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ツインテールにしたお下げ髪を引っ張ると、それによって乳がでかくなる事に気が付いた女子高生

作者: キョウカ

※アマラ先生による訓練の一環で練習で書いた短編です。元のアイデアはアマラ先生のお題にあります。

「だってあんたってさ、貧乳だし?」


 うつむく私に投げかけられたのは、そんなデリカシーの欠片もない言葉だった。

 私は、この平たい自分の胸との間に因縁があった。

 小さい頃から変わらず膨らまない私の胸。

 小学生の頃なんかには男子が「おっぱいは大きい女子がいいよな」と言うのを聞いていたものなので、私も背丈が伸びれば自然と大きくなるものだと考えていた。


 でも現実はあまりにも無情で、容姿というものは殆どが遺伝で決められているらしい。

 事実、私の祖母と母は貧乳。そして祖父も父も兄も貧乳であった。

 ……冗談はさておいて、たしかに私の家系は代々貧乳だ。


 祖母が言うには、これは呪い。

 母が言うには、これはステータスだと(父は貧乳好き)。


 でも私だって女だ。

 胸は大きければ大きいほど嬉しいし。別にスポーツなんかもしないから、邪魔なんてことはない。

 少なくとも胸パッドを毎朝、菩薩のような表情で制服のシャツ下に入れなくて済む。

 おしゃれなブラジャーだって着けてみたいし。それを鏡の前で確認して、ちょっとは小悪魔的なオーラを出す練習もしてみたい。


 それに比べて、貧乳はどうだ!

 まず文字通り、貧相じゃないですか。それに男子だってどうせ巨乳が好きなわけじゃないですか?

 例え「僕、貧乳が好きなんですよね。ふふっ」とか言ってくる男がいても間違いなくロリコンな趣味持ち合わせてそうなイメージしかないですし?


 要するに、私は胸が欲しいのだ。


「ねぇ、理子。黙ってちゃわからないんだけど」


 私、理子は、そう言われると溜息をついて顔をあげる。

 目の前に立つこの嫌な同級生、名を彩花と言うのだが……見た目は一言で表すとしたら”ギャル”である。

 しかしこれを正確に言い表すのならまさに”巨乳ギャル”。クソビッチめ……マジ羨ましい……。


 こいつとは幼い頃からの近所付き合いで一緒に育ってきた。

 性格は私に対してだけやけに最悪。まさか高校まで一緒になるとは思ってもなく、こいつと同じ高校、それも同じクラスになることを知った時は神を呪ったものだ。


 また、私のこの貧乳コンプレックスはまさに彩花が原因だと言っても過言ではない。

 小さい頃から「胸ちっさいね」といじられ、それがいよいよ高校まで続いたんだから笑えない。

 そもそも小さい頃はみんな胸が小さいんだよ!テメェがでか過ぎんだよ、牛女!


「別に? 何か文句あるの?」


 彩花の挑発には乗らず、ヒクヒクと痙攣する顔のままニッコリとする。

 それを見た彼女はなんとも人を苛つかせるような、いや異性から見れば可愛らしいとも受け取れる仕草をして「はぁ?」と返してくる。


「いやだから、なんで学祭のイベントで私と同じ服着てたわけ? 全然似合ってなかったし、笑えたんだけど」


 この女、わざわざ昼休みの時間に私を女子トイレにまで呼び出してこんなクレームをしてきているのだ。

 それなのに、彩花はモテまくってるのだから。男ってのは理解できない。

 勘違いしないで欲しいのは、私だって自分の容姿には自信はある。

 しかし大抵の男子は「可愛くて胸も大きい方がポイントは高い!」とでも思ってるのか、彩花の方につく。


 でもそれでも私は構わなかった。

 だって私にだって自分のこと見てくれる男がいる、その一人だけで満足だったから。


 とにかく、彩花による説教は15分ほど続いた。

 私は女同士の喧嘩ほど見苦しい物はないことは知っていたわけだし、これでも成績優秀者。

 だからこんなくだらない事で騒ぎになって内申点を落としたくはなかった。

 私は、我慢した。


 でも——


「ところでさ、隼人からはもう話来てた?」


 彩花が声音を変えた。

 唐突に切り替わった雰囲気と話に、私は思わず驚いて目をまんまるにして見開く。

 

 彩花の話を聞き終えた後、隼人からもLINEが来て彼女が嘘をついてないことが分かった。

 そして、その日、私は早退することにしたのだ。


◇◇◇


「どうしたんだい理子。なんだか元気が無いけど」


 祖母がドアの外から心配そうに声をかけてきていた。

 でも私は何も答えれず、ベットの上で丸くなってすすり泣くことしかできなかった。

 隼人。私の彼氏だった男の名前だ。

 なんで過去形? 彩花とくっつきやがったからに決まってるじゃん。


 とにかく私は負けた。

 彩花に全部負けて、そしてバカみたいに部屋に篭っているんだ。


「理子、どうしたのさ」


 優しい祖母。

 小さい頃から私が泣くと祖母は隣に来て、何か楽しい気持ちにさせてくれた。

 一番印象に残ってるのはやっぱり、私がママに怒られて泣いてた時だ。

 手品をしてびっくりさせてくれたなぁ。


 でも、今はそんな気分じゃない……。

 ドアを開いて部屋に入ってきたおばあちゃんを追いだそうと「やめてよ……」と言う。


「高校生になってもまだ泣き虫だねぇ。おばあちゃん、いいことを教えましょうか?」


 来たよ、おばあちゃんの豆知識タイム。

 でも私はそんなの聞く気分にはとてもなれない。さすがにカッとなって、涙で濡れた顔を上げて「出て行ってよ!」と叫ぼうとした時——


「おっ、おおお、おっぱいデカッ!?!?!?!?」


 そう、私の目の前に立っていたのは祖母ではなかった。

 いやたしかに、これは祖母である。しかし胸が……おっぱいが祖母ではなかったのである。


「えっ!? え!? なにどうして!? 凄いや! おっぱいだ!!!!」


「理子待ちなさいッ! ちょっ痛い゛! 千切れる゛!!!」


 反射的に祖母の胸を両手で鷲掴みにすると、まるで絶叫するように私は大声を上げた。

 祖母はなんだか痛みで悲鳴をあげているようだ。しかし、私はただその胸を触診することに夢中で、それが本物のおっぱいであることを何度も確認する。


「ていうかなんでツインテールのお下げしてんの!? おい、クソババアこれどういうことだよ!!!」


「り、理子なんか目が怖いのさ……」


 落ち着いてみると、祖母が髪をツインテールのおさげにしていたことに気づく。

 そのツインテールをまとめるゴムなんか私のやつだ。

 あまりのショックと非現実的な出来事に私はただただ、目を獣にして祖母を問い詰める。


 おばあちゃんは息を荒げ、なんとか私を遠ざけるとコホンッと咳払いをするのだ。

 そして話を始める。


「おばあちゃんね、実は最近ちょっと女子高生ファッションに興味が出てね……」


「……へぇ」


 引いた。


「そこで爺さんにまた燃え上がる情熱を思い出してもらおうかと、若く見えるっていうツインテールを試したのさ」


「ツインテールは若く見えるんじゃなくて、若い子がやる髪型なんだよ。おばあちゃん」


「それでさよ、なんとなくこのおさげのツインテールを両方同時に引っ張ってみたのよ。するとさ……」


 おばあちゃんはツインテールをキュッと引っ張ってみせた。

 一瞬、目眩がしたかと思うとおばあちゃんの胸が淡く輝き始めた。

 とっさに私はその胸にまた両手を添えると……


「胸が少し大きくなるんだよ」


 私の手の中で、胸がでかくなったのだ。

 それを目の当たりにした私はしばらく、目をパチパチさせ、そして眉毛を思いっきり上げると両足をバタバタさせながら声を上げる。


「きゃぁああああああ!!!! おばあちゃん凄いよ! これ凄いよ!?!?!? あはははははっ!」


 まさに歓声と笑い声。

 意味がわからなすぎて、もう本当にわからん精神状態になってキャーキャーと叫びまくる。

 それをドヤ顔で受け止めていた祖母は、ふとこう言うのだ。


「理子も試してみるのさ」


◆◆◆


 結論をさきに言おうと思いまーす。

 私は、神になりました。


 そうなのだ。私もおばあちゃんと同じく、ツインテールを引っ張れば胸が大きくなる体質だったのだ。

 これは家族全員に報告され、母も兄も父も爺ちゃんでさえも同じことを試したが、胸は大きくならなかった。

 まさに隔世遺伝。ありがとう遺伝子。ありがとうおばあちゃん。そしてさようなら貧乳。


 私は彩花も隼人も、そんな浮気したとかされたとかどうでもいい気分になっていた。

 その日以降、私はこの体質を詳しく知ろうと様々な実験を繰り返した。


 まずはこの体質、一回ツインテールを引っ張るたびに胸は約1センチ大きくなる。

 そしてそれは繰り返すたびに大きくなるのだ。

 だがしかし、ツインテールを8時間以上も解いてしまうと胸が元の大きさに戻ってしまうという欠点があった。


 これはどういうことかというと、一日のほとんどをツインテールで過ごす事になる。

 普段はお嬢様スタイルで髪を下ろしていた(実は髪型作るの面倒だっただけ)私だけど、家の中でまでツインテールってさすがにちょっと嫌な気分だった。そもそもツインテールって男ウケは良いけど、高校生にもなってその髪型だと女ウケは悪い。


 ていうか、おばあちゃんまでおっぱい維持のために家の中ではツインテールなんだ。

 これは言っていいのか迷うけど、見ていて少しキツイ。

 喜んでるのはお爺ちゃんだけだ。

 つか喜ぶんだ……お爺ちゃん……。


 とにかく、私はもうこれから貧乳だからって惨めな思いはしなくて良いんだ……!

 そう思うと、突然二人の顔が脳裏をよぎる。

 あのアホギャルの彩花と、浮気しやがった元カレの隼人だ。

 胸を自在に大きく出来る能力を知った今、私には恐れるものなど何もなかった。


 そこで、私は自分の高校をこの手と胸で掌握しようと決心したのだ。


☆☆☆


 一週間後。


『なんかあいつ前から少し可愛いとは思ってたけどさ……最近おっぱいでかくなってきたよな』


 いつも目立つのをめんどくさがっていた私。

 色々と自信がなかった私。

 もうそんな私はここに、この高校には既に存在していなかった。


 胸の大きさは”無”だった頃から、だいたい7センチほど成長している。

 こうして緩やかに成長させる理由はやはり「あいつ豊乳手術したんじゃね」だなんて思われないようにするためだ。

 しかし、この案は意外と人々に効くものである。私への注目度は胸が成長するたびに高まり、私に声をかける男子も増えてきた。


 この時から、彩花の嫌そうな表情が目立つようになってくる。


★★★


 一ヶ月が経った。

 最初の一週間のあと、私は胸の成長をさらに緩やかにさせた。

 いまではCカップのブラジャーを使用しているがそれが少しきつく感じる程度の大きさになっている。


 この時から私の取り巻きは結構な数となっていた。


「理子さんは成績優秀、見た目もお淑やか、胸も高度成長期、そして可愛い! もうこれはあのギャル彩花から乗り換える時ですね。よく考えればあいつアホだし偉そうだし」


 彩花の人気が下がっていく一方で、私の評価は比例するように急上昇していくのだ。

 それを不満に思うのはもちろん彩花で、ある日の昼休みにはまた女子トイレへの呼び出しを食らう。


「あんたさ、なんか胸に入れてんでしょ。ツインテールまでしちゃってさ」


 疑いの目。

 そんな蛇のような視線を向ける彩花に鼻笑いで返すと、私は身体を少し屈めて彩花の顔のすぐ近くまで寄る。


「触ってみる? 確かめよっか?」


 ワイシャツの胸部分を引っ張って、彩花に中が見えるように挑発する。

 すると彩花は今までとは違う私の態度に驚いたのか。

 それとも怖気づいたのか口を半開きにしたままである。


「あははっ、冗談に決まってんじゃん。ばーか」


 小さく笑い声を漏らした後に、私は舌を出す。

 彩花の不服そうな顔を横目に私は彼女を女子トイレに置いたまま帰るのだ。

 無表情のまま、私はつぶやく。


 くたばれ、雑魚が。


♡♡♡


 ところで私の胸がEカップアンダー65になった時。

 つまり夏休みがそろそろ来るんじゃないかと思えるくらい、谷間が暑くなってきた時期のことである。

 学校は既に私の手中のなかにあるのと同じだった。

 私が廊下を歩けば男子は振り向き、貧乳女子どもはこの胸から目を逸らす。


 静かに微笑んで、教室につくと、席に座っていた彩花にも軽く挨拶をする。

 もうこの女の力など僅かなものでしかない。

 私が席に座れば周りに人が集まり、授業が始まればどんな難問も私がさらっと解く。


 試験が近づけば私に補習を求める学生が群がり、鼻の下を伸ばした男子は柔らかに断る。

 これも胸がデカくなったから。所詮、この世界は単純にできていたんだ。


 でもどんなに世界が私を中心に回り始めても、どうしたって変わらないことがあった。

 彩花と浮気して裏切りやがった元カレの隼人である。

 彼からは相変わらず連絡もなければ、学校で会っても会話一つなしに目を合わせてくれさえしない。

 それが自分をイライラさせたのだ。


 私は誰よりも綺麗なのに、どうしてあいつは何も言い寄ってこないの。

 そんなモヤモヤが心を蝕んでいく。


「最近あなた性格変わったわね。やっぱりステータスの貧乳を捨てるから……」


 家にいると母がこう言う。

 でも私はママが毎晩洗面所の前でツインテールをして、一生懸命に髪を引っ張ってるのを知っている。


「やっぱり二次元の女のほうが性格良いよな」


 兄は私と喧嘩するとサラッとこう言う。

 オタクしねと思った。


「また貧乳に戻ってみたらどうだ? お父さんはね、平たい胸が日本女性の奥ゆかしさを表現し――」


 貧乳の素晴らしさを熱弁する父は正直、近寄りたくなかった。

 とにかく何もかもがモヤモヤしていて、胸は大きいのに、何かが抜け落ちていたような気分がしたのだ。

 でもある日、私がボーッと部屋の中に篭って窓の外を見ていた時。

 ツインテールのおばあちゃんが部屋に入ってきた。


「また元気がないのさね、理子」


「別にそんなことないよ」


「おばあちゃんには分かるのさ」


 そう言われると、思わず肩の力が抜けてしまう。

 おばあちゃんはそれを見ると、優しく私の背中をさすって言うのだ。


「心が醜い姿になってるのさ、理子」


「……なんで?」


 おばあちゃんの言葉にビクッとした私は恐る恐る聞き返す。

 私が見つめる先にある、垂れた祖母の両目が真剣な眼差しを向けてくる。

 力強い。


「理子は、貧乳を見下している目をしている」


「……私、そんな――」


 そこまで言いかけて、私は口を閉じてしまった。

 視界が揺れる。

 いつから私は貧乳を見下し始めていたのだろうか?

 今日だって学校の廊下を歩くとき、貧乳女子を見れば嘲笑の視線を向けていた。

 そんなことを無意識がてらに私はやっていたの?


 いや、これが私の本性なんだ。

 人をずっと見下したかったんだ。


 そう気づくと、ショックで口元を両手で覆ってしまう。


「私、サイテーだ……」


 私がそうつぶやくと、おばあちゃんは優しい笑顔を浮かべて頷く。ツインテールだけど。

 ところが突然、おばあちゃんの顔がキッと鋭くなると今まで聞いたこともないような大声で叫んだ。


「理子ッ!!」


 気づけば私はおばあちゃんに押し倒され、そのまま一緒に床に伏せた。

 そして同時に背後にあった窓がガラスごと粉砕され、キラキラと光る破片が部屋中に散る。

 いきなりの音と状況に私は驚きを隠せずに悲鳴を上げた。


「あーあ、外れちゃったかぁ」


 混乱と恐怖で腰を抜かしていると、窓の外から一人の女が飛び込んでくる。

 ここは一戸建ての二階だ。人が外から簡単に飛び込めるような構造にはなっていない。

 思考が乱れていく中、顔を上げてその女を見る。


「あ、彩花……!?」


 揺れる茶髪と鋭い目、そして着崩された制服。

 まさに彼女はギャルJKの彩花だ。


 彩花はいつもとはまるで違う雰囲気で、その手には……銃!? なにかシルバーに光る金属製の銃を片手にしていた。

 銃口は煙も吹いているし、窓だって割れている。

 まさか本物なわけないよね? ここ日本だよね?


「ほう……久しぶりに銃声を聞いたと思えば、デザートイーグルかのぉ」


「お、お爺ちゃん!?」


 第二次世界大戦を生き抜いたと言われる、私の祖父は仙人のような髭を撫でている。

 それも、少しだけ開かれた私の部屋のドアのすぐ後ろでこちらを覗いていた。

 ていうか完全にエロジジイのごとく顔を真っ赤にして、嬉しそうに彩花の胸を凝視していたのだ。

 空気読めよジジイ……。


「老いぼれに邪魔されたけど、今度は外さないよ? 理子」


 ぎっくり腰にでもなったのか、おばあちゃんは青白い顔で「腰がぁああああ!」と呻いていた。

 私はこちらへ一歩一歩近づいてくる彩花――ていうか土足脱げ――に怯えるが、身体が全く言うことを聞かない。

 爺ちゃんは完全にエロモードで私に危険が迫っていること理解してないし、どうしようもなかった。


「残念だね、理子」


 彩花は銃口を私の脳天に向けると、引き金に手を当てる。

 このまま私死ぬの? 意味もわからず、このまま意味もなく死ぬの?

 涙が自然と目から溢れ、視界が潤むと……耳をつんざく銃声が響いた。


 怖い。

 目を開けない。

 こんなの死んだに決まってる。


 そうやって震えていると、低い声が耳の近くで聞こえた。


「私の娘に手を出すとは、命が惜しくないようだ。小娘」


 ハッと目を開くと、私の前には黒い煙を巻き上げる銃弾を掴んだ逞しい手があった。

 しばらく状況を読み込めず、何回も瞬きしてから、上を見る。


 パパだ。

 パパが今まで見たこともないほど漢な表情をして(しかしハゲである)私の目の前で銃弾を素手で止めていたのだ。


「じ、銃弾を素手で!? 嘘でしょ!」


 次は彩花が悲鳴を上げる番だった。

 父はゆっくりと背筋を伸ばすと「フンッ」と鼻息を出し、筋肉を一気に膨らませる。

 すると彼の上半身の服がすべてはじけ飛び、プロボクサー顔負けの肉体があらわになる。


「貧乳が揺れる瞬間をこの目で見ようと、チビの頃から訓練してきたからな。鍛えられた私の動体視力なら、銃弾など止まっているように見えるのだよ。小娘」


 いやその理屈はおかしいよね?

 でも、今はツッコめなかった。


 シューッと息を吐いた父は受け止めた銃弾を部屋の隅へと投げる。

 その姿はあまりにも大きくて、小さいころに見た父の姿そのものだった。

 私の父は、今でも私のヒーローだったんだ。


「ひ、貧乳が揺れるわけない!」


 彩花はいまだに先ほどの出来事が信じられないようで、まるで叫ぶかのように父に向かって言う。

 しかし父はフッと笑うと、度数の高そうなメガネをクイッと上げてから話を続ける。


「揺れているのだよ……君たち一般人では見えないのだろうが、たしかにナノ単位で微かに揺れているのだ。小娘」


「そのナノ単位の揺れを……あんたは見てきたっていうの……」


 思わず私は「うわっ……」と引いてしまったのだが、両者は相変わらず凄いシリアスな表情で向き合ってるので邪魔しないことにした。

 隣を見るとおばあちゃんは腰を自分でマッサージしていて、お爺ちゃんは部屋の外から彩花の胸の揺れを鑑賞している。なんだこの状況。


「しかしまさか、君たち巨乳派が実力行使に来るとはね。一体何事だ。また戦争でもおっぱじめる気なのかな?」


「パパ……?」


 父が血管を体中に浮き上がらせ、ものすごい殺気を発する。

 そのいつもとは違う様子に私は困惑し、思わず父を呼ぶのだ。


 しかし、彩花は小さく笑うと口を開く。


「あなたたち貧乳派とまた戦争する気はないよ。貧乳保護機構の会長さん」


「ふっ、君の父とは貧乳狩り戦争以来はあまり会っていなかったが……娘にまでこんな戦いを教えるとはな。悲しいものだ」


 なんか意味がわからない会話が繰り広げられていたのだけど、よくよく聞いてみた。

 どうやら、私の父は全国の貧乳を統べる『貧乳保護機構』のトップで、彩花の父は貧乳を排除しようとする『巨乳委員会』のトップなのだそうだ。

 私達が生まれる前、父と彩花父の率いる人々は巨乳と貧乳、そのどちらかの命運を背負って戦争をしたらしい。

 アホなのかと思った。


「あなたの娘、理子。どうやら乳を自在に変えられるようね」


「な、なんでそれ知ってんの!」


 彩花の言葉に咳き込んでしまい、慌てて問い詰める。

 すると彩花はスマホを取り出すと、そこには我が家の映像が様々な角度から表示されていた。

 嘘でしょ……と呟いてしまう。


「うちを盗撮してたの!?」


「まさか、ツインテールをし始めた理由が胸を大きくするためだったとはねぇ」


 彩花の嘲笑するような、見下ろすような視線が降り注ぐ。

 歯を食いしばり、悔しさで涙が出そうになる。

 こいつに負けたくないのに……。

 こいつだけには知られたくなかったのに……。


「わかってんでしょ? 理子のお父さん。胸の大きさを自在に変えれるのは、貧乳派にとっても巨乳派にとっても存在してはならないもの。排除するしかない」


「ぐっ……しかし……」


 父は私を守ろうと、一歩前に出る。

 だけどなんか知らないけど彩花の言葉も筋が通っているらしい。

 ジレンマにでも苦しめられているのか、見ていて辛い表情を父は浮かべる。


 どうしよう。

 私、どうすればいいんだろう。

 もう何もかもが分からなくて、自分の胸を見下ろす。

 なんで私ばっかり、この胸に苦しめられなきゃいけないの……?

 誰か……助けてよ。


 涙が一筋、頬を伝って溢れる。


『君たち貧乳派も巨乳派も相変わらず、極端で話にならないな』


 まさにその時だった。

 窓の外から声が響いたのかと思えば、また一人の男が部屋の中に飛び込む。

 その男はスーツを着込み、両手をスタイリッシュにポケットへ突っ込むと呆れ返ったように首を横に振った。


 その男の名前は――


「は、隼人!?」


 反射的に私は彼の名前を呼ぶ。

 どう見ても、それはあの元カレの隼人だった。

 なんで彼がこんな状況で登場してしまったのだろうか? 意味がわからずに目を丸くする。


 でも彼は無言で睨んでくる私の父と彩花の視線を無視したまま、私の腰に手を回したのだ。


「ごめんな、理子。実は俺、お前を守るために派遣された新自由乳解放委員のエージェントなんだ」


「…………は?」


 突然の意味不明なカミングアウトらしきものに、呆然とする私。

 しかし何を理解したのか、父と彩花は二人とも隼人に向かって戦闘態勢をとる。

 こいつらみんな別世界の住人かよ……話が噛み合わないんだけど……。


「俺がお前を裏切って彩花と付き合ったのは、あいつの情報を引き出すためだったんだ」


「う、うん……うん?」


 流れに任せて納得してみたけど、やっぱり納得できなかった。

 すると隼人はいきなりスーツを脱ぎ捨てる。なんとワイシャツまでも破り捨てて上半身を晒したのだ。

 いきなりのことで私が赤面してしまい「な、なに!」というが、彼の胸を見ると私の表情が凍りつく。


「お前が貧乳に苦しめられたのと同じく。俺も自分の胸に苦しめられた」


 隼人は……直径12センチほどの立派な乳輪の持ち主だった。

 しかもその色は女の子よりも綺麗で、プルプルとしたサーモンピンクだったのだ。

 ちょっと何が起きているのか理解できず、頭痛がしてくる。


「だから俺はお前の気持ちがわかる。乳のコンプレックスってやつを」


「いや隼人……あんたのほうが深刻な問題だと思うよ……?」


 ちょっとさすがに同情して、私は心配そうに声をかける。

 だが隼人は熱が入ってるようで、私の声なんか聞こえずに演説を続ける。


「それで俺も中学の時、気づいたんだ。坊主頭にすれば、乳輪が普通サイズになるってことをな」


「え、それって私のツインテールと似た体質の……」


 まさか、とは思っていたが本当にいた。

 髪によって胸が変化する体質の人間が他にもいたんだ!

 しかもそれが隼人だったというのだから、驚きを隠せない。


「理子の特殊体質はかなり前に、俺達、新自由乳解放委員によって探知されていた。だからお前守るために、俺は君に近づいたんだ」


「じゃあ……私とは恋人のフリをしてたってことなんだね」


「違う! 守るだけなら付き合わなくても良かった! 本当に好きになっていたんだ!」


 隼人の必死の言葉に心を動かされていた。

 でも、父も彩花も依然として警戒した目で隼人睨んでいる。

 一体、新自由乳解放委員とはなんなのか。


「俺はずっと坊主頭で暮らして、自分の乳輪を小さくしていた。でも、気づいたんだよ。人は胸なんかじゃ……価値が決まらないってことを。それも理子のおかげだ」


「……私?」


 たしかに、私が初めて隼人と出会った時。

 彼は坊主頭だった。

 でも付き合い始めてからは髪も伸ばし始め、今では普通にふさふさヘアースタイルになっている。


「貧乳でありながらも、それに苦悩して、そして自分を受け入れている。そんな理子に俺は動かされたんだよ。ありのままの自分でいいじゃねぇかって」


「そんなの……聞いてないよ」


 顔が熱くなって、頬を両手で隠す。

 私、自分で大事なことを忘れていたんだきっと。

 いままで、胸ばっかりしか見てこなかったんだ。

 だから隼人の気持ちも気づけなくて……。


「新自由乳解放委員、それは貧乳でも巨乳でもない。すべての胸を受け入れるのが方針だ。お前らのくだらない、貧乳好きとか巨乳好きに理子を巻き込まないで欲しい!」


 隼人は父と彩花に向かってズカズカと突き進むと、皆がビクッと肩を上げてしまうような声で説教をする。

 父は申し訳無さそうに頭を掻き、彩花は不満そうにそっぽを向いていた。


「俺は理子がどんな胸を選んでも好きだ。だから、どうするかは自分で決めろよな」


 隼人はそういって私の方を向く。

 できるだけ彼の見事な乳輪は見ないようにして、私は考えた。

 親からもらった自分の容姿。やっぱりありのままで、本当の自分でいたい。

 本当の自分で人から愛されたい。


 私はそう決めると、静かにツインテールを解いた。

 8時間もすれば、胸は元の大きさに戻る。


「私、やっぱり自分のままでいたいよ」


 私がそう言うと、父はうなずき、隼人もニッコリと笑う。

 おばあちゃんは相変わらず「腰……あの、腰が……」と言っており、お爺ちゃんは「おい早まるな理子ッ」と叫ぶが――聞こえないふりをした。


 そして最後に、私は彩花の直ぐ目の前にまで近づく。

 彼女の銃を持った手を握ると、彩花が震えていたことに気づく。

 私は言った。


「私に足りなかったのは、胸じゃなくて、自信だったんだね?」


 今日、私は本当の自分に出会えた気がする。

みなさんは自分の容姿を気になったことがありませんか?

鼻があと1センチ高ければ……眉がもう少し太ければ……目がもう少しパッチリしていたら……。

でもそのすべてがあなたの親御さんが受け継いできた、かけがえのない贈り物なのです。

理子のように、自分を大切にしてくださいね。


(無理やり良い話風にする)

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[一言] 修正案 「理子の特殊体質はかなり前に、俺達、新自由乳解放委員によって探知されていた。だからお前【を】守るために、俺は君に近づいたんだ」  でも、父も彩花も依然として警戒した目で隼人【を】睨…
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