喧嘩編 02
「……」
啓悟はただそこに座っていた。
ただ、自分の手を見つめていた。
そんな彼を、俺は横目で見ていた。
しかし、こんな重い空気を放っておけるような薄情な奴ではない。
「……なぁ、追いかけないのか?」
とりあえず、きっかけを与えてみる。そして顎が痛い。
「……別に関係ないだろ」
おぉ、さすが兄妹。梨緒も同じことをついさっきお前に言っていた。
ったく。
俺は頭をかく。
「まぁ、確かに高校決まってるのにお前に言わない梨緒も悪いと思う。だけど、あんなにガミガミ言うのはないだろ。梨緒も受験生なんだから、ピリピリしてるんだ」
「分かってる……」
そうして、啓悟は立ち上がる。
それを、俺は黙ってみていた。
啓悟が部屋から出ていくと、俺はため息をついて机に突っ伏す。
あー、顎が痛い。
と、携帯が鳴り出した。
携帯の画面を見ると、どうやら梨緒からのメールらしい。
『私、高校のことお兄ちゃんに言えないの。きっと、お兄ちゃん反対するから……だけど、私お兄ちゃんのこと、嫌いになった訳じゃないよ、って伝えてほしいの』
「……背中を押してもらわないと、動けないのかね、この兄妹は」
ため息混じりに悪態をついて、俺はこう返信をする。
『今何処にいるんだ』。
暫くして、返信。
『近くの公園』。
そして、俺は立ち上がり、玄関で靴を履く。その間に、啓悟にも連絡を入れた。
返信はこない。
梨緒の靴も、啓悟の靴も無かった。
近くの公園。このあたりでは公園といえば一つくらいしか思い当たらない。
啓悟は、どこへいったのだろうか。
公園へつくと、ベンチに梨緒が座っていた。
足音を聞いて、こちらを向く。
「竹お兄ちゃん……」
決まり悪そうに、苦笑いをする梨緒。
その隣に、立つ。
「お兄ちゃんは?」
そう尋ねてくるが、返事ができなかった。
啓悟から連絡はまだ来ていない。
少しばかりは、啓悟に来て欲しいと思っていたのだろうか。
「私が悪い、ってこと、分かってるよ」
梨緒は俯きながら、小さく言う。
「……お前はどこの高校に通いたいんだ?」
その高校次第で、この喧嘩が無駄か二人とも(特に啓悟)分かるだろう。
「……と、一緒の……」
「?」
小さな声で良く聞こえない。
「竹お兄ちゃんと同じ高校に行きたいの!」
『え?』
ん? 誰かと声が重なった。
梨緒は、俺の後ろを見ていた。
嫌な予感。
後ろを向くと、予感通り啓悟がいた。
「……梨緒……り、お……」
あー、なんというバッドタイミング。
前回より長い間が空いてしまいましたが、なんとか更新できました。
とろとろした作者ですいません……っ