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ジャックと時計塔  作者: ろんぐ
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ハロウィンがやってきた、かくれんぼのはじまりだ!

 ジャックの住む町には石造りでできた、背の高い時計塔が建っていました。

 ふるいふるいその塔は、お昼の12時になるとボーン、ボーンと低い音を鳴らすのが役目です。

教会に孤児院、学校が時計塔の周囲に散らばり、囲むように住宅が並んでいます。その中で最も時計塔に近い場所には、塔の管理人が住む家がありました。

 小さな町ですので、子どもの足でも2時間あればぐるりと町を見て回れます。

パン屋の香ばしい匂いに、機械屋の油のかおり、近所の犬の鳴き声に、学校で生徒がそらんじるだれかの言葉。それもつい昨日までの日常で、今日は年に一度の大行事がやってきましたからどこも大わらわでした。

 陽気で陰鬱な音楽、オレンジや赤に、黒を基調とした飾りつけ。どこの家もお店も甘い匂いが満ちて、非日常な衣服に身を包んだ子どもたちは大はしゃぎです。

 なんといっても今日は10月31日のハロウィン。仮装した子どもたちは家々を尋ね、待っていましたとばかりに大人たちはお菓子をふるまうのですから。

 さて、時計塔の昼を知らせる鐘を合図に町にはお化けたちが闊歩しています。おやつの時間を迎えるころにはみんな抱えきれないほどのお菓子をお化けカボチャのバケツや、ゴースト型のリュックサックにパンパンに詰め込んでいました。

子どもたちはおしゃべりを楽しみながら、最後に町のシンボルである時計塔に向かっていきます。

 この町のハロウィンは、幼稚園生から小学生までの子どもたちが時計塔でかくれんぼを行うのが習わしなのです。教会の司祭様から飴の袋をもらったジャックも時計塔へ向かいました。

歯車の動き回る機械室を抜けて、硝子でできた時計盤の裏へ隠れることに決めました。

 硝子張りの円状の時計盤は、塔の中から外を眺めることができます。時計塔と学校以外に高い建物があまりない町ですので、夕暮れ色に染まる愉快な町の景色は壮観でした。

 ジャックは秒針の進む音に耳を傾け、時計盤とは反対側の壁際に置かれていた大きな木箱に寄りかかって座りました。

 待っている間にお菓子を食べようともらった飴の袋を開けました。何粒か入っているうちの一粒をとりだし、包み紙をはがして口に放り込みました。優しく広がるはちみつ味の飴を舌で転がしながら、きれいに包み紙をたたみ、ポケットにしまい込みます。

 下の階から大きな笑い声が響いてきました。きっともう見つかった子どもの笑い声でしょう。司祭様と時計塔の管理人が二人でかくれんぼの見つける役を行うのです。

管理人のおじさんは気のいい面白い人ですし、司祭様は優しくいつも穏やかに笑っています。町の人々は子どもたちを含め、みなこの二人を尊敬しておりました。

 見つけられた子どもは司祭様の祈りの言葉を受け取り、悪霊につかれることなく健やかに過ごせるようになるのです。

見つけられない子どもはどうなるのかですって? 大丈夫、かくれんぼの得意な管理人さんがいるのです。町の子どもたちの迷子探しはいつもこの人が見つけているのですから。

 どれくらい時間がたったでしょう。小さな町ですから、2時間もあればすべての子どもへの発見と祈りは済まされます。

下の階も終わり、2人が階段を上ってくる音が聞こえました。2粒目の飴の包み紙をはがして口に入れると、司祭様の祈りの声が機械室を挟んだ向こう側から聴こえてきました。

 そろそろこの部屋に来るころあいでしょうか。木箱の裏に隠れて息をひそめれば、2人が段々と近づいてくる気配がにわかにわかります。木の扉がぎぃと音を立てて開きました。

「さて、最後まで残った人は誰かな?」

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