手加減
ギルドの前には、既に相当な人だかりが出来ていた。
単なるチンピラと新参者の喧嘩だってのに、コイツらどんだけ暇人なんだよ。
そして、野次馬に囲まれた中央にいるのは、俺とクロードだ。
彼我の距離は大股で五歩もないくらいか。一瞬で詰めれる距離ではないが、ここは魔法の国。向こうが何やってくるか分からないので、気は抜けない。
とにかく現状俺が知っている魔法は、ヴォルックを吹っ飛ばした時の風魔法のみ。流石にあれと同じ出力を食らわせたら周囲にも甚大な被害が及んでしまうのは目に見えているが、如何せん力のセーブの方法が分からないのが困った。今思うと強攻撃とか弱攻撃とか魔法攻撃とか、ネトゲではボタン一つで簡単操作だったなぁ。あーリリィに魔力の制御の仕方くらい聞いておけばよかった。
と、戦い方に不安を抱いていると、クロードが何かこちらに投げて寄越してきた。
一瞬焦って不意打ちの類かと思ったが、足元に転がってきたのは極々一般的な木刀だった。
「使え。俺も同じ獲物だ」
言って、クロードも木刀を一振り。単に片手で握っているだけだが、そこは実戦経験がある(と思われる)人間、どこか隙がない。
「……何か変な仕掛けしてないだろうな?」
「してねーよ! 別に俺はガチで殺り合っても構わねーんだが、ここで流血沙汰になったらメイルに殺されるからな。はっ、まさか剣を持ったことすらないとは言わねーよな」
あるわけねーだろ……と言いたいところだが、一応小学生から高校生まで剣道をやっていたので、長物を持っての戦闘は全くの素人と言うわけではない。そのスキルがこの場でどれだけ発揮出来るかのかは別として。
つーか木刀を渡されたが、別にこれを使わないといけないルールなんてないよな……?
だとしたら、やっぱり魔法で一発KOさせる戦略が一番理に適ってる気がするぞ。
となれば、問題はやはり魔法の制御――
「……………………」
いや待てよ。よく考えたら、野次馬のコイツらだってギルドに出入りしてるような輩ばっかりなんだし、多少ドギツイ魔法を繰り出したところで何とかしてくれるのでは?
うん、そうだよな。極力気合いで頑張ってみるが、やらかした時に尻拭いくらいしてくれるだろう、多分。
そうと決まれば、戦法は一つだ。
「あ、あの。ユーヤさん」
ちょいちょいと袖を引っ張られ、振り向くと傍には心配そうに眉根を寄せるリリィが。
「ん? どうした?」
「えっと、その……よっぽどの怪我じゃなかったら私の魔法で回復出来ますので……無理は、しないでくださいね」
「……あぁ、ありがとな。まぁすぐ終わらせるつもりでいるから、ちょっと人混みの向こうの方まで離れといてくれ」
「? どういう――」
「いいからいいから」
?となっているリリィを回れ右させ、俺は改めてクロードと対峙する。
どういうわけか、クロードはさっきよりもイラついた様子で、歪な笑いを浮かべていた。
「戦り合う直前まで女と会話たぁ、余裕じゃねぇか。あぁ?」
「……お前、もしかしてモテない?」
「ハァァン!?」
「あ、いやゴメン」
これは俺が悪かった。俺だって真剣に戦おうとしてる相手がこっちに目も呉れず女とイチャついてたらすぐにでもボコボコにしに行くだろう。その点においては、俺よりクロードの方が賢い。理性がある。