遊園地 後編 11
「おっ、竹都ぉー!」
お化け屋敷の正式な出口のところまで行くと、啓悟と実さん、松川と冬子がいた。
啓悟がこちらに手を振る。
梨緒は笑顔で振りかえした。梨緒はここまでくる間に落ち着き、なきやんで今は元気だ。
多分梨緒はもう一生お化け屋敷に入ることはないと思う。
「途中でリタイアしたのか」
松川は俺たちが傍らの出口から出てこなかったのを見て、言った。
「あぁ…梨緒が、お化けとか苦手だから」
「こっちは実ちゃんが抱きついてきて大変だったよー」
啓悟が苦笑しながら近寄り、梨緒の頭を撫でてやる。
啓悟は気付いてたのか。
梨緒が泣いていたこと。
啓悟は梨緒の目線と合わせるようにかがみ、
「よく頑張ったな」
と言った。
なんだ、啓悟にも…
「啓悟さんにも、お兄さんらしいところがあるんですね」
実さんが、俺が思う前に言った。
「なっ……実ちゃんそんなひどい……」
啓悟は実さんを振り返って困った顔をした。
実さんは梨緒の傍らまで来て、梨緒の手を取る。
「ごめんね。梨緒、お化け苦手だったね」
「う、ううんっ。大丈夫だよ。だって、竹お兄ちゃんがいたし……」
梨緒はそう笑いながら頬を赤くした。
……こっちまで照れるじゃないか。
「よし、そろそろ夕暮れだし、最後にあれ、乗ろうぜ!」
啓悟が空気を変えるように明るい声で、指差すその先。
観覧車。
まぁ、締めと言えばこんなものだろう。
観覧車を見た途端に梨緒は花が開いたように笑った。
「観覧車!」
と声を上げると、梨緒は実さんの手を引いて走り出してしまう。
「梨緒ちゃん、危ないよ!」
松川が注意しながら梨緒を追いかけた。
「じゃ、行くか」
啓悟は冬子と俺に言って、観覧車へと歩き出した。
俺も歩を進めたが、冬子はただ黙って立っていた。
「?どうした、行かないのか?」
振り返り、問う。
「……え」
我に返ったようにはっとして、こちらを向く冬子。
「あ、うん……行く」
ぽつんと呟くように言って、そして、少し眉を寄せて口をつぐんだ。
「……?」
俺はよく分からないが、冬子をここに置いていくのも不安なので待っている。
「……竹都ってさ」
冬子が呟いた。
「竹都って、……誰にでも優しいよね」
無表情のような、悲しそうな顔をして、冬子は言う。
優しい……か?
自分では自覚はないが。
「まぁ……面倒見が良いとは、少し思う」
小さい頃から啓悟と梨緒の保護者みたいだったし。
「……そっか。うん、分かってた……行こう」
俯きながら言って、冬子は走り出した。
一体何が分かってたというのだろうか。
俺は訳が分からず怪訝な顔をし、冬子についていった。
「じゃ、二人一組で!」
そう言って、さっさと実さんに手を引かれて観覧車乗ってしまった啓悟。
実さん、随分強引な人だったんだ……
俺は意外な一面に驚きつつ、行くか、と冬子に視線を送った。
が、冬子はあれから俯いたままだ。
「おい、竹」
松川がひそひそと耳打ちしてきた。
「?」
「あのゲーム、もう忘れたのか?」
「ゲーム?……あぁ、昼間の」
「そ。つーわけで」
とん。
松川は俺の背中を押して観覧車に乗せた。
「え」
俺は立ち止まり、振り返ると、目の前に梨緒が躍り出た。
「!?」
梨緒はびっくりしてつんのめる。それを俺が受け止めた。
「じゃあなー」
係の人がドアを閉めようとするその先に、松川がにっこり笑いながら手を振っている。
冬子は、俯いたまま。
「あ、ふーちゃん……!」
梨緒が何か言いかけて、ドアが閉まる。
その言葉だけ届いたのか、冬子がこちらを向いた。
そして、寂しそうに笑って手を振った。
「……」
「……」
「……とりあえず」
肩に手をおいて受け止めたときのままの状態で、俺はぽつんと、
「座ろう」
と、言った。
梨緒はなんだか曖昧な顔をして、頷いた。