責任の所在
※Twitterに投稿した『責任の所在』を加筆修正しました。
「自殺じゃないよ。他殺だよ」
「自死だよ」
私服の警察官が淡々と私体を運んでいく。私はそれを眺めていることしか出来ない。
「人間なんだけどな……」
目の前にいる青年が私から視線を逸らした。見えざる者に答える気はないのだろう。それとも気まずいだけなのか。どちらにせよ、彼と私は〝この場限りの関係〟だ。
「引き上げるぞ」
二本の白線が入った深緑の帽子を被っている中年男性が一言。部下に声をかけた。
その声を合図に一斉に人の波が玄関へと吸い込まれていく。彼もその一人だ。
「ねえ、他殺だよ」
彼は振り向かない。部屋に来たときから一度も合わない視線。
「これは自死だ」
「私は社会に殺された!」
私だけに向けられた現実を否定する。
「あのな――」
一秒にも満たない時間。半分見えた瞳には、私が息を引き取った場所が映っていた。
「自死。としか言えない」
もう届かない。否。何を賭しても現実は変わらなかった。
それは、一人の命を以てしても。
「何人でも同じかもしれないね」
無情な音を立てて閉ざされた空間で一人。己の無念を呪った。
※ ※ ※
「所持金十円。口座残高も十円。まだ若いってのに。どうなってやがる」
帰署して部屋に戻ると、吐き捨てるように係長から通帳を見せられた。
「後何体、俺たちはこういう人間の死後に立ち会って、人生を探らなきゃならんのかね」
「……社会に殺された」
「ん?」
「いえ……やけに目立つ場所に貴重品があったなと思いまして……」
「そういえばそうだな。地域の人間が現着してすぐに発見したそうだから。わざとかね」
「それはそれで――」
「俺たちにはどうすることも出来ねえ。万能でもなければ、立派な正義の味方でもねえんだ」
「はい……」
肩を叩いて部屋を出て行く係長の肩や背中には、数千という死が覆い被さっているのだろう。
『社会に殺された!』
彼女はどんな表情で訴えていたのだろうか。
死人からは何も伝わらない。
偶然聞こえた声も、幻聴だったのかもしれない。
「生きてさえいれば――」
『それは強者のエゴだよ』と、冷めた彼女の声が聞こえた気がした。




