遊園地 後編 09
『きゃーー!』
「!……」
お化け屋敷に入った瞬間、叫び声。
隣の梅田ちゃんは少しびっくりしたように肩を震わせた、が、ちらりとこちらを見て冷静を装った顔をした。
意地っ張りだな、この子。
なんて観察しながら、無言で進んでいく。
「……」
「……」
「気まずいんだけど。なんか話してよ」
梅田ちゃんがいきなりトークサービスを願ってきた。なんて図々しい。
が、流石に無言は可哀想かと思い、じゃあ、と口を開く。
お化け役はまだ出てきていない。が、梅田ちゃん、そろそろとこちらに寄っている。やっぱ、こういうの、普通の子は怖いんだよな。実ちゃんは面白そうに話していたが。
「梅田ちゃんさ、竹都のこと、小学校の時から片思い?」
単刀直入に聞いてみた。
梅田ちゃんはお化けよりもびっくりしたように、目を丸くして、顔を真っ赤にしていた。
あ、面白い。
なんて、思った。
「な、なんで、いきなり」
「質問だよ、今の。答えてよ」
「……保育園の時から」
「…保育園、か。かなり長いね。というかもう10年くらいたってない?」
「……うるさいわね」
かなり長い間片思いしてたのか。だから、今更梨緒ちゃんがどうのこうのしても諦められないのかなぁ。
うーん。厄介。
「なんでそんな竹都ばっか見てんの?他に好きな奴もできなかったんだ」
「……だって、竹都が好きなんだもの…って何言わせるの!」
勝手に言ったじゃんか……
「で、なんでそんなこと聞いてくるわけ?別にいいじゃない、そんなこと」
「別に良くない。オレは、少し忠告したいだけ」
「は?なん」
と、聞き返そうとした瞬間、オレたちの前にやっとお化け役が飛び出してきた。
梅田ちゃんはびっくりしながらオレの後ろに隠れた。
お化け役はそれで満足したのか、引き下がっていく。
「……」
「……」
「オレを盾にするな」
「……ごめん」
そしてさっさと歩き出す。
すると梅田ちゃんはそそくさと隣に来て、こちらをじろじろ見てきた。
「……」
「……」
「……なに」
「…なんか、松川サンって、もっと啓悟みたいな性格かと思ってた」
「…ま、隠してるしな」
竹都にはそーいう風に思われてるし。
というか思わせてる、しな。
「……偽善者?」
「人間みんなそうだろ」
「サイテー」
……知ってる。
なんだ、ただの馬鹿じゃないんだ。
少し梅田ちゃんを見直した。
さて、梨緒ちゃんと竹都はどうしているかな?
どうしてかなかなか話が進まないから、そんなことを考えてみる。
「……松川サンはさ」
「ん?」
向こうから切り出してくるなんて。絶対梅田ちゃんはオレのことどんどん嫌いになっているのに。
「あたしと竹都が合わない、って、言いたいの?」
「…んー……」
「そこ考えるんだ……理由もなくあたしに竹都と離れろ、的なこと言ってくるから……」
「まぁ、そうだね。オレは、梅田ちゃんは竹都を好きにはなっていない気がするから」
「え?」
梅田ちゃんはそう、聞き返した。
瞬間。
いきなり、オレと梅田ちゃんの間に、お化け役が出てきた。
お、クライマックスはハイクオリティ。
なんて呑気に思う。
もうオレたちの先には出入り口の光が見えていた。
だけど、ここで梅田ちゃんを見捨てるのは男として情けない。
オレは素早く涙目の梅田ちゃんのそばに駆け寄り、手をとった。
女の子、って、柔らかい。
思いながら、駆け出す。
あの、出口へ。
5日から3日間修学旅行に行ってきます。京都ですよ!