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Alone in Galaxy (3)



もの凄いGが掛かって、キリーは床に転倒し端まで転がった。船倉の壁に押し付けられ、圧の掛かった喉から呻き声が漏れる。

「ぐぇ!」

エンジンの轟音と振動が背中越しに壁から伝わって来る。

圧死するかと思える程の強烈な慣性を味わった後で、ふと唐突に懐かしい無重力が戻ってきた。

宇宙に出たのだ。ごく数分の短い時間だが、それでも硬い床で味わう離陸の衝撃は堪えた。

「俺を殺す気か!」

ボートと一緒に飛び込んだ水が球状になって浮かんでいるのを手の甲で払いつつ、船倉のどこかに設置されたマイクにキリーが怒鳴る。

『いいえ、蟻を殺す気でしたよ。一応は』

涼しい声でマーヴは答える。

「あわよくば俺も、って意味だな」

『そういう意図と取れなくも無い発言だったことは認めます。が、本当にその気ならもっと確実な方法を選択します』

「だろうな」

『そんなことより早くボートを繋いでください。排気して侵入物を排除します』

無重力に慣れていない蟻達がじたばたもがきながら宙を漂っているのを横目に、キリーは自分の体とボートを近くの壁にフックで固定した。

ヘルメットの内側に気圧計が表示され、同時にハッチがゆっくりと宇宙空間に向かって開放される。

唸りを上げて、船倉内の空気が真空の宇宙へ飛び出した。渦を巻く風に巻き込まれ、蟻達は一斉に外へ放り出される。浮かんでいた水滴も気圧の低下に伴って蒸発して消えていった。

船倉内を走査して蟻が残っていないことを確認し、マーヴはハッチを閉じた。

『人工重力作動』

キリーの足が床につく。一番近い気密扉を潜って狭い小部屋に入った。二重扉に挟まれたそこは、宇宙の真空と船内気圧の緩衝地帯だ。

小部屋に空気が満たされれば、ドア横の赤いランプが緑に変わる。ぷしゅっと空気の抜ける音がして、船内への気密が解放された。

キリーはようやくヘルメットと防護服を脱いだ。

何だか酷く疲れた気がして、防護服を適当にハンガーへ引っ掛けるとゆるい足取りでブリッジへと戻る。

『お帰りなさいキリー』

マーヴの迎える声には、自然と零れる溜息で答えた。

「メインディスプレイに船体周辺を表示。蟻は?」

一つしかない椅子に腰掛け、船体の外殻カメラから送られて来る映像を眺める。と言っても目に付くのは見慣れた暗い星空だけ。

『流石に宇宙空間では生存できないようです。船体内外を走査しましたが、侵入は認められませんでした』

「よし、状況終了」

ようやく人心地ついた。

「しかし難儀な蟻だったな」

『詳細は問い合わせないと分かりませんが、人間のような大きな動物にも襲い掛かる点からかなり特殊な種類だと思われます』

「あの家族は蟻から逃げたんだな」

恐らく、とマーヴは答えた。

『住居周囲10キロメートル地表に連絡艇及びその格納庫らしき建築物は見当たりませんでした。

 推測ですが、湖を格納庫代わりに利用していたとすれば住民は既に脱出していると思われます』

「そうだな。まぁ念の為俺達からも報告に行こう」

コンソールからナビゲートシステムを呼び出す。行き先はクロスニカ区役所に設定した。

『了解。目的地まではゲート経由で45分の予定です』

後方から、プラズマイオンエンジンの唸りが聞こえ始めた。




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