遊園地 後編 07
「じゃ、これ食べたら何乗る?実ちゃんはなんか乗りたいものある?」
啓悟はうきうきしながら実さんに聞く。時刻は12時30分過ぎ。今はみんなで昼食をとっている。
「んー私ちょっとトイレ行ってくるね。何処にあるんだろ……」
梨緒が席を立ち、あたりを見回す。
「あ、あたしも付き合うよ」
冬子も席を立ち、梨緒と一緒に去っていった。
「次は……」
実さんが口を開いた。先ほどの啓悟の話だろう。
「お化け屋敷が良いです……」
夢見る少女のような、うっとりした顔で言ってきた。
……大物だ。ホラー好きか?
俺はお化け屋敷に思い馳せている実さんに感心しか覚えない。
「じゃ、次はお化け屋敷だな」
啓悟はふむふむと頷く。
「…………」
松川は、すぐそばの窓をじっと見ている。
「どうした、松川?」
尋ねると、視線は窓の外のままで、
「いや、梨緒ちゃんち大丈夫かなー、なんて」
「なんで?」
「2人とも、方向音痴っぽいし、そもそもここの場所覚えてなさそう」
「……まさかー、そんなこと」
「そうだ、梨緒は〈時々は〉しっかりしてるところあるし、冬子だって……ずぼらなところg」
「おおぉぉおいいいぃ梨ぃい緒ぉお!!」
「迷っちゃったね」
私はぽつりと言った。
「うーん、確かこっちだったような……いや、全然見たこと無いところだわ……」
ふーちゃんはため息をついた。
「……」
「……」
迷ったし、会話も切れた。
なんか、気まずい。ただでさえ、ふーちゃんは私のことよく思ってない。折角ふーちゃん、竹お兄ちゃんと一緒のペアになったのに、私なんかもやめもやしてるし、ふーちゃん、時々目恐いし……
ふーちゃんも、竹お兄ちゃんのこと好きなんだろうなぁ。
でも、私……
「あのさ」
「は、はいっ」
急に話しかけられたからびっくりした。
「そんなびっくりしなくても」
「いや、ううん。なあに?」
「竹都、さ……」
竹お兄ちゃんの話になって、私は肩を震わせた。竹お兄ちゃんの話。良い話には、なりそうにない。
「なんだろうな。あたし、竹都の前では素直になれないのよ」
竹お兄ちゃんたちがいるお店を探す振りして、目を合わせないふーちゃん。
いきなり竹お兄ちゃんのこと好き、って行ってるのと同じこと……ずるいな、ふーちゃん。先手必勝、かな。
「勇気出そうと思ったら、いつも出てくるのは梨緒ちゃんの名前だし。まいっちゃうよね」
そう言って、こちらを向いて、苦笑した。
寂しそうな苦笑。
私の、せいかな。
「ふーちゃん……」
「なに。なんで梨緒ちゃんが悲しそうな顔してるの?」
「だって……」
「分かってるわよ。梨緒ちゃん、竹都のこと好きなんでしょ」
いたずらっぽくふーちゃんが笑った。ふーちゃん、人を慰めるときに意地悪になる。自分も辛いのに。小さい頃から変わってない。
「って、え……!?」
「あら、自分では隠せてると思っていたの?」
ふーちゃんだって隠せてない……けど……私、竹お兄ちゃんのこと好きなのかな。
「ま、安心してよ。あたしは梨緒ちゃんのこといじめたりしないし……あ、竹都」
「え?」
竹お兄ちゃん、探しに来たんだ……
「さ、行こう」
ふーちゃんは私を促した。
え、でも……私言われっぱなしだっ。ふーちゃんばっか…なんか寂しい。
「つまりは、あたしも諦めませんってことよ!」
振り返り、ふーちゃんは優しく笑った。
あ……
なんか、気付いた。
この安心感、名前はまだ分からないけど、少し分かった気がした。
なんとなく、だけど。
「落ち着け、落ち着くんだ、啓悟!」
会計をはらってすぐさま外にでる啓悟。
そういや店の中にもトイレはあるのに、梨緒たちは外に出ていったのだ。
「梨緒ちゃんの兄さんはいつもあんななの?」
「いつも話しているとおりだ」
「想像してたのよりかなりすげえな」
松川と俺はぼやきながら、梨緒たちを探した。
「って、あれ。啓悟……!?」
「み、実ちゃん……!?」
啓悟がいきなり静かになったかと思うと、実さんが啓悟の手をひいてお化け屋敷に入るところだった。
「ちょ、実さん……!」
「ごめん!梨緒をよろしく!」
啓悟は実さんに手を引かれて、お化け屋敷の暗闇に消えていった。
「……」
俺は、その闇を見つめていた。
「丁度良いや」
松川が呟いた。
「なぁ、竹都」
「?」
松川が、真面目な顔であたりを見回している。
なんだ?いきなり。
「午後は、梨緒ちゃんか梅田、先に見つけたどちらかをペアにする、っていうゲームしない?」
松川が、イタズラっぽくそう言って、笑った。