序、
無限に広がる大宇宙。地球という揺り篭を飛び出した人類が虚無の空へ船出して幾星霜。「地球は青かった」の名言も今や過去の輝きと化し、宇宙は身近な生活空間に成り果てた。
留まるところを知らぬ人口増加により人類の住環境は悪化の一途を辿っていた。地下、海上都市に加えて宇宙ステーションや月面基地、居住可能な惑星や衛星、小惑星の果てに至るまでくまなく入植が繰り返された。
高騰を続ける地価、深刻化する住宅事情、街に溢れる人、人、人。
人口増加に歯止めをかける有効な方策も無いまま、誰もが窮屈な生活に苛立ちを募らせていた頃。
ある科学者が、この世界と薄皮一枚隔てて存在する特殊な力場に気がついた。
亜空間ゲート。恒星間航法の完成だった。
狭苦しい太陽圏を飛び出して、人類は競うように星々の海へ旅立った。
宇宙は自由で広大で、満員のモノレールに押込められて圧死寸前になることはなかった。鮨詰めになった自動歩道で身動きも取れず立ち尽くすことも、空間占有体積(つまり恰幅の良さ)に対して税金を掛けられることも無かった。自転車用ガレージや日光浴ができるベランダ、風呂とトイレの分かれた浴室や植木鉢を飾る出窓さえ持つことができた。
そうして、人々は那由他の彼方へと飛び去った。
隣家を訪ねるのに宇宙船でひとっ飛びする、“銀河ひとりぼっち時代”の始まりだった。