第4話絶望の外より現れし希望
まほは魔法少女に変身し、現在学園の屋上を模した異空間の中にいる。
そしてその異空間の中で、初めて出会う強大な敵と対峙していた。
「はあ・・・はあ・・・戦わないと・・・。」
まほは、敵を観察した。
その敵は、その場を移動することなく立っていた。
見た目は、腰の曲がった小さな老人のような姿をしている。
しかし、その正体は全身が木で出来たモンスターだ。
黒い衣を全身に纏うそのモンスターは、地面から伸びる2本の木の枝で攻撃してくる。
右手に持っているランタンをかざした方向に、その木の枝が鞭のようにしなり攻撃してくるのだ。
まほは、最初の一撃は回避したものの、2撃目を鞭のように受けてしまっていた。
その攻撃でまほは、大きなダメージを負っていた。
モンスターは再び、ランタンをまほへとかざす。
「くっ!」
痛む体を動かし、何とか回避する。
今度はランタンを左から右に振る。
「同じ手は食らわないよ! 空を飛ぶ魔法!!」
右からしなるように襲いくる枝を空を飛び回避する。
「反撃しないと・・・。」
下から2本の枝による追撃が何度も襲う。
その攻撃を、右手に持つ魔法のステッキで弾きながら回避する。
攻撃のチャンスを伺うが、隙がない。
「全然隙がないから近づけないよ・・・。そうだ! 攻撃が木の枝ならあれが効くはず!」
何かを思い付きステッキを構える。
そして・・・
「炎の魔法!! 火球! 2つ!」
ステッキを振り、拳大の火球を2つ、ステッキから出現させた。
そして、襲い来る木の枝へと飛ばした。
2つの火球は2本の木の枝それぞれに見事命中、着弾点から火が燃え広がり木の枝を根本まで燃やし尽くした。
「そして、特大の~~~」
まほがステッキを天高く掲げると頭上に3つ目の火球が出現する。
その火球はどんどん大きくなり、最終的に直径3mほどの巨大な火球になった。
「火球!!! 当たってーーー!!!」
まほがステッキを上から下へとおもいっきり振り下ろすと、その巨大な火球はモンスターへと速度を上げながら落ちていった。
直撃、そのモンスターはその場を動くことはなく、火球の餌食となった。
さらにその火球はモンスターに当たると同時に巨大な火柱を上げ、屋上の一角を消し飛ばす。
容赦無いその攻撃は文字通りオーバーキルの一撃であった。
「ちょ、ちょっとやり過ぎたかもだけど、これでモンスターを倒せたよね? 屋上消し飛ばしちゃったけど大丈夫かな・・・。」
まほは消し飛ばした屋上の一角を眺めた。
屋上より下は真っ暗なので下の様子が何も見えない。
「う~ん・・・。倒したら異空間が消えると思ったんだけど消えないな~・・・。」
異空間はまだ顕在していた。
それはつまり・・・
ヒュッ!
「うわっ!?」
突如、屋上の下の暗闇から、一本の木の枝が襲いかかってきた。
まほは、屋上の下を眺めていたため、その攻撃に気づき、回避に成功する。
木の枝は一旦、暗闇に戻っていった。
そう、完全に消滅させ倒したかに見えたモンスターは、まだ生きていたのだ。
まほを襲った木の枝と入れ替わるようにして、木で出来た一本の巨大な手がゆっくりと暗闇から出現。
手は鉤爪となっており、残った屋上の端を掴んだ。
そしてさらにもう一本出現し、こちらも屋上の端を掴む。
その巨大な手を軸にして、暗闇から一体の巨大なモンスターが現れた。
「まだ倒せてなかったんだ・・・。どうしよう・・・。」
まほはその事実に落胆の色を隠せない。
倒したと思ったモンスターは、より凶悪な姿で再び出現したのだ。
その姿は巨大な亀のような姿をしていた。
4本の手足を持っており、その先端は鉤爪のようになっている。
甲羅には苔がびっしりと生えているが、所々生えていないところもあり、それが骸骨のような模様を描き出していた。
骸骨の口に当たる部分からは、大きな樹木が生えていた。
その樹木の枝はゆらゆらと動いており、今にも伸びて攻撃してきそうであった。
甲羅から顔と尻尾が出てきた。
尻尾は、小さな樹木のような形をしている。
顔は人間の老人ような見た目であり、こちらも木で出来ていた。
時折首をかしげるような動作をするその顔は、笑っており不気味さを増していた。
「こ、こんなのって・・・。でも、やらなきゃ!」
すくむ足を奮い立たせ、まほはその怪物に向かってステッキを構える。
先に動いたのは亀の怪物だった。
背中の樹木から複数の木の枝が伸び、まほに襲いかかる。
「ほ、炎の魔法!! 火球3連! 5連!!」
襲い来る木の枝に対し、複数の火球を飛ばす。
複数の木の枝は炎によって燃え尽きる。
「やったー! 今の内にとトドメを・・・。」
しかし、その願いは打ち砕かれる。
すぐに再生し、次の木の枝が襲いかかってきたのだ。
「そ、そんな・・・。」
次々と襲い来る木の枝に対し、まほは火球を飛ばし対抗した。
「うううっ・・・。な、なら、これならどうかな? 炎の魔法・・・の壁!!」
まほがステッキを振ると、前方に大きな炎の壁が出現する。
その壁は木の枝の攻撃を防ぎと同時に燃やしていた。
「今度こそ!」
まほはステッキを天高く掲げる。
「炎の魔法! 特大の~~~。」
先ほど放った特大の火球を放つ準備をする。
しかし・・・
プスンッ!
ステッキの先端から炎の火球が出ることはなかった。
代わりに出たのはガスのみ。
「え!? こんなときに魔力切れ!? なんで~!?」
そのステッキは度重なる魔法により、多くの魔力を消費していた。
幾度も放った火球は、大きくなればなるほど、雪だるま式に魔力の消費が大きくなる燃費の悪い魔法である。
特に、変異前のモンスターに放った特大の火球は、多くの魔力を消費していた。
しかし、そんな燃費の悪い魔法でもあと数発は放てたはずである。
では原因は何なのか?
「あっ! あのときの魔法・・・。」
まほは何かに思い当たる。
空をとぶ魔法や身体強化の魔法は、魔力消費少ない魔法であり除外される。
炎の魔法でもないとすれば・・・。
「じょ、除菌・消臭の魔法・・・。」
そう、まさかの最初に放った“除菌・消臭の魔法”である。
自分の周囲、広くても屋上内の範囲であれば問題はなかった。
しかし、半分パニック状態のまほが放ったその魔法は、直径にして100kmほどの広大な面積に対して発動させていた。
一つの地域をまるまるカバーできるその魔法は、まさに大魔法である。
大量の魔力を消費するのは必然であった。
「うああぁ! どうしよう・・・。」
まほのステッキの魔力は、時間経過で徐々に回復する。
しかし、回復した魔力もすぐに敵への応戦に消費している。
そのため大きな魔法を封じられたも同然だった。
「どうして・・・。どうしてこんなことになっちゃったんだろ・・・。もう、ダメ・・・なのかな・・・。」
まほは絶望する。
魔力も徐々に回復が追いつかなくなってきている。
この状況を切り抜ける策も思いつかない。
このままでは、やられるのは時間の問題だった。
まさに詰みの状態である。
そんなまほへ、無慈悲な最後の一撃が加えられる。
まほの魔法の隙間をかいくぐり、木の枝がまほの腹部へと襲いかかった。
とっさにステッキを盾に防御をしたものの、その強い力に吹き飛ばされ、まほは地面にたたきつけられる。
「ふぎぃっ! ぐっ! あぐ・・・。」
まほは起き上がろうとするが、心が拒絶し起き上がることができない。
まほの意識は遠のき、脳内に走馬灯が流れ始める。
(みんなにまた会いたいよ・・・。誰か・・・助けて・・・。)
最早、打つ手なし。
まほの心は諦め、その時を待つ。
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
しかし、それは唐突にやってきた。
バンッ!
異空間に絶望を打ち砕く希望の音が響き渡る。
それは勢いよく、屋上の扉が開かれる音であった。
そして・・・。
「本当にここなの? あっ! まほ! やっぱりあなた魔法少女だったのね!
ほら、ほら、私の言ったとおりよ! って、ちょっとまほ大丈夫!? そして、ここどこ!?」
希望の音を聞き、意識を取り戻したまほ。
そして、明るい声で屋上に入ってきた人物に驚く。
「え!? るり・・・ちゃん? どうしてここへ?」
そう、声の主は“来葉るり”、ここへ来るはずのない人物にまほは困惑する。
「お嬢様ー! 先に入られては危ないですぞ!」
「本当にいたんだな・・・。魔法少女。」
「ちょっとフォスター。信じてなかったの? まあ、私も半信半疑だったけどね。」
続いて、るりの執事たちもバタバタと屋上へと入ってきた。
るりはまほに駆け寄る。
「理由はあと! 大丈夫? 立てるかしら?」
「う、うん。大丈夫・・・。るりちゃん・・・。怖かったよー。うわぁぁぁん。」
まほは張り詰めていた緊張の糸が切れ、るりの胸の中で泣きじゃくった。
「えっ!? ちょっ!? ほ、本当に大丈夫?」
予想外のまほの行動にるりは困惑した。
「も~。魔法少女がこんなところで泣いちゃダメじゃない。それに、あれ、あのキモイの! 敵なんでしょ? さっさと倒しましょ!」
「ひぐっ・・・あっ・・・。う、うん、そうだね。うん! 倒さなきゃ!
あのモンスターをこのままにはしておけない!!」
思いっきり泣いたまほは、立ち直り、少し元気が湧いてきた。
モンスターは、るりの登場に対し警戒し、様子を見ているようだ。
しかし、いつ攻撃を再開してくるか分からない。
まほは立ち上がり、ステッキをモンスターに向けて構えた。
「少し休んで魔力も回復できた! でも、撃てる大きな魔法はあと一発が限界!
確実に当てられるタイミングを見つけて撃たないと・・・。」
「私も少し手伝いますわ!」
「え!? るりちゃんも戦えるの!?」
まほは驚く。
もしかして、るりちゃんも魔法少女?
そんな考えがまほの頭をよぎる。
「ふふふっ! この日のために準備した秘策がありますわ!
爺! フォスター! メリッサ! あれをやるわよ!」
「はっ! かしこまりました! お嬢様!」
「え!? あ、あれ本当にやるのか?」
「お嬢様の命令よ! さっさと準備しなさい!」
るりの号令に三者三様の反応を見せる執事たち。
こうして、まほ、るり、そしてるりの執事たちによるモンスター討伐の戦いが始まった。
オール戦闘パートです。
上手く描けているといいのですが・・・。