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Missing Mission (3)



椅子に座るよう促され、キリーは広い会議机を挟んでオセロの厳しい顔と向かい合った。

オセロはノートサイズの簡易端末を携え、聴取記録をつけるべく時折画面へペンを走らせながら問う。

「サブリナへの寄港目的と到着時間、そこからの行動範囲と接触した人間を答えろ」

「寄港目的は船のメンテナンス。到着したのは地球時間で14時は回ってたかな。港からは真っ直ぐここに来たし、上陸の時に港局員に挨拶してからはここまで誰とも人間とは話してない」

答えながら、キリーは記録が自動録音でなく筆記であることを珍しく思った。

「一体何の聴取なんです?」

じろりとオセロがキリーを睨む。

「しらばっくれるなよ、密輸犯め!貴様が禁輸生物を運んでたことは調べがついてるぞ!」

一瞬何を言われたのか、キリーには理解できなかった。

「ちょ、ちょっとちょっとちょっと!」

慌てて抗弁する。

「密輸だと?どういうことだ!何かの間違いだ!」

「しらばっくれるなと言ってるだろう!」

声を荒げて否定するも、それ以上の大声で怒鳴り返された。

「無実だ!密輸なんて知らん!測量航宙士にそんなことできる訳ないだろう!」

「測量航宙士だからこそ辺境の禁輸品を調達できるんだろうが!」

いいや違う、とキリーはきっぱり否定した。ここはしかと主張せねばならない所だ。

一見オセロの嫌疑にも一理あるように思えるが、星間開拓機構はそれ程放任主義ではない。

しっかりした規律を整え、そうできない環境を作り上げている。

「俺達が船に何か乗せる時には絶対本部への申請が必要だ。中央コンピュータの許可無しには米一粒余計には運べないんだぜ!勝手に持ち込んだり申請を誤魔化したりしたらすぐに船が本部に連絡してバレちまう」

だから密輸など絶対に不可能だとキリーは言う。

が、オセロは逆に我が意を得たりとほくそ笑んだ。

「船など所詮機械だ、どうとでもできる!その証拠に貴様の船が禁輸生物のインフェルノアントを運んでいたではないか!」

「あれは蟻が勝手に乗り込んできたんだ!」

オセロが何を疑っているのかキリーは理解した。

オセロは、キリーがインフェルノアントを故意に宇宙港へ運び込もうとしたと考えているのだ。

インフェルノアントは禁輸指定だけでなく危険生物指定も受けている。実際に宇宙港へ持ち込んだ場合、密輸に加えてテロリストとしての罪も免れえまい。

確かに危険な蟻を船に乗せてしまったことはキリーの過失だが、しかし故意ではない。緊急避難の過程で起きた事故だと反論する。

「こっちだって凍死しかけながら始末したんだ。倉庫を二個も犠牲にして焼き殺したんだぜ」

「怪しいものだ。密輸目的で積み込んだ蟻に船内で逃げられて慌てて処分したんじゃないのか」

疑おうと思えばいくらでも疑える。

だが、インフェルノアントの侵入が判明した後の対処は現場における最善だったし、マーヴィンⅡが接触した宇宙港であるクロスニカ区役所とサブリナにおいては星間開拓機構を通じてインフェルノアント侵入の可能性があることを伝え、三重の検疫と消毒を行ってもらっている。

そのどちらからもインフェルノアント発見の報は届いていない。

蟻どころか細菌一匹見逃さない宇宙港の検疫システムでも見つからないなら、安全と言っていいだろう。

キリーは迂闊ではあったが、少なくとも密輸やテロを行う意図はどこにも無かったのだ。

「とにかく貴様の容疑はこれからみっちり取り調べてやるからな、覚悟しろ!」

「参ったなあ、16時から船体修理の立会いがあるのに。

 おいマーヴ、何とか言ってやってくれ」

『おや?先程は黙ってろと命令されたように思いますが?』

マーヴが不機嫌を装った声で応答する。

『都合が悪くなるとすぐ私を頼りにする。情けない船長です。そんなあなたにも健気に尽くす私はなんと心優しい船なのでしょう』

「分かった分かった、お前は宇宙一心優しい船だ。だから何とかしてくれ」

ンンと咳払いのようなノイズの後に、キリーの通信機からマーヴの合成音声がこう言った。

『辺境第789警備隊第18班船長レイニー・オセロへ、測量航宙船マーヴィンⅡが申します』

マーヴはわざと“辺境”とつけた。多分オセロの神経を逆撫でるために。

『測量航宙士キルレイン・オルセンへ密輸容疑による尋問を行うならば、まずは逮捕状を提示してください。

 現時点での聴取は任意であり、星間警察にキルレイン・オルセンの職務時間を拘束する権利はありません』

「何だと!」

オセロがキリーの通信機を睨みつけた。

『星間警察法第二章9条に、被疑者の拘束における法令が記されています。ご確認ください』

言われるまでもなく警官ならば熟知していて当然だ。故にマーヴの発言そのものがオセロにとっては侮辱だった。

「機械風情が意見する気か!」

『意見ではありません、正当な要求です。キルレイン・オルセンの身柄を拘束する法的根拠を提示できないならば直ちに解放してください。測量航宙士の身柄を不当に拘束する場合、威力業務妨害と判断し星間開拓機構より正式に抗議します』

ぎりぎりと歯軋りするオセロの顔が、見る間に茹で蛸のように真っ赤になっていく。

結局こうなるのか、とキリーは胸中で溜息をついた。

「えっと、まあ、逮捕は勘弁ですけど聴取くらいなら応じますからここに連絡を」

公的な連絡先として測量調査部の窓口呼び出し番号を書き付けたメモを渡す。せめてもの大人の礼儀だ。

それを引っ手繰って、オセロは手の中でくしゃりと握り潰した。

「貴様ら覚えていろよ!まとめてスクラップにしてやる!」

『お言葉ですがあなたにその権限はありません。あなたの所属は星間警察航宙機動部にありますが、我々は星間開拓機構測量調査部に属しており、従って我々の……』

「えぇい!黙れ黙れ!出て行け!」

通信機のスピーカーを切ろうとしたキリーの指先は一歩間に合わなかった。

激昂したオセロの怒鳴り声に追い立てられ、キリーは慌てて会議室を飛び出した。




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