遊園地 前編 06
「じゃ、次はジェットコースターだッ!」
いつもよりテンションの上がっている啓悟は、実さんの手をひいて走っていく。実さんは多少なりとも戸惑いながら引っ張られていく。転ばないだろうか、とはらはらする。
「ジェットコースター……」
隣の梅田が呟く。
「ん?梅田、ジェットコースター駄目か?」
と、心配をしてやると、梅田は目を丸くして、
「別にっ。それより大丈夫なの、梨緒ちゃんは」
「そっか。梨緒か。おーい梨緒、お前ジェットコースター…」
言いかけて、梨緒を見ると、梨緒は出入り口で身長をはかっていた。
「みてみて!もうこんなに余裕だよ!」
俺と松川、梅田に報告。
ジェットコースターの身長制限は130。高1でもなんとか150の梨緒は当然余裕だ。
そういえば小学校の時俺、啓悟、梨緒、梅田の4人でこの遊園地に来たとき、梨緒だけジェットコースターに乗れなかったんだ。あの時ジェットコースターから降りたら梅田は泣いて、梨緒も寂しくて泣いてて大変だったなぁ。啓悟は全く空気読まず怖い話までしだすし、じゃあお化け屋敷行こうとか言い出すし……あの時はほんっとうに疲れた。
「梅田」
ジェットコースターに乗る前に、梅田に声をかけておく。
「小学校の時みたいに泣くなよ」
と。
そしたら梅田は小学校?と少し昔を思い出して、思い出した途端顔が真っ赤になった。
「っるさい!!」
一喝されてしまった……
心配してやったのに。
「レディの扱い方を心得ていないのね、竹さんは」
また瞬間移動で忠告してきたのは、実さん。
しかし竹さん。どっかの時代劇に出てきそうだ。
「竹さん竹さん。啓悟さんは、好きな人とか、いるのでしょうか」
実さんは、ジェットコースターに乗る直前にそんなことを呟いた。
「え?」
質問……というか、確認みたいな口調の意図が分からず、聞き返したが、
「早く早く!」
という梨緒の声に急かされて、俺はその会話を中断した。
まさか、実さん……
ジェットコースターは、小学校の時よりパワーアップしていた。
絶対泣き出すと思っていた梨緒はとても楽しそうに笑っているし、梅田も平気そうだ。啓悟は論外。松川はいつもと変わらず、実さんも無表情。
実のところ、酔った……
俺はふらふらしながら次のアトラクションへと足を進める啓悟たちについていく。
そんな俺の異変に気付いたのか、俺より先を行く梅田が振り返った。
「早くしなよ、竹都。みんなとはぐれるわよ」
しかしかけられた言葉は心配ではなく急かす言葉。いや、気付かれていないだけだ。
「お、おう……」
視界がぐるぐるする。
な、情けない……周りがあんな元気だと言いづらい……など、くどくど考えていると梅田が、
「みんな、ちょっと先行ってて」
と、先を行くみんなに声をかけた。
啓悟は、早く来いよー、と追求もせず進んでいった。
梨緒は、心配そうにこちらを見ていたが、松川に促されて視線を戻した。
「大丈夫?もしかして酔った?あ、あそこにベンチあるから、座ろう」
梅田は俺の背中を押してベンチに強制的に座らせた。
喋るのも少し無理そうなので、向こうが一方的に喋ってくれて助かる。
「泣き出すなよ、とか言いながら、何1人だけダウンしてんのよ。みっともない……」
梅田が隣に座って、ぐちぐち文句を言ってきた。
「竹都が動けないと、ペアのあたしも動けないんだから」
「おう……」
「……ほんとに大丈夫?死にそうな声だけど」
「おう……」
「し、死にそうだよ!?まさかお花畑とか見えてない!?」
梅田が次第にわたわたと焦りだした。
そんな姿が梨緒になんとなく似ていて、つい微笑んでしまった。
「な、何よっ」
梅田は顔を赤くして睨んできた。
「いや、梨緒になんとなく似てるなー、とか思って」
そしたら、梅田は一瞬、ほんの一瞬だけ悲しそうな顔をした。
――気がした。
そう思ったら、梅田はいきなりベンチから立ち上がった。
「もう元気になったでしょ!?早く行くわよっ」
なんだよ。ころころ機嫌変えて。
俺ははいはい、と返事をして、
「ありがとうな、梅田」
と、お礼を言った。
気付いてくれて、精一杯心配してくれて。
梅田はこちらを向かずに、
「っ……とうこ!」
と、言った。
「は?」
意味が分からず、聞き返す。
「あたしは梅田冬子だから、冬子でいいっ」
「……」
ぽかんとして、まだ理解できていない俺に、梅田は振り返って言った。
「名前で呼んでよ!」
俯きながら、でも少し見えた梅田…冬子の顔は今までで一番赤い。
「お、おう……」
俺はまだよくわからずに、そう返事をしていた。
梅田(……言ってしまった……ッ)
冬子、ふーちゃんは今日ついにデレました。それにしても書いてる自分が胸焼けしそうです。