そして到着
……………………
…………
…………?
誰かが俺を揺すっている。
ったく……人が気持ちよく寝てるってのに、どこの誰だよ……
疲れてんだから、もう少し寝させ――
「あのー……ちょっと、こんな所で寝てると危ない、ですよ?」
「ぅ……ん……?」
揺さぶられる力が強くなってくる。あーもー、分かったよ……分かったから……今起きるって……
仕方なく目を開ける。
すると、まず眼前に飛び込んできたのは、滅茶苦茶近くに接近していた黒髪ショートカットの美少女だった。
「うぇぇっ!?」
ビックリして反射的に仰け反る。すると、後頭部に何かが当たった。
そこでようやく自分がどこにいるのか分かった。
俺はどこかの林道の脇に盛り上がっていた土壁へと、もたれかかっていた。
……って、何だこの場所は。
何だかさっきも同じような経験をした気もするが……
うーん…………思い出せん。
「……?」
小首を傾げる少女から目を逸らし、周囲を見渡す。
まず一言で言うなら、知らない場所だ。少なくとも俺が生きてきた中で、こんな草木が生い茂る鬱蒼とした風景なんて記憶にない。
つーか……日本だよな、ここ。
直感的にそう思ってしまう程度には、どうしてもここがいままで暮らしてきた世界とはどこか違っている気がした。
空気というか、雰囲気というか……
何となくだが外国って感じがする。何となくだけど。
「えっと……大丈夫ですか?」
その声で我に返る。って近い近い近い!
ずいっと顔を寄せてきたことで、図らずも少女の容姿をまじまじと見つめてしまう。
……可愛い。この二十数年間、女に縁がなかったせいもあって、精巧に出来た人形のような少女の容貌は反則的ですらあった。
ついでに小動物を思わせる、少しオドオドした仕草が一層可愛らしさを引き立たせている。
歳は十五、六かそこらだろう。もしかしたらもうちょい下かもしれない。まぁ、体型的にと言うか。主に胸とか。
服装は丈が長めのシンプルなワンピース。何だか中世の町人が着ているような、古めかしさが感じられた。民族衣装ってヤツだろうか。
そんな彼女に対して、俺の反応と言えば、
「え、あ……う……ぁ……」
女と、しかも年頃の少女と面と向かって喋ることに慣れていなさすぎて、まともに言語を発せないコミュ障っぷりを晒していた。死にたい。
そもそも接客以外で人と話すのすら久しぶりな気がする。クソ、自然体で喋るのってこんなに難しいのか。
だが、少女はそんな俺の醜態にキモがる様子も見せず、寧ろ更に眉根を寄せて、
「あ、あの……どこか痛むんですか? 痛い所があれば、その、言って下さい。治癒魔法は使えないですけど、薬草の持ち合わせならありますから」
え、優しい。こんなキモメンにもそんな甲斐甲斐しく接してくれるなんて。天使か何かか?
って……ん? 薬草?
何、薬草って。何で痛い所があったら薬草って単語が出てくるんだ。
て言うかそれ以前に……今、治癒魔法って言ったよな?
魔法? 魔法って、あの魔法? ファンタジーな漫画やゲームで出てくる、アレ?
混乱ゲージが一気にマックスになる。少女の顔付きから、冗談で言っているようには見えない。それはそれで問題なのだが。
「な、なぁ。ちょっといいか?」
そう声を発した瞬間だった。
言いも知れない違和感が、突如として俺を襲った。
その正体は、他でもない俺だ。
正確に言うなら、俺の声。
思わず喉を手で押さえる。
自分の声なんて自分ではわりとハッキリ判別出来ないものだが、流石にこれは違うと分かる。
俺の声はこんな、まだ変声期の来てない少年みたいな声じゃない。
「ど、どうしました? やっぱり、どこか痛む所でも……」
そう心配してくれる少女が、再び覗き込むように俺へと顔を寄せた時。
決定的なことが起こった。いや、起こっていたと言うべきか。
彼女の瞳に映る、俺の姿は、俺じゃなかった。
歳にして、目の前の少女と同じくらいの、見たこともない中性的な顔立ちの少年だった。
「な、な……な…………」
「な……?」
「なんじゃこりゃあああああああああああああっっっ!!!」