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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ドリームランドへようこそ!

作者: 白夜 零

一.


「遊園地に行こうか?」


 パパの言葉の意味が すぐには分からなかった。

 ママの方を見る。ママは にこにこ笑っていた。ママがにこにこしているの 何日ぶりだろう?考えてみたけど ママはあんまりおうちにいないし おうちにいる時も疲れた!って顔をしているから ママのにこにこ顔は あんまり覚えてない。

 ママのにこにこを見られて パパもおうちにいて にこにこしてる。

 それだけでも すっごく嬉しいのに パパは今 ゆうえんち って言った。私は ゆうえんちって 知らないけど おともだちは ゆうえんちに行ったことがあって すごく楽しいところだって にこにこで おはなし してた。

 絵本に ゆうえんちが 出てきたことも あったきがする。そこは 夢みたいに 楽しそうなところだったから 私も行ってみたいなって 思ったけど パパとママも 忙しいもの。わがままを言って 困らせちゃだめだって がまんしてたのに。

 ゆうえんち!

 そのわくわくする響きに 私はおもわず 身を乗り出して ぴょんぴょん飛び回りたくなって。でも がんばって がまんする。

 さわいだら パパにもママにも 迷惑になっちゃうから。


「ほ ほんとに?」


 でも 本当の本当に ゆうえんちに行けるのか 確かめたくて 私はわくわくをおさえきれずに でも ごきげんを損ねないように気をつけて おずおずと パパとママにききかえした。

 パパもママも ごきげんを損ねないで 今まで見たことがないくらい にこにこ笑ってくれていた。


「そうだよ」

「明日はママもパパもお休みになったの。だから遊園地に行けるわ」

「やったぁ!」


 飛び上がって喜びたいのは がまん。

 わくわくして眠れなくなりそうだったけど 早く寝ないと パパもママも困っちゃうから 私は目を瞑って 早く眠れるようにがんばった。




二.


 ゆうえんちは お話や絵本で見るより すてきなとこだった。

 ちょっと人がいっぱいいたけど みんな笑っていて 明るい声をあげてて カラフルなもので 溢れていた。

 乗り物には あぶないから乗っちゃだめよってママは言ってたし 私がお洗濯が下手で ついお部屋を汚しちゃうから かわいいぬいぐるみっていうのも うさぎさんやくまさんが みんなに配っている ふうせんというものも なんにも もらえなかったけど ゆうえんちの中にいるだけで すっごく楽しい。


「じゃあ飲み物を買ってくるから ここで待っていてね?」


 ママはベンチを指して 私にそう言った。

 もしかしたらジュースを買ってもらえるのかなぁと 嬉しくなって 私は頷くと ベンチに座ってママが来るのを待った。





 私の前を いろんな人が いっぱい通り過ぎていった。楽しそう。ママはまだかなぁ。パパはまだかなぁ。

 だんだん通り過ぎる人は 減っていって あたりも暗くなっちゃったけど そしたら 周りがきらきらになった。

 夜は薄暗いのにすごいなぁ。夜なのにきらきらしてる!

 それが嬉しくて ママもパパも戻ってこないのが不安だったけど 楽しく待っていられた。ママもパパも 言う事を聞かないと怒るもの。パパとママは つかれてるのに 怒らせちゃだめ。

 だから私は ママとパパを待っていないと いけなかったのに。誰か他の大人が来て 私のことを ゆうえんちから追い出した。

 どうしよう。

 困った。私は ママとパパを待っていないと いけなかったのに。

 でももう ゆうえんちは お部屋の中より 暗くなっちゃって きらきらがない。さっきまで きらきらしていたとこが 暗くなっているのは なんだか怖くて。

 私は うしろから 怖いのが迫っているように思って。もう ベンチから離れちゃったから 怒られるのも変わらないって 歩き出すことにして。



 大きな音がした。

 それから さっきのきらきらとは違う まぶしい光が 目の前に出てきて。



 それで おしまい。



三.


 遊園地は連日騒がしい。笑顔の家族連れや友達同士、恋人同士が楽しそうに歩き回り、手にはジュースや軽食、風船に遊園地限定のグッズと、充実していそうである。

 ああ、遊園地とは本来こういう場所であったのかと私は思うけれど、今はもう遊園地を楽しむ気にはならない。そんな私に興味を持ったのか、1人の子供が駆け寄ってきた。


「どうしたの?おねえちゃん」


 どうもしてないわ。

 そう答えようと思って、私はふと考えを改める。この子の親はジュースか何か買いに行ったのか、姿が見えない。

 私は出来うる限り満面の笑顔を浮べて、出せうる限りのやさしい声で子供に聞き返した。


「ねぇ、お姉ちゃんと一緒に来ない?」



四.


 ごろん、と重い物が落ちる音がした。私はそれを興味なさそうに蹴り飛ばせば、ごろごろと同じく重そうな音をたてて少しだけ進み、止まった。

 初めてやった時には戸惑ったし、罪悪感も少し抱いたものだが、今はもうそうしたものはない。罪悪感どころか正に何も思わないのだ。

 この遊園地は近い内に閉園になると誰かが話していた。それもそうだろう。子供失踪事件はいまだ解決の糸口が掴めず、理由も不明。親は半狂乱になりながら子供を探すも見付からず、そんな親が遊園地に問題があると言い出し、遊園地にマスコミが押し寄せ、文句を言う親が押し寄せ、とてもではないが遊園地の経営どころじゃないのはよく分かる。

 だけど私だって悪くない。親が子供を探そうとしなければ、ここまでやらなかったのに。

 親が子供の不在も気にせず、平然と生活していたのであれば、私はここまでしなかった。放っておくか、一緒に暮らす事を提案するか、そんな親でも子供が戻りたいと望むのであれば家に帰してあげるつもりだった。ただ声を掛けた子供全員頭だけになって転がる結果になったのは、親が子供を必死になって探していたからである。返して欲しいと訴えていたから。子供を愛していたから。

 普通の親であればそれが当たり前だって言う人はいるかもしれないけれど、そんな事はないと思う。当時の私は分からなかったけれど、今の私は分かっている。パパもママも遊園地に私の事を置いていった、捨てていったのだと。

 だからこそ私が事故に遭ったと聞いても親が訪れる事はなかったらしい。そんな親だってきっといると思ったのだけれど、生憎お城での生活の中でそうした親子に出会える事はなくて、私の中で虚しさや絶望を際立てるだけだった。

 遊園地で一際目立つお城のアトラクション。その地下が私のお家。人間の頭がいっぱい転がっているけど、問題ないよね。もう遊園地は閉鎖されちゃうんだし、誰もお城の地下には来ない。なんでも地下には私が招いた相手しか入ってこられないんだって。


「キミも、パパとママが心配してくれてたもんね。半狂乱になって、大人なのにみっともなく泣きながら。幸せだね!!」


 満面の笑顔を浮べて言ったのに、床に転がる頭は、虚ろな目で見つめ返すだけで何も言わない。

 まあ仕方ないか。人は死んだら喋らなくなっちゃうんだもん。

 ああでも、1つだけこの遊園地がなくなるのは困るかな。だって親子が来なくなっちゃうじゃない。私の嫉妬心はどこに向ければいいのかなぁ。



五.


 人間とは愚かな生き物らしい。恐ろしい話を見付ければ勝手に食い付いてくれるのだ。

 遊園地が寂れて暫く、かつて程ではないものの廃園になった此処はそれなりに活気を取り戻していた。何でもこの遊園地は、知る人ぞ知る心霊スポットになったらしい。

 成る程。こんな所にわざわざ来る人間の神経は知れないけれど、もう如何でもいい。

 幸い城の地下も心霊話の1つに組み込まれていて、命知らずで愚かな人間が、ただただ好奇心を満たす為だけに訪れてくれる。

 それならば私がする事は1つである。喜んで私の部屋のインテリアにさせてもらおうか。

 さあ。


「笑顔溢れる、明るい遊園地にようこそ!……生憎電力不足で暗いけれど、それはご愛嬌でお願いね?」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 夏ホラーからお邪魔してます。 ネグレクトから子捨てへ転じ、発生した不憫なモンスター。 ドリームランドの設定を使いこなしていると思いました。 [気になる点] やや見せ方がシンプルに感じました…
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