第3話モンスター侵入
昼休み、るりの席の周りには黒山の人だかりができていた。
転校生“来葉るり”へ興味を示す者達である。
超お嬢様ということもあり、午前中は遠くから様子を伺うだけであった彼らだが、
まほ達と親しげに話す様子を見て、警戒を解いたようである。
彼らの質問攻めに対し、るりは上手く流しているようであった。
「では、そろそろ・・・。」
るりは一通りの質問に答えるとまほ達へと視線を送る。
視線に気づいたまほは弁当箱を取り出す。
「あ、るりちゃん! じゃあ、時計塔の広場行こ!」
「そうね、そろそろ行きましょう!」
「おっと! 質問攻め終わりだね! あたしも弁当準備しよっ!」
こうして、まほとるり、そしてゆうなの3人は時計塔の広場へと向かった。
時計塔の広場に到着すると、3人は近くのベンチへと向かった。
「ほい、到着っと! まほっちは今日どんな弁当持ってきたの? あと、るりるりの弁当も気になるかも!
もしかしてお約束の重箱?」
ゆうなは自分の弁当を取り出しつつ、二人の弁当の様子を覗いた。
学生食堂でパンなどを買うことも出来るのだが、3人は弁当を持ってきていた。
まほはピンク色の弁当箱で、中身はシンプルでありながらも、可愛らしい内容であった。
一方のるりはというと・・・
「わ、私だって普通の弁当箱よ! 重箱はさすがに食べきれないわ!」
るりは、高級感のある黒い弁当箱に、中身も高級そうな内容であった。
但し、重箱ではなかったようだ。
ちなみに、ゆうなの弁当箱の中身は、なかなかに凝ったキャラ弁であった。
「そっかちょっと残念・・・。」
「残念って・・・。んっ? あれ? あのゆきと・・・だっけ? あいつは来てないの?」
「うん。ゆきと君は学食派だから。」
ゆきとは、ほぼ毎日学食である。
たまに時計塔の広場で取ることもあるのだが、その時は学食でパンを調達する。
「ゆきとも弁当にすればいいのにね。そうだ! まほっちがゆきとに愛妻弁当作ってあげたら?」
「あ、愛妻弁当って! ゆ、ゆきと君とはそんな関係じゃないよ~!」
ゆうなの提案に慌てながらも即否定するまほ。
「えっ? そうなの? てっきりまほが、あいつと付き合っているのかと思ってたけど?」
るりは不思議そうな顔で、まほへと疑問を投げかける。
「ゆ、ゆきと君とはただの幼馴染で・・・。」
「まほっちもだけど、ゆきとも鈍感そうだからねー。」
「ふ~ん・・・。そういう関係なのね~。」
必死に弁解するまほであったが、ゆうなにその言葉を遮られる。
そして、ゆうなとるりはにこやかな笑顔でまほを見つめた。
「あっ! るりちゃんまで・・・。む~・・・。」
それを見てまほは軽くほほを膨らませる。
「ごめん!ごめん! あははっ!冗談! まほっちをちょっとからかっただけだって!」
「も~・・・。二人してからかって! それより、ゆうなちゃんとるりちゃんは誰かいないの? 好きな人!」
まほは、ゆうなとるりへ反転攻勢に打って出た。
「あたしはいないかな~。」
「私もいないわね!」
しかし、二人はさらりとその攻撃を受け流す。
そこで、まほはゆうなへの集中攻撃を試みる。
「え~そうなのか~。って、あれ? ゆうなちゃんは先週、ふもとの商店街で男の人と一緒にいなかった?」
「あ~・・・。もしかして、あたしの兄かな? この前買い物に付き合ってもらったの。荷物持ちとして!」
「ふ~ん・・・。ゆうなはお兄さんがいるのね。まほも誰か兄弟か姉妹がいるの?」
「私は下に弟がいるよ。」
「まほっちの弟さん優秀だよね~。毎日まほっちのこと起こしているだっけ?」
「な、なんでそれを知ってるの・・・。さてはおとの奴喋ったな・・・。」
ゆうなへの集中攻撃を試みたまほであったが、思わぬところかから反撃を受けてしまった。
ちなみに“有芽知おと”は、まほの弟である。
毎朝早く起き、姉であるまほを起こし、登校しているようである。
「るりちゃんは兄弟とかいないの?」
「私はいないわね。」
「へ~。そうなんだ。」
「ってことは、るりるりは一人っ子か~。」
るりの返答に、まほとゆうなはそれぞれ相槌を打つ。
「そういうことになるわね。ただ、兄のような人はいるわよ。」
「兄のようなってことはホントの兄弟じゃないってこと?」
るりの発言に食いつくゆうな。
まほも興味津々のようで、るりの方を見つめている。
「そうね。私の執事の一人なんだけど歳も近いこともあって兄代わりのような存在なのよ。今は都心部の本邸にいるわ。そのうち、こっちに呼んじゃおうかしら?」
「るりるりの兄代わりの執事か~・・・。どんな人かちょっときになるかも!」
「私も会ってみたい! るりちゃんの兄代わりってくらいだからすごい人なのかな?」
まほとゆうなの期待を寄せる眼差しに、るりは慌てふためく。
「べ、別に普通よ! 普通! 普通の執事よ!」
るりは必死に“普通”をアピールしたが、執事の時点で普通じゃないよね、と思うまほとゆうなであった。
「それにしても、ここの時計塔ものすごく高いわね・・・。」
るりは時計塔の方向を向きそう呟いた。
「う~ん・・・。たしか100m以上はあったと思う。」
「そういえば、るりちゃんはこの塔の近くに来るのは初めてだよね。」
「そうね。この学園に来る途中で少し見ただけだわ。」
時計塔を眺めるるりに対し、ゆうなが塔の説明をしてくれた。
「何でもこの時計塔を作った人が、ものすごい変わり者らしいのよ。内部はかなり複雑で迷宮みたいになっているって噂よ。まあ、てっぺんまでは外周から登れるんだけどね。」
「ふ~ん。ずいぶん怪しい塔なのね・・・。」
「そうそう。ゆうなちゃんの言うとおり、内部が迷宮みたいになっているから入り口は立入禁止になっているみたい。前に探索しようとした人がいてそのまま行方不明になったとかで・・・。」
「ふ~ん。(そのうち爺達に頼んでこっそり探索してみようかしら・・・。)」
ゆうなとまほの説明を聞き、るりはにやりとする。
「あっ!るりちゃん入っちゃだめだよ?」
「は、入らないわよ!(うっ!探索しようとしたのばれた!?)」
心の中をまほに見透かされたようで、ドキッとする、るりであった。
そして、るりは塔の方を残念そうに眺める。
そんな話をいくつも話していたが、時刻は間もなく昼休みが終わるところであった。
「あっ! るりちゃん!ゆうなちゃん! そろそろ昼休み終わっちゃうよ! 教室戻ろっ!」
「そうだね~。そろそろ戻ろっか!」
「あら? もうこんな時間なのね・・・。」
こうして、昼食を終え、教室へと3人は戻った。
なお、学食でのゆきとの早食い勝負は連敗記録を更新した模様。
午後の授業が始まった。
授業は何事も無く進み、そしてそれは、いつも通りに終わるはずであった。
しかし、とあるベルの音がその事件の始まりを告げる。
ピリリリリッ!!
突如教室中に鳴り響くベルの音。
先生はその音の方角を見る。
まほだ。
その音にまほ自身も慌てていた。
「ちょっと、まほさん? 授業中は携帯の音切っておきなさい!」
「は、はい! すいません! あ、あと私、ちょっと御手洗いに行ってきます!」
「あら、そう? 行ってきなさい。」
「は、はい!」
そして、まほは、慌てて教室を飛び出した。
学園の中を疾走するまほ。
しかし、その方角は御手洗いではなかった。
先程のベルの音は、携帯電話の音ではなく、携帯電話に擬態させた魔法のステッキからの音である。
その音は、まほを襲う謎のモンスターの出現を知らせる音である。
学園内にモンスターが侵入したようだ。
「危険探知の魔法!」
まほがそう唱えると、まほの視界に、カラフルで大小様々な矢印が複数出現する。
この魔法は、まほへの大小様々な脅威の方角を、矢印として指し示す効果がある。
矢印は様々な方角を指し示しているが、その中で一際大きく赤い矢印があった。
その矢印は屋上を指し示している。
「屋上か~・・・。んっ? 壁にも矢印があるな~。」
壁の方を見る。
矢印は小さく、色は黄色、壁の中を指し示していた。
その矢印はゆっくりと動いていた。
「ん~。こっちは小さめだから大丈夫かな?先に大きい矢印の方行こ!」
そう言うと、壁の方は気にせず、まほは屋上へと走り出した。
屋上の扉の前に到着したまほは、周囲を見渡す。
そして・・・。
(よし、誰もいない! 変身!! 光おさえめで!)
心の中でそう叫ぶと、まほは淡い光に包まれた。
朝に変身したときより光は、おさえめだ。
光が収まると、そこには、桜色のワンピースのようなコスチュームを纏った“魔法少女まほ”の姿があった。
右手に月を模したシンボルが付いた魔法のステッキを握りしめている。
(変身完了! 行くぞ~! おー!)
まほは、屋上の扉を開けた。
扉を開けると、まほは、周囲を見渡した。
しかしそこは屋上ではなく、屋上を模した異空間になっていた。
空は赤黒い雲で覆われ、遠くの景色は暗い森が広がっていた。
そして、屋上である場所から下は真っ暗で底が見えなかった。
さらに、屋上の中央には、怪しげな大きな花のつぼみが生えていた。
「えっ!? なにこれ!?」
まほは、驚きを隠せないでいた。
なぜなら、まほが今まで出会ったモンスターは、こんな異空間を作ることはなかったからだ。
その出会ったモンスターも見た目は動物のような姿をしていた。
もっとも、逆立ちして剣を足で振り回す犬や二足歩行で棍棒を振り回す猪、空から石を投げつける烏など、おかしな動物ばかりではあったが・・・。
しかし今、目の前の状況は、それとは比較にならないほどありえない状況であった。
「こ、これはいつものと違う・・・。もしかして非常にまずい状況? どうしよう・・・。」
まほはその状況に困惑した。
しかし、困惑しつつも冷静に怪しげな花のつぼみの方に視線を向けた。
「と、とりあえず、あの花のつぼみがこの状況の原因かな? あれを倒せば元に戻るはず! ・・・たぶん。」
まほは魔法のステッキを構える。
その直後、中央の花に異変が生じる。
ピシッ! ピキキッ! パシュッ!
屋上中央に生えていた花のつぼみが開いたのだ。
中からは老人のような姿の者が出てきた。
薄汚れた黒い衣を纏っており、背は小さく、腰は曲がっている。
フードで覆われており、その表情が見えない。
右手にはランタンのようなものを持っている。
「え!? 中から人が出てきた!? あの人は一体・・・ふぐっ・・・・!」
突如、まほに向かって、醜悪な匂いが襲い掛かる。
「げほっげほっ・・・うぐっ・・・! 何、この匂い・・・!」
つぼみから出てきた存在に驚いていたまほは、その悪臭に激しく咳き込む。
「しょ、消臭と除菌の魔法!!! ・・・げほっげほっ。」
まほは少しパニックになりつつも、魔法のステッキを空に掲げ、周囲の空気を清浄にする魔法を必死に発動させた。
魔法のステッキからキラキラした霧状のものが噴き出した。
その霧は周囲を清め、悪臭を取り去った。
ちなみにこの魔法には使用者の周囲及び体内のウィルスや毒を取り除く効果もあるのだが、今回はその効果を発揮することはなかった。
「ふぅ~。もう~・・・。なんなのあれー・・・。」
少し涙目になりつつ悪態をついた。
もう一度花から出てきた老人を見る。
老人は下を向きながら、ランタンをゆっくりと左右に振っている。
「と、とりあえず話しかけてみようかな? あ、あの~・・・。」
まほが話しかけると、老人はランタンを振る動きを止めて、まほの方を向いた。
そして、ランタンをまほの方へと向ける。
「えっ?」
そう思ったのもつかの間、次の瞬間!
ピシッ! ピシッ! バシュッ!
老人の周囲の地面から2本の木の枝が生え、そしてツルのようにしなり、まほへと襲い掛かってきた。
「うわっ!」
まほはその場を飛び退く。
バコンッ!
まほが元いた場所の地面に、小さな穴が空く。
「ひっ!」
まほは少し恐怖した。
そして、恐る恐る老人の方を見る。
老人はランタンを右から左へと振っているところであった。
ヒュッ! ビシッ!!
「ふぎぃっ!」
気づいた時には遅く、まほは左から襲い来る木の枝を鞭のように受けてしまった。
まほはその攻撃を受け、地面を転げまわった。
「うううっ・・・痛い・・・。」
変身したことにより身体能力が強化されているとはいえ、強力な攻撃だったため激しい痛みがまほの全身を襲った。
もう一度老人の方を見る。
僅かに見える老人の手足は所々小さな葉っぱが生えており、木で出来ていた。
それは、老人の姿をした木のモンスターだった。
「あ、あれは敵だね・・・。痛っ・・・。倒さなきゃ! あれが外に出たらもっと大変なことになる!」
痛みをこらえながらまほは立ち上がった。
そして、魔法のステッキを構える。
こうして、まほは、初めて出会う強大なモンスターとの戦闘を開始した。
前半はほのぼのとガールズトーク、後半はようやく戦闘パート開始。
次回はオール戦闘パートです。