゃえば……」
「お前らは梅田が誰を好きなのか、とかまで把握してんのか?」
松川は新聞部員の言葉を遮ってきいた。
あたしも、どきりとした。
なんで、なんで知ってるの……?知られているの……?
「だって、そんなのけっこー有名ですよ?梅田先輩の片思い。竹都先輩と梅田先輩の会話風景を目撃した人は口を揃えてこう言うのです。『梅田先輩は決まり悪そうな、不機嫌そうな、しかし顔を赤くして竹都先輩とはなしていた。普段クラスの男子や告白してきた男子には清々しいまできっぱりという梅田先輩。しかし竹都先輩を前にするとわたわたして、何かを一生懸命伝えようとしている』、と……そこから、普通に考えれば梅田先輩は竹都先輩に対してラブしてるのが分かるでしょ」
「まぁ分かりやすい奴だからな」
ひ、否定してよ…
あたしは松川に届かないが突っ込んでみた。
「ふふ。いいじゃないですか。いつかきっと梅田先輩と竹都先輩は私たち新聞部に感謝するときがくるでしょう」
「そうだ。まぁ、梅田冬子は春川竹都の眼中にもないからな。それに協力するという点では、我らは恋する乙女の味方ではないか?」
「部長!」
力強く、低い声が登場した。どうやら部長らしい。
それよりもあたしは、眼中にもない、という言葉につっかかった。
だって…そんなことさ……
「春川竹都は誰にでも優しいからな。それに加えて頭が良くかっこいい。紳士的で、天然だ。恋する乙女は多いだろうさ。その中で、今のところ面白そうなのが、梅田冬子だったということだ」
「それで、あの新聞か。いつかボロが出るぜ、そんなの」
「その前に二人がくっつけば良いだけだ。その操作もなかなかに、面白い」
あたしは、顔が赤くなるのを感じた。
恥ずかしがった。
馬鹿にされているみたいで、松川みたいで。ううん、松川より最低だ。
気がつけば、あたしは新聞部部室のドアノブを回していた。
ばん、と大きな音を立てて、扉が開く。
部長と、新聞部員と、松川があたしを見ていた。
松川が何か言おうと口を開く前に、あたしは怒鳴った。
「なんであんたたちなんかにあたしの片思いだとか、恋だとかに口出されなきゃいけないの!?竹都があたし以外の子に優しいなんて、分かってる!分かってるって言ってるじゃない!あんたたちのしてることは、松川より最低よ!あたしだって、頑張ってるのに……あたしだって、努力してるのに!竹都に変な風に心配されて、もう、台無し!竹都のことが好きなの、でも、他人に干渉されたくない。あたしは、一人で竹都を振り向かせるの!」
喚いた。
喚き散らした。
あたしは、息が切れていて、視界が滲んでいて、
肩を上下させて、涙を、流していた。
新聞部員は、目を丸くしていた。
でも、部長は、冷たい目で見ていた。
「あっそ。だがな、竹都はお前を、見ない」
部長の口が、ゆっくり言った。
あたしに、分かりやすいように。
あたしに、よく聞こえるように。
あたしは、とても、とても惨めな気持ちになって、部長に背を向けて、
部室から逃げたんだ。
次回は私立合格発表(19日)と予告していましたが、なんと体調不良で学校を欠席しましたので早めました。
3学期入って6回目の欠席……うぬぬ、自分の弱さと愚かさに腹が立つ一方です。
俺ロリ。本編、なんだか切なめになってきました。
あと、一回の更新にいっぱい文字詰めよう、と決意いたしました。
そのため今後更新遅くなるかも知れません…受験が終われば、重荷がとれたら、なんとか更新速度早めつつ本編進行早めて行きたいと決意します。