原石と路傍の花~眩いまでの諦観~
誰にも見聞きされない言の葉は、往来に霞む路傍の雑草と同じで、気に留められることもなく、静かに消えては流れて枯れてゆく。
見向きもされない〝様々〟が〝認識〟されるとどうなるのだろうか? と興味が湧いた。
批判に打ちひしがれ消えるのか、賛辞に溺れて己で踏み潰すのか――
思い描いた言の葉を繰る人間は、随分と勝手で矛盾した生き物だった。
「そんなとこに突っ立てたら危ないぞ」
数歩先の人影が叫ぶ。
「今行きます!」
大きな一歩を踏み出して駆け寄った。
「全く結果がついてこないんですよ……不景気だし、やり甲斐搾取ですよホント!」
「お前、作家目指してんだろう? やり甲斐あるじゃないか」
「そう簡単になれたら、世の中皆ハッピー! ですよ……あんなものはほんのひと握りの中の更にひと握り……そんなものです……」
「まぁ、勢いと熱量は何をするにも大切だが、精神論だけでは生きていけないからな」
「世知辛い……」
「それが世間の道理で、不条理だ。それこそはるか昔からの慣習でもある。若い芽はどれも同じに見えるし、原石は使い古したら安く買い叩かれる。これが人生、これが文学。理不尽の世界で出来た理想郷が、お前の作りたい紙切れには詰まってる。ロマンがあるねえ!」
「……数と見栄えは、ですけどね。でも、諦めなければ必ずーー」
プップー……
「すまん。何か言ったか? クラクションで聞こえんかった」
「なんでもないですよ。ほら、急ぎましょう!」
ポテポテと街路樹へ向かう途中。一人、白い丸を見上げていると――
「掴めない浮雲。まるでお前の夢みたいだな」
「科学が発展したら、雲すら掴める時代がくるかもしれません。 希望は捨てず、未来は明るく、そして今を懸命に生きることが僕のモットーですから!」
「若いっていいなあ。その眩しさ、少し分けて欲しいくらいだ」
「何でも年齢のせいにして諦めてたらダメですよ! 何事も挑戦あるのみ! 凡人に出来ることはそれくらいですからーー」
「……頑張れよ」
「はい!仕事と両立出来るように頑張ります!」
「おう」
苦笑混じりに背中を叩かれた。
数年後。
「あれ? お前、確か――」
相手が言い切る前にその場から逃げ出した。声に蓋をし、視線はひたすら後退している。
あの日の言動の真意は、とっくの昔に理解していた。