入学編 05
梨緒は案の定不安そうな顔をしていて、俺はため息をついてそれを見守っていた。
ったく……
啓悟は覚悟を決めたように、梨緒を見据えて、
「入学、おめでとう」
俺はその時、驚きと感動とが混ざって、啓悟のたくましく優しい微笑に呆然としていた。
啓悟にも、あんなに兄らしい表情ができるのか……
梨緒は、不安そうな顔から恥ずかしそうに、照れ隠しに微笑んだ。
「そんな梨緒に、なんとっ!!」
啓悟はすぐにいつもの間抜けで、でも日だまりのような笑顔を浮かべて、一枚のチケットを取り出す。
「遊園地に遊びに行こうと企画していたのだったー!!」
「遊園地!?」
梨緒の表情がぱっと明るくなる。
俺はその光景に微笑む。
小さい頃も、こんなノリで遊園地に行ったよなぁ……
って。俺も年老いたなぁ……
一人で突っ込みをしつつ、喜びを隠せない梨緒に、
「良かったな」
と言ってやる。
梨緒はうん!と最高の笑顔を浮かべながら勢いよく頷く。
この反応を見ていると、高校生とは思えないはしゃぎっぷりだ。
「竹お兄ちゃんも行くの!?」
「あぁ」
俺は頷く。
「友達も誘って良い!?」
「もちろん!」
「じゃあ、ふーちゃんも良い!?」
「あぁ!」
啓悟はうんうん、と頷く。
ふーちゃんとは、梅田冬子。名前の最初の冬をとって、ふーちゃん。梨緒が冬子と出会ってからずっとそう呼んでいる。
「……ま、松川さんは、良いかな……」
遠慮がちに梨緒が尋ねてきた。
まぁ、そうくると思っていたが……
俺はどこまでも優しい梨緒に苦笑いしながら、良いんじゃないか?と啓悟にふる。
すると啓悟はぽかんとした顔をして、
「ん? 勿論良いぞ、梨緒の友達なんだから」
……多分啓悟は“松川さん”を女友達だと思っているのだろう。
これはどうやら当日一波乱ありそうだ。
なんていきなり肩を落としつつ楽しみにしていたり。
だが、俺の予想は見事に外れていて、一波乱どころではなくたくさんの大波が俺や、周りの人に襲いかかってきたのだ。
お久しぶりです。更新速度が本当に遅くてすいません。この夏休みを使ってたくさん進めようと思います…… 次回は後日談、恋焦がれるお話です。