喧嘩編 03
なんというバットタイミング。
啓悟は見事なオーバーリアクションを俺たちに見せるだろう。
「お、お兄ちゃんは猛烈な悲しみに満ちているぅぅうう!!」
まず手をがば、と広げた。その両手の掌を頭にのせる。
そして華麗に一回転し、大袈裟に地面に膝をつく。
「……」
啓悟は黙ったまま地面を見つめている。
俺は、いつもより壮絶なリアクションだなー、ぐらいに受け止めた。
梨緒はうんざりというように大きなため息をついた。
今のを近所の人に見られたら病院行きだろう。
もちろん頭の。
「……なぁ、梨緒」
俺は啓悟がフリーズしているのを流して、梨緒に尋ねる。
梨緒は俺に声をかけられて、申し訳なさそうに眉を下げた。
「今言ったの、本当か?」
口に出すのも嫌なのか、梨緒はただ頷いた。
「……」
……参ったな。
俺は気まずい空気が体に刺さるのを感じながら、啓悟を横目でみる。
啓悟は一人で沈みに沈んでいるようだ。
うーん、どう解決するべきか。
俺は啓悟の元へ歩み寄る。
「啓悟……」
と、呼びかけた途端。
「なんだよ、このロリコン野郎!」
がばっ、と啓悟は立ち上がる。その瞬間、過去の傷口が開く。
ぐあっ。
顎が!
前回と同様、啓悟が立ち上がった瞬間。俺は啓悟に近づいて話しかけたため、俺の顔の下に啓悟の頭があったのだ。
今日、俺の顎には何か憑いているらしかたった。
「な、何しやがるんだ。ってか、ロリコンだと!?」
シスコン野郎に言われる筋合いじゃねぇ。
い、いや、ロリコンを肯定した訳ではない。
「そーだよ、ロリコンだよ!オレの可愛い妹をそそのかしやがって!」
啓悟は俺の胸ぐらを掴む。
きっと今この状況を見た人は修羅場的に思うだろうが安心しろ。
会話を聞くと笑うところだろうから。
「ちょっと、お兄ちゃん!」
梨緒がベンチから立ち上がって啓悟に怒鳴る。
「梨緒はこいつに騙されてるだけなんだっ」
何をだよ。
「大丈夫、お兄ちゃんがついてる!」
などと力強く口走っているのだが、啓悟の口元は緩みっぱなしだ。
多分お姫様を助けに来て、魔王と対峙している王子様的な役になりきっているのだろう。
あー、なんて幸せな奴だ。
俺がため息をつきかけた時。
「オレの妹から離れろ」
一転し、啓悟は真面目な顔になる。
梨緒が、後ずさる音がした。
俺は、胸が締め付けられた気がした。
……相当馬鹿な奴だな。
周りも見れねぇ馬鹿が。
「……うるさい。シスコン野郎」
俺は啓悟を睨む。
「は?」
「勝手な妄想して人のこと決めつけんなよ」
啓悟の瞳が揺らいだ。
梨緒が大切なのは分かる。家族が三人で、男が啓悟一人だけだから、啓悟がしっかりしなきゃいけないのも分かる。
だけど。
「少しは無い頭で考えろ」
守らなきゃいけないもの傷つけてどうすんだよ。
啓悟は、俺から手を離し、俺と視線を合わせずに口を開く。