第5話ブラストウェイブファイア
8/7 一部加筆修正しました。
まほ、るり、そしてるりの執事たちは、学園の屋上に突如現れた異空間にいた。
その異空間で、背中に樹木をはやした亀のモンスターと対峙している。
モンスターは、その人間の老人のような顔をかしげつつ、まほたちの様子を伺っていた。
まほは、魔法少女に変身している。
るりは学園の制服、執事たちは黒いスーツ姿だ。
「まほ! 何かすごい魔法使えるのよね?」
るりは、まほに問いかけた。
「う、うん。あと一回くらいなら大きい魔法を使える魔力が回復したよ!
でも、確実に当てるには隙を作らない・・・っと!?
うわっ、木の枝がこっちに! ほ、炎の魔法! 火球! 3つ!」
まほが話し終わる前に、亀のモンスターが攻撃を再開した。
背中の樹木から木の枝を伸ばし、まほへと襲いかかる。
その枝をまほは、ステッキより発せられた火球で応戦する。
「私達が隙を作りますわ! 少し準備が必要なので先に行っててくださいませ!」
「う、うん。お願い、るりちゃん! 先に行ってるね! 空を飛ぶ魔法!」
まほはモンスターの元へと飛びたった。
次々と木の枝が襲いかかってくるが、まほも負けずに炎の魔法で対抗する。
(るりちゃん、一体何をするんだろ? うん、でも今は! るりちゃんを信じるしかないよね!)
「さあ、始めるわよ! 準備はいい?」
「いつでも大丈夫でございます! お嬢様!」
「行くわよー!! 超変身! ミラージュトランス!!!」
執事たちの準備が万全であることを確認すると、るりはそう叫んだ。
(え!? るりちゃんもやっぱり魔法少女だったの!?)
まほは、自分以外の魔法少女を見たことがない。
るりのその言葉に驚きを隠せない。
トゥリリリリーン♪トゥールル♪
(あ、あれっ? これって・・・。)
るりの方から軽快な音楽が流れる。
その音楽は数年ほど前にTVで放映されたアニメ、「魔法少女イノセントファイン」の仲間である“ミスチヴァスレイン”変身のテーマソングであった。
思わずまほは、るりの方を振り向く。
るりの執事ハワードは、その手にラジカセを持っていた。
ラジカセからは、先ほどの変身の音楽が流れている。
そして、るりはというと、筒状の着替え用カーテンの中で、服を着替えているところだった。
着替えている服は、“ミスチヴァスレイン”の蒼いドレスのようなコスチュームである。
メリッサに手伝ってもらいながら、着替えているようだ。
横でフォスターは、せっせとるりの制服をたたんでいる。
「え、え~と・・・。るり・・・ちゃん?」
「ちょ、ちょっと! 着替え・・・じゃなかった、変身中よ! 上から覗かないで!」
「えっ・・・。でも・・・。」
「こ、こういうのはまず形が重要なのよ! って、ちょっ! こっちにも木の枝来たじゃない! 爺!」
「はっ! お嬢様!」
あっけにとられているまほの隙を突いて、モンスターがるりの方へも攻撃を仕掛ける。
その木の枝はるりの方へと向かってきたが、なぜか途中で斬り刻まれた。
「え!?」
まほは切り刻まれた木の枝の近くに立つ、執事の方を見る。
いつの間にか執事は持っていたラジカセを下に置き、代わりに短めの刀を持っていた。
その刀で木の枝を斬ったようだ。
刀を鞘へと収める。
「お嬢様の変身中ですぞ! 邪魔をするものは誰であろうと容赦しませぬ!」
執事がモンスターへと叫ぶ。
(あの執事さん、もしかして強い? あの執事さんに手伝ってもらいたいな~・・・なんてっ!)
心の中でそう叫ぶまほであった。
まほは一旦るりのことは忘れ、モンスターに集中することにした。
またいつ、るりの方へと攻撃が及ぶとも限らないためである。
とはいえ、たとえ攻撃がるりの方へと向かっても、あの執事さんが何とかしてくれそうな気がしていたが・・・。
モンスターは攻撃をさらに激しくしてきた。
まほにるりの方を見る余裕は無くなっていた。
(うっ! くうっ! このモンスター強すぎるよぉ・・・。るりちゃんに頼らず倒そうと思ったけど・・・。このままじゃ逆にまた、やられるちゃう・・・。)
「変身完了! さあ、魔法使うわよ! 魔法!!」
下から、るりの変身完了の声が異空間内に響く。
心の中で弱音を吐いていたまほだったが、その声に、はっとなった。
(ま、魔法!? るりちゃん魔法使えるの!?)
魔法という単語に、まほは反応した。
先ほどまで変身と言いつつ、服を着替えていただけのるりである。
驚くのも無理はなかった。
「えっ? もう少しかかる? いいわ! 呪文唱えてるから、なるべく早くお願いね!」
るりは、執事たちと何やら話しているようである。
(下が気になる・・・。でも、下を見る余裕が無いよ~・・・。)
そう、モンスターの攻撃が激しく、まほにるりの方を見る余裕はない。
「ユーバーラウフェン、アウスロットゥング、ツェアステーレン、
ルリノーマ、ホーダ、ヨージュン、ビーマダー、ハヤクー」
るりは、へんてこな呪文を唱え始めた。
(じゅ、呪文!? どんな魔法なんだろ?)
呪文は徐々に、執事たちへの催促の言葉となっていった。
しかしまほは、その呪文に対し、きっとすごい魔法なんだろうと期待を寄せる。
「マダーマ、ダージュン、ビーねぇ、まだなの?」
「お待たせしました! お嬢様! いつでも行けます!!」
声のトーンが下がっていたるりだが、その言葉にトーンが上がる。
「いよぉーし! 行きますわよ! うわっ!? 重っ!」
「あー、るりお嬢様。私が支えてますので・・・。メリッサとハワード爺さんはそっちのお願い。」
「了解です。」
「お嬢様のことは頼みましたぞ。」
「では、るりお嬢様。魔法発動の合図をお願いします。」
るりたちの準備が完了したようである。
ハワードが、るりへと魔法発動の合図を促す。
執事たちの言葉を確認したるりは、魔法発動の合図を送り始めた。
「分かったわ! 今度こそ行きますわよ! えー、おほんっ! 大気に集いし水の精霊よ、汝は蒼の槍、汝は蒼の煌めき、汝、白きローブ纏いて、敵を討ち貫け! まほ、行くわよ! 敵から離れて!」
るりは呪文を唱え終わると、敵から離れるようにと、まほに促す。
そして・・・
「ブラストウェイブファイア!!!」
バシュン!という音を立てて、るりの魔法は解き放たれた。
(今の呪文は、ミスチヴァスレインが劇中で使ってた魔法の掛け声!? 何が来るか分からないけど、とりあえず避けなきゃ!)
まほは、るりの掛け声を聞き、敵から即座に離れた。
(たしか劇中であの技は、てるてる坊主のようなものを飛ばし、敵に当たると同時に爆発させる魔法だったかな?)
まほの視界を鈍く光る何かが横切る。
横切った何かは、モンスターへと当たり、爆発した。
「えっ!?」
たしかに劇中の技に近い効果を得られていたようだが、一瞬横切ったそれはイメージとはかけ離れていた。
予想していたものと違い、思わずるりへと振り向く。
(あれって・・・。ゆきとくんが好きなゲームに出てくる・・・・あれ、だよね?たしか名前は・・・)
フォスターに支えられて、るりが持っていたもの、それは・・・。
(ぱ、ぱんつふわっと!!)
・・・パンツァーファウストである。
パンツァーファウストとは、対戦車用の銃火器である。
先端には、成形炸薬弾と呼ばれる、敵の装甲を貫通させて、内部に爆風を送り込むことができる弾頭が付いている。
その弾頭を、発射筒の発射薬で撃ちだすのである。
今回のそれは、改良が加えられているようで、ミスチヴァスレインの持つステッキのように、水をイメージした可愛らしい装飾等が付いていた。
弾頭もどことなく、てるてる坊主のような見た目に改良されている。
しかしそれは、紛れも無くパンツァーファウストそのものだった。
その威力は強力で、モンスターへと大きなダメージを与えた。
執事ハワードとメリッサも、同じものを持っている。
るりの発射を確認すると、続けて二人もモンスターに向かい、発射した。
「「ブラストウェイブファイア!!」」
るり同様、それは、モンスターへと見事着弾し爆発した。
「な、なあ、お嬢様・・・。この掛け声ほんとうに必要か?」
「愚問ね、フォスター! 魔法に技名は不可欠よ!」
「お嬢様の言うとおりですぞ! 貴様、お嬢様の考えを否定されるおつもりか!」
「そうよ、フォスター! さっさと次の“魔法”準備しなさい!」
「は、はい・・・。準備します。」
1対3である。
フォスターはこれ以上質問することを諦めた。
そして、次の“魔法”を準備し、発射・・・いや、発動させた。
まほは、そんなやりとりをあっけにとられ、眺めていた。
(う~ん・・・。なんで、こんなところに“ぱんつふわっと”があるの? 初めて見たよ・・・。)
異空間とはいえ、仮にもここは学園内である。
様々な疑問が、まほの頭のなかを交錯する。
「まほ、今よ! 今のうちにフィニッシュ、決めちゃいなさい!」
まほを現実に呼び戻す声に、再びはっとした。
そして見ると、モンスターがうめき苦しんでいる。
数多の“魔法”の集中豪雨を浴び、木の再生が追いついていないようだ。
「あっ! う、うん! ありがとう、るりちゃん!」
まほはモンスターへとステッキを構える。
そして・・・。
「竜巻で打ち上げる魔法!」
まほがステッキを上から下へと振ると、モンスターの周囲に竜巻が生じる。
その竜巻によって、モンスターは空高く打ち上がった。
「封印の魔法! 四角いの6つ!」
そう言いながら、続けてステッキを振り上げ、モンスターへと向ける。
直後、ステッキから半透明の薄く小さい、四角い板のようなものが6枚、モンスターへと飛んでいった。
四角い板は、徐々に大きくなりながらモンスターへと吸い込まれるように飛んで行く。
飛んでいった四角い板は、モンスターを囲むように展開し、立方体となった。
その立方体の中でモンスターが暴れるが、びくともしないようだった。
「ふぅ~。あとは・・・。」
右手のステッキをモンスターへと向けつつ左手を天に掲げる。
「圧縮の魔法!!」
そう言い、まほが左手を握り締めると、その立方体はモンスターごと小さくなっていった。
最初はモンスターの抵抗により、ゆっくりとした速度であった。
しかし、ある程度小さくなったところで急激に加速。
立方体が見えなくなると同時に、立方体とモンスターは、その中心から光の粒となってはじけ飛び、消滅した。
「やった! モンスターを倒せたよ!」
「やったわね! まほ!」
まほは、るりの元へと降り立ち、駆け寄る。
そして、モンスターを倒せたことに安堵し喜び合う二人。
「ふむ。あれが本物の魔法というものなのじゃな・・・。」
「すごいわね・・・。あれ。」
「物理法則完全に無視だな・・・。てか、圧縮って・・・。あの魔法少女、なかなかえぐい魔法使うな・・・。」
純粋に喜ぶ少女たちに対し、執事たちはその魔法に驚き感心していた。
「ん? まほ! 空にヒビが!」
「あ! 本当だ!」
見ると異空間の空に、ヒビが入っていた。
いや、屋上なども含め、異空間全体にヒビが入っているようだ。
「ねえ、まほ! もしかして、まずい状況?」
「わ、分からないよ~。あんなモンスター初めてだったし・・・。」
その状況に二人は慌てた。
「ぬっ! お嬢様たちをお守りするぞ!」
「「了解!」」
執事たちが動こうとする。
パリンッ!
執事たちが動く前に空が割れ、そして空間全体が割れていった。
割れた先は元の学園の屋上となっていた。
まほが破壊した屋上の一角も、元通りである。
「あ・・・。元の屋上だね。」
「そうね・・・。」
まほ、るりは、ほっとする。
「むぅ・・・。」
「まあ、無事で何よりね。」
「ちょっと、焦ったぞ・・・。」
ハワード、メリッサ、フォスターの三人も、安堵しほっとしている様子だ。
まほは、何気なく空を見る。
そこには、きれいな夕焼けが広がっていた。
「夕焼けが綺麗だね・・・。えっ!? 夕焼け!?」
「ん? まほ、夕焼けがどうかしたの?」
夕焼けを見て驚くまほに対し、るりが疑問を投げかける。
「もうこんな時間なの!? どうしよう・・・。授業抜けだしたままだ・・・。」
そう、ここへ来るためにまほは、午後の授業を抜け出して来ていたのである。
当然授業は終わり、下校の時間である。
「それなら問題ないわ! 先生に、来葉グループの極秘任務でちょっと、まほを借りますって言ってあるわ。」
ここへ来る前に、るりが予め手を回していたようだ。
「え!? 極秘任務? よくそれで先生納得したね・・・。」
るりの発言に、まほが驚く。
「お嬢様のために、私たちも手を回し、納得させておきましたぞ。」
「結構強引な手だったわよね。」
「あぁ・・・。二回目は、たぶん通じないな。」
そして、まほの問いかけに、執事たちが答えた。
「ちょっ、爺! 過激なことはやってないわよね?」
るりも知らないところで、執事たちがさらに何かしていたようだ。
(う~ん。なんか、これ以上追求しないほうがいい気がしてきたよ・・・。)
安堵しつつも疑問が残るまほであったが、深くは追求しないことにした。
「とりあえず、ここを出るわよ!」
「う、うん。るりちゃん、ありがとね。」
「ちょ、ちょっとそんなこと、急に言われたら照れるじゃないの・・・。」
笑顔のまほに対し、るりは少し顔を赤らめる。
そして、まほたちは屋上の扉を開け、室内へと戻った。
「おっ? まほじゃん! こんなとこで何してるんだ?」
「あら? るりるりも一緒にいるね。」
屋上の扉を開けた先で待っていたのは、たまたま近くを通りかかった、ゆきととゆうなであった。
「あ! ゆきと君とゆうなちゃん。なんでこんなところに?」
「ちょっと、図書室に用事があってな。てか、その格好なんだ? 極秘任務だって言うから何かと思えば、屋上でコスプレしてたのか?」
「まさか、二人にそんな趣味があるなんてね~。まほっちのは、分からないけど、るりるりのは“ミスチヴァスレイン”のコスチュームだよね? 写真とっとこ!」
まほは変身を解くのを忘れ、るりも着替えるのを忘れていた。
「「あっ!」」
そう、二人とも魔法少女の姿のままであった。
最初のバトルシーン決着です。
もちろんですが、「魔法少女イノセントファイン」は架空のアニメです。