Alone in Galaxy (4)
クロスニカ区役所は、クロスニカⅢ系の最外縁にあたる第十二惑星アニカの軌道に浮かぶ大型宇宙ステーションだ。
何隻もの船が停泊している合間を縫って、マーヴィンⅡも錨を下ろす。
ステーションと接合するまでの管制官とのやり取りはキリーの仕事だ。管制から指定された位置へマーヴがこれ以上ない程の完璧さでドッキングを果たすと、キリーの上陸許可が発行される。
宇宙中を行き来する測量航宙士は、連合の身分証明のおかげでどこのステーションへもスムーズに入港できる。受付ゲートに並ぶ人垣を横目に簡単なチェックだけでゲートを通り抜ければ、そこは既にクロスニカ区役所だ。
ステーション内は綺麗に区画整理されており、モノレールと自動歩道でどこへでも移動できる。
近くの案内板の表示に従って、衛生課へ向かう。モノレールで二駅だった。
幸い衛生課の窓口は空いていて、待ち時間無く受付ロボットの応対を受けられた。
『ようこそ、測量航宙士殿。本日はどのようなご用件でしょうか?』
「害虫駆除の依頼をしたいんだ」
キリーがセンサーに身分証をかざすと、即座にコンピュータが銀河連合の星間開拓機構に照会する。
測量航宙士は、星間開拓機構の測量調査部に所属する。
星や宙域の環境を観測、報告し、時に住人への住環境の聞き取り調査も行う。問題があれば解決策を提案するのも仕事の一つだ。
『ご用件を了解しました。害虫の種類はお分かりになりますか?』
「蟻だ。柱や床や、とにかく家を食べていた。柱の中が穴だらけで巣になってた」
『住居に対する被害ですね。住所をお願いします』
「クロスニカ一丁目、ローラ・レイラ一番地だ」
受付係がコンピュータに情報を送る。が、返って来たのは受理証ではなく短いメッセージだ。
『該当の住所は住人からの駆除申請が発行済みです。じきに問題は解決されます』
「そうか、ならいいんだ。ありがとう」
片手を挙げて挨拶しながら、キリーは受付ロボットから離れた。
あの家から逃げた住人はそのまま役所に駆け込んだらしい。
その足で住民課にも立ち寄って、件の家族が公営住居に避難していると確認した。
これで問題は解決。衛星レイラはクロスニカ一丁目の有人居住衛星と証明された。
「聞いてたな、マーヴ?」
『直接住人確認はできませんでしたが、居住者の存在を公的に確認しました。
ローラ・レイラについて、“居住可能有人惑星:危険度B害虫被害”で報告書を作成します』
優秀なマーヴは、キリーが船に戻るまでに必要な書式へ一通りの記入を済ませてしまっているだろう。
後はキリーが顛末と所感を書き足して、本部へ送信するだけだ。
報告内容は課内に開示され、各班長と課係長の合議のもと採択される。
無事採用されれば、一ヶ月後には星間地図に反映されて連合から全ての航宙船に配信される。
キリー達測量航宙士には一週間ごとに最新の地図が届くようになっており、宇宙的スケールから言えばほぼリアルタイムに書き込まれていく地図で自分の仕事の成果を眺めることができる。
それが、キリーの職務に対する最大の楽しみでもあった。
「よし、一仕事終わり」
船に帰ってメールを一通送るだけ。本来ならその筈だった。




