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Nina, The Perfect Lady (1)



メインディスプレイに大きく女性が映し出されていた。

一部の隙も無く整えられた制服姿。真っ直ぐに垂らした髪が胸を飾る勲章まで届いている。

年頃はキリーとさほど変わらないが、東洋的な顔立ちのせいでやや若く見えた。

しかしその態度から滲み出る尊大さは、眼鏡の奥から冷たく睨みつける薄い灰色の瞳と共にキリーを射竦めた。

彼女こそキリーの上司、銀河連合星間開拓機構測量調査部部長ロサカ・リナその人だ。

「測量航宙士キルレイン・オルセン、出頭しました」

≪遅い≫

流石に上司の前では幾許か大人しいキリーに、画面の向こうから非情な言葉が投げ付けられる。

≪小言を言う時間も惜しい。用件のみ伝える。

 本日一五四〇時刻に、お前を名指しでクレームが届いた。警察庁からだ≫

一瞬でキリーの脳裏にオセロの怒鳴り声が甦った。

「あー……心当たりならあります。実は先程マーヴが警官を怒らせて……」

正直に先刻の事態を説明した。

≪なるほど≫

「でも、あれは向こうの勘違いが悪いんですよ!」

≪お前の言い分を聞いている暇は無い≫

せめてもの言い訳の言葉もきっぱりと退けられた。

≪とはいえ、こちらとて馬鹿げた妄言に付き合う義理は無い。お前の密輸容疑とやらは徹底的に叩き潰してやったから感謝して以後私の手を煩わせるな≫

“何かやったのかマーヴ?証拠を渡すとか”

キリーが極々小さな声でマーヴに問う。マイクに届く所か唇からも殆ど音が漏れないような囁き声だ。

マーヴからの返事は手元のコンソールの隅に返ってきた。カメラには映らず、従って上司にはバレないように。

“本部からのデータ照会はありません。提出前の報告に対して私が自主的に申告することも有りません”

では一体どうやったのか。キリーは知らないし、知る必要も無い。

画面の中の上司は涼しい顔で続ける。

≪で、お前達への処分としては、だ。問題児達は三日間の謹慎──と言いたいところだが、うちの人手不足が深刻なことは承知の通りだ≫

だだっぴろい宇宙空間を果てから果てまで駆けずり回る職業だ。人などいくらいても足りることはない。

≪よって、口頭による厳重注意と業務態度の改善プログラムを実施するということで茶を濁しておいた≫

一瞬考えて、キリーは片手を挙げた。

「質問してよろしいでしょうか?」

≪何だ≫

「お咎めなしって意味に聞こえますけど?」

≪局所的に見ればそうだな≫

鼻で笑う上司と同時に、その真意を察したキリーも悪戯めいた笑みを浮かべる。

「了解です、よく分かりました部長。減俸以外なら喜んで改善プログラムでも何でも受けますよ」

ようはこの上司がクレームを丸め込んでくれたのだ。ならば、素直に従っておいた方がいい。

二十代半ばという若さで連合の公共事業たる星間開拓機構のそれなりの地位に居るということが彼女の並外れた能力を物語っている。

キリーが腕の良い航宙士で測量航宙士が常に人手不足でなければ、彼女は一睨みでキリーの首を飛ばすこともできるのだ。

「で、どこへ行って何をすればいいんですか?」

≪まずはシアルビィ第一宇宙港へ行け。そこでお前には別の船に乗ってもらう≫

「別の船!」

素っ頓狂な声が出た。

「別の、ってどういうことですか?」

≪研修という名目での一時的なチーム変更だ。お前にはもっと品行方正な船に乗って品位というものを学んでもらう。お前の船は星間警察に出向し、警備隊の業務内容と彼らへの敬意を学んでもらう≫

「めんどくせぇ」『面倒ですね』

珍しくキリーとマーヴの意見が完全に一致した。

≪拒否権は無い、返事は?≫

『「マム、イエスマム」』

承諾の言葉が唱和した。

さしもの彼らにもこの上司に逆らう気概と無謀さの持ち合わせは無かった。





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