第7話無意識の魔法
黒い高級車にて、運転席には執事ハワード、そして後部座席には、まほとるりが座っていた。
その車は、るりの別邸へと向かっていた。
車内では、まほとるりが会話をしていた。
最初こそ緊張していた、まほであったが、徐々に落ち着いたようだ。
「でね、その時、爺ったらどうしたと思う?」
「え、えーと・・・。どうしたの? るりちゃん?」
「それが、聞いてくれるかしら。私のことをね・・・」
「お嬢様方、さぁ、着きましたぞ!」
るりが何か言いかけていたが、ハワードがその会話を遮り、到着を告げる。
会話に夢中になっていた、まほとるりであったが、いつの間にか別邸に到着していたようだ。
「あら? もう、到着していたのね。では、この話の続きはまた今度ね!」
「う、うん! また今度、今の話の続き聞かせてね!」
まほとるりは、車を降り別邸の門に立つ。
「こ、これは・・・。 でかい・・・。」
まほは、別邸を眺め思わずそう、口にした。
別邸は洋風の造りのようだ。
3mほどの大きな門、そのはるか向こう側に家らしきものが見える。
庭は広く、綺麗に整えられた木が何本も植えられていた。
遠くからでも見えるその家は、まさしく豪邸であった。
「これでも、本邸よりは大分小さいわよ?」
るりは、さらっとそう口にする。
(い、一体、本邸はどんな超豪邸なんだろ?)
庶民感覚のまほは、心の中でそう呟く。
まほとるりは、綺麗に敷き詰めれた灰色のタイルの上を進み、別邸へと足を運んだ。
別邸に入ると、中も豪華であった。
玄関は大きな大広間のようになっていた。
鏡のような白いタイルの床に、天井には高そうなシャンデリアがぶら下がっている。
2階建てのようで、広間の両側に2階への階段も見える。
「「お帰りなさいませ、お嬢様!!」」
数人の若い執事やメイドがるりを出迎えた。
(ほ、本物のメイドさん・・・。可愛い! 執事さんも格好良い!)
まほは、その執事やメイドに見とれた。
「まほー。こっちよー。こっちの部屋でいろいろ話しましょ!」
「う、うん!」
まほは、るりの導きに、はっとし2階の部屋へと進んだ。
部屋へと入ると、まほとるりはテーブルをはさみ、向かい合うようにしてソファに座った。
ハワードがるりの隣に立つ。
るりと一緒にいた、フォスターとメリッサは、来ていないようだ。
まほは、部屋をぐるりと見渡す。
部屋には、いくつかの調度品が並べられていた。
おそらく高級なものだろうと思われる。
(また、き、緊張してきたよぉ・・・。)
まほは、見るからに高級そうな部屋に落ち着かない様子だ。
「お茶をお持ち致しました。」
メイドさんが紅茶を運んできた。
その紅茶をテーブルへと置く。
「ありがとう。下がっていいわ。」
「はい。」
るりは、紅茶を置き終わるのを確認すると、そのメイドを下がらせた。
「ジュースの方が、よかったかしら?」
「えっと・・・。紅茶も飲めるから大丈夫だよ。」
「そう? 良かったわ。」
るりは、まほの返事を聞き微笑む。
まほは、紅茶を一口含む。
(あ、美味しい。何の紅茶かわからないけど甘くて飲みやすい。)
まほは、その紅茶の味を堪能した。
「さて、どちらから話しましょうか・・・。」
るりが、そう口にする。
「わ、私からでもいいかな?」
「えぇ。いいわ。先にまほの質問に私たちが答えるわ。」
まほは、先に質問したいと主張。
るりは、その主張を了承した。
「えっと・・・。私の事、なんで魔法少女だって分かったの? それに何であの場所に・・・。」
まほは、初めから核心をつく質問をした。
「そのことね。順番に説明するわ。まず最初の答えは、この写真よ。」
るりは、一枚の写真を取り出す。
「あ、これ、私が映ってる・・・。」
写真には、まほが映ってた。
授業中で、今にも夢の世界に旅立ちそうな様子だった。
「この写真で、何で分かったの?」
まほが見る限り、その写真には特に変わったところがない。
「ここを見て。」
るりが、写真を指差す。
「改めて見ると恥ずかしいよぉ・・・。う~ん、特に変わったところは・・・あっ!」
写真のまほをよく見ると、そのまほは夢の世界に旅立ちそうになりながらも、器用にノートを取っていた。
しかし、ノートを取るそのペンは・・・
「う、浮いている・・・。」
そう、浮いていたのだ。
無意識の内にまほは、魔法を使い自動書記でノートを取っていた。
「この写真で、まほには何かすごい力があるかもって思ったの。」
「で、でも、この写真だけだと魔法少女かどうかなんて・・・」
まほが、反論しかけたが、るりは、それを遮る。
「そうね、この写真だけでは、ただの手品かもしれない。でも、これはきっかけにすぎないわ!」
「えっ!? ま、まだ、あるの?」
無意識とはいえ、魔法を使っているところを見られたことになる。
他にも何かあるのかと、不安になる。
「その後、まほの周囲を調べさせてもらったわ。爺、続きをお願い!」
「はい、お嬢様。」
るりに、説明の続きを求められ、ハワードがそれに応じる。
「まずは、まほ様の周囲を調べさせてもらったところ、不可解な点がいくつかありまして・・・。登校についてでございます。」
登校という単語に対し、まほは僅かに反応する。
(も、もしかして・・・。あれも、見られてた。)
続けて放たれたハワードの話は、当たらずとも遠からずだった。
「まほ様の登校についての調査報告によりますと、ご自宅から尾行しようとしたもののすぐ見失い、その1分後に別の調査班から登校の知らせを聞いたとあります。まほ様のご自宅から学園までは、最低でも徒歩10分。このことから・・・」
「え、え~と。それはたぶん、空を飛んで登校した時のかな?」
ハワードが、結論を言う前にまほが自供した。
「やはり、そうでしたか・・・。車でも3分はかかる距離。これは、何かあると、私どもも確信しておりました。」
「空を飛んで登校! 私もやってみたいわ!」
るりが、目をキラキラさせてそう叫ぶ。
「ふむ。では、お嬢様。明日はヘリで登校なさいますか?」
「う、う~ん。それは、なんか違う気がするわ・・・。」
ハワードの提案を、るりは複雑な表情で却下する。
(わ、私は一度くらいやってみたい・・・かも。)
まほは、るりとは逆のことを心でつぶやいた。
「もしかして、まほは今日も空を飛んで登校してきたの?」
「えっ! よ、よく分かったね・・・。昨日、ふもとまで空を飛んで、買い物に行ってきたから、
疲れて寝坊しちゃったんだ・・・。」
るりは、勘だけで質問したのだが当たってしまったようだ。
「昨日ってことは、もしかしてトンネルの近くも飛んでいったのかしら?」
「うん、そうだよ?」
それを聞き、るりはハワードと視線を合わせる。
そして、ハワードは頷く。
「実は昨日、ここに車で来る途中、変な光を目撃したのよ。もしかしてあれって・・・。」
「う、う~ん・・・。たしかに昨日、帰る途中に、トンネルの近くで黒い車を見たような・・・。」
まほは、昨日飛んだときの光景を思い浮かべる。
「あれ・・・。まほだったのね・・・。でっかい鳥が飛んでいったのかと思ったわ。」
「うううっ・・・。あれも見られてたのか・・・。今度からもっと高く飛ぼうかな・・・。」
まはは、しばし考え込んだ。
「も、もしかして、まだ他にも魔法見られてるの?」
まほは不安そうな顔で、るりとハワードに質問した。
「はい、まほ様。他にも、まほ様のご自宅だけに豪雨が降った、部屋の一室が突然凍った、などの調査報告が多数寄せられて御座います。」
「うううっ・・・。それも見られてたのか・・・。」
「ま、まほさん? 一体何をしたら、そんなことになるのかしら?」
るりにも報告されていなかった、その報告を聞き、るりは困惑した。
「ちょ、ちょっと部屋が暑くて冷やそうとしたんだよ。そしたら、やり過ぎちゃって・・・。」
「まほ・・・。魔法を使うときは、少し気をつけたほうがいいわよ?」
まほの魔法の使い方に対し、るりのほうが心配になった。
「う、うん。なるべく気をつけるよ!」
今度から魔法を使うときは少し気をつけよう、そう心に誓うまほであった。
「まあ、私が本当に確信したのは、まほがあのモンスターと戦っているのを見た時なのだけどね。」
るりは、話を進めた。
「そ、そうだ! るりちゃん、どうしてあのモンスターの所に来れたの?」
まほは、あの時お手洗いに行くと行って、教室を出たはずである。
なぜ、あの場所にるりが来たのか、疑問に思うのは当然であった。
「それについても、お嬢様に代わり、私がお話しましょう。」
「えぇ。お願い、爺。」
まほの疑問にハワードが、答えてくれるようだ。
るりは了承し、ハワードを促す。
「それでは・・・。まほ様、先日、学園の校舎が建て替えになったのはご存知であると存じます。」
「う、うん。すっごい綺麗になって、びっくりしたよ。」
「その際に、隠し通路や隠し部屋をいくつか設けさせてもらいました。」
「え!? そ、そうなの?」
まほは、校舎に隠し通路や隠し部屋まで作られていたのかと驚く。
「その隠し通路から調査を行っていました所、たまたま、まほ様を目撃致しまして・・・。どこかに急いでいるようでしたので、こっそり尾行させて頂きました。その後、まほ様が屋上に入っていかれるのを確認後、お嬢様に連絡を致しまして・・・。」
「そうよ!それで私が、お手洗いに行くのに屋上は怪しいって、爺たちに言って私たちも突撃することにしたのよ!」
ハワードの説明を遮り、るりが結論を述べた。
「そうだったんだね。で、でも、おかげであの時は助かったよ・・・。」
「もっと、早く行けばよかったわね。いつも、あんな強敵と戦っているの?」
「あ、あんなのは初めてだよ・・・。まさか、あんなのがいるなんて・・・。」
まほは、モンスターのことを思い出し少し怯える。
「まあ、何にせよ間に合ってよかったわ。」
「う、うん。ありがとう、るりちゃん!」
まほは、笑顔でそう言った。
るりは、それを見て少し照れくさくなった。
こうして、まほの最初の質問は解決されたのであった。
ちょっと強引だけど、この辺で話を区切ってみました。
プロローグの伏線、半分回収できたはず・・・。
もう半分は次回辺りに回収予定。