命と水
※Twitterに投稿した作品を加筆しました。
読経に鳴く蝉の経。
喪に流れる塩の珠。
「では、お墓へー-」
お寺さんと共に砂利の坂を登る。
空が暑い。夏を知る。
「夏の象徴が暑さを増す……」
独り言を拾ったのは、前を行く住職だった。
「惠蛄春秋を知らず--ですね」
茹だった脳と学のない頭では、意味を訊ねる体力さえ残ってはいなかった。
海を一望出来る開けた場所に建つ墓石の数々。
再び経を読み、供養をする。
「暑いだろうから……」
「久しぶりだね」
代わる代わる話しかけては水をかける。
愛おしいそうに。しかし、確実に薄れゆく影を追いながら。
墓石は、石でできているから重いのではない。
眠っている人々の人生が詰まっているから重いのだ。
21gには、それだけの想さがある。
灰になった白には、遺された人の想いも積もる。
線香に火をつけ、手向けていく背中が、年々小さく、骨ばっていく。
『人は死に向かって生きているから、今できることを精一杯やりなさい』
曾祖母が頭を撫でながら言った。
当時は幼く、意味が分からなかったけれど、両親、親族と会うたび、歳の重さと言葉の重さを知る。
手を合わせ、記憶を思う。
その横には、小さな体で全てを叫び終えた亡骸が転がっていた。
夏が終わる。
春秋を知らぬは誰なのだろう。後で訊いてみよう。
立ち上がり、墓誌を見つめる。いつか刻まれるであろう〝瞬間〟は平等に訪れる。
触れれば暖かい。供養だけではない。
だから今日も、温度を忘れないために水をかける。
その日の為に、今は亡き人々の為に。