はじまりへ至るお話
人生はバグゲーだ。
よく『人生はクソゲー』なんて言う人もいるが、バグゲーと表した方がしっくりくると思う。
まず平均以下の顔面として生まれてきてしまったことが既にバグだ。どれだけクソゲーでも、最初くらいはスタートラインを同じくしているものだろう?
別にそのことに対して両親を恨んでいるつもりなんて全くない。生まれ持ったものは仕方がない。
問題なのは世間だ。世界だ。
イケメンは何をしても許され、キモメンは何をしても誹謗されるこの風潮。少なくとも、生まれてこの方この顔で損をしたことは数え切れないほどあっても、得をした覚えは一度もない。
これもバグの一つだろ。最初に設定したステータス次第で全くアイテムをドロップしないゲームのようなものだ。バグ以外に説明がつかない。
そして出来あがったキャラクターが、二十九歳独身フリーターという、限りなく社会の底辺に近い町人A。学生時代に顔面が不自由だったせいで、すっかりコミュ障になってしまったおまけ付き
あぁ、そうそう。ちなみに絶賛ネトゲ中毒でもある。更に言うと、月の課金額は給料の三分の二を費やしてしまっている始末だ。
だがネトゲほど俺の欲求を満たしてくれるものはない。どれだけメンテがあっても、どれだけパッチがあっても、現実とかいうバグゲーよりよっぽどマシだ。
時間をかければちゃんとレベルが上がって強くなる。こんな当然すぎる過程すら、現実ではめったに起こらない。寧ろ時間をかけても徒労に終わる場合がほとんどだ。
は? 甘えんな? うるせぇ。キモメンになって出直してこい。
将来の展望はない。何になりたいかなんて望みも、いつしかなくなってしまった。
小学生かその辺の頃に『将来の夢』とかで作文を書いた気がするけど、もう忘却の彼方だ。
ぶっちゃけこのままだと浅ましくも実家に戻ってニートすらあり得るが、日に日に深く考えなくなっていった。
この世界はバグだらけだ。だから、もしかしたら、本当にもしかしたら、この後に今まで蓄積してきた不幸を帳消しにしてくれるバグが発生してくれるんじゃないかって、心のどこかで期待している俺がいるんだ。
もちろん、そんなことはそれこそ夢物語。普通に考えてあり得ない。
毎日は極々平和に過ぎていく。
小さな諍いは度々起こるが、大海にさざ波が立つが如く、俺が期待しているようなことには発展しない。
そう、俺が思うような“何か”なんて、起こるわけがないのだ。
俺だって分かっている。分かっていて気付かないふりをしているだけだ。
この世界は、上手くいく奴は上手くいくし、落ちぶれる奴は落ちぶれるだけだってことを。
――そう、思っていた。
思い込んでしまっていた。
話は全てが始まった――いや、違うな。
一度全てが終わったあの時にまで遡る――――