異世界に呼ばれて
目が覚めると……ここは、どこだ!
天井を見ると白。横を見ると白。起き上がって周囲を見渡すと……白、白、白。
ただ一点、白い机と白い椅子に座っている、白衣を着た女性。異様に浮き出て見える。
「お目覚め?お目覚め!」
白衣の女性は嬉しそうに駆け寄る。
起きたばかりで体が思うように動かない。
頭がグルグルする。そしてそんな思考状態の中で、ようやく声が出せた。
「ここは、どこだ?」
それだけで精一杯だった。
白衣の女性は相変わらず嬉しそうだ。
「ここは、あなたの立場から見ると、異世界!でも私から見れば故郷なんです!」
……異世界?
「あなたは幸か不幸か!選ばれました!」
ちょっとまて。俺は、三十歳を優に超えるニートだ。
高校は卒業したが……働く気が無かった俺は、親のすねをかじる道を選んだ。
それ以来、ずっと自宅にひきこもり。
「……選考基準は?」
そうだ。異世界からわざわざ呼び出すなら、優秀な人間の方がいいだろう?
白衣の女性は相変わらず上機嫌だ。
「ふっふっふ、異世界から人を召喚するときはですねー、元の世界にいてもいなくてもどうでもいい人選をするのが基本中の基本!元の世界に居場所を確立させた人を呼び出してはいけないんです!」
なるほど、ご丁寧にどうも。
確かに、その世界の有名人がいきなり消えたら、大騒ぎだろう。
そう考えると、高齢ニートはまさにうってつけの人材だ。
親からは、早く死んで欲しいと言われていたし。
「あなたは私たちの救世主たる人物なのでしょうか!気になります!」
そう、わざわざ異世界から人材を引っ張ってくるという事は……
この呼び出された世界は恐らく、とんでもない事が起こっている。
詳しく説明を、とお願いした。
白衣の女性は語りだす。かいつまむと、こんな感じ。
まず、この世界の事。数多くの人間と、少数の悪魔が共存する世界だったらしい。
その歴史の一幕に、悪魔の子を宿した人間の女性が一人。
その人間と悪魔のハーフ、魔人。
人間のしなやかさと、悪魔の能力を併せ持つハイブリッド。
そして、その脅威から人間と悪魔の共存は破られ、激しい戦争の末に悪魔は全滅した。
しかし魔人は巧みに人間社会に溶け込んでいた。
そして少しずつ勢力を拡大させ、魔人は人間の個体数を激減させ文明の発展を止めた。
魔人は人間の事を「餌」と呼び、以降人間は魔人に隷属することを強いられているという。
「つまり、それを何とかしたい。って事か?」
次の説明に入る。
その衰退した文明の中で、魔力を行使し次元を超える「次元盤」が開発された。
この次元盤を使うことで、異世界から人や物を取り寄せたり……
歴史に、介入したり。
そういったことが出来るようになったと白衣の女性は熱弁する。
なるほど、彼女?彼女ら?の狙いは、そこか。
「歴史に介入して、人間の世界を取り戻してください!」
この世界の元の住人は、次元盤を用いても過去に戻る事は不可能、と。
だからわざわざ異世界から人材を取り寄せ……
歴史を改変?果たして俺に、出来るのか?
「あなたが仮に拒否したら、記憶を抹消して元の世界に戻し、別の同じような人を探します!」
ニートの総数、日本だけで五十万人以上、か。
それだけ居れば一人くらいはイエスと答えるかもしれない。
しかし、俺はその中からたまたま選ばれた。これはある意味、チャンスなのでは?
「もし成功したら、望むだけの財産と、願い事を一つ叶えてあげましょう!」
よしきた、そうこなくっちゃな。