第2話パーフェクトお嬢様?
「そこの“有芽知まほ”さん! 私と付き合いなさい!」
転校生、“来葉るり”による衝撃の発言は、教室中をどよめかせた。
そして、教室の反応を見て、自らの意図と違うその意味に気づいたるりは、
まほへと指を指し示したまま、顔を赤らめた。
「ち、違っ、そういう意味ではなくて!」
(あぁ~・・・やってしまいましたわ。彼女に近づくためと焦ってしまったのが原因ね。
ま、まずはこの場をどうにかしないと・・・。)
その頃、一方のまほも同じく動揺、そして困惑していた。
(どどど、どうしよう・・・!? あれってあれだよね!? その、こ、こく・・・。)
「はいみんなー、しーずーかーにー。え~と・・・。るりちゃんは、まほちゃんの後ろの席ね。」
どよめく教室の空気を一閃、先生がその場を強引に静めた。
「あ、あの・・・。はい・・・。」
るりは何かを言おうとしたが、先生に促され自分の席へと座った。
そして次の瞬間・・・
ガタガタ・・・ガタッ!
天井から何かの物音が鳴った。
「あれ? 今、天井から何か音しなかったか?」
「気のせいじゃね?」
「そうか~? まあいいや。上の教室で何かしてるのかもな。」
その音に生徒たちは特に気にすることなく、本日最初の授業が始まった。
なお、るりとまほはうなだれ、授業が耳に入ってなかったようだ。
教室の天井裏にて一人の老人と一組の若い男女がひそひそと会話をしていた。
「お嬢様ー! あぁ~・・・。なんと言うことじゃ! ここは私がお助けに行かねば!」
「だ、だめです! 落ち着いてください! ハワード爺さん!」
「フォスターの言うとおりよ。お嬢様には一人でするから邪魔しないでって言われていたでしょ!」
「え~い! 離せ!離すのじゃ! フォスター! メリッサ!」
そう、るりの執事たちである。
黒い高級車にて、るりといっしょにいた白髪の執事の名はハワード。
そして、それに付き添う金髪碧眼の美男美女の名はそれぞれフォスターとメリッサ。
全身真っ黒の黒子衣装を着ている。
執事たちは、先週の校舎建て替えの際に設置した隠し通路や隠し扉等を使い、
まほたちの教室の様子を天井からこっそり覗いていた。
そして現在、今にも教室へと突入しそうな勢いのハワードをフォスターとメリッサが引き止めていた。
ハワードの力は老人とは思えないほど強く、フォスターとメリッサの二人がかりでやっとであった。
「俺たちがあの場に行ってもさらに場が混乱するだけです!
メリッサ! ここはハワード爺さんを連れて、一旦この場を離れるぞ!」
「は、はい! 行きましょう!ハワードさん!」
「ま、待ってくれ! 少しだけ! 少しだけでいいんじゃ! お嬢様~~~!」
必死にハワードをなだめるフォスターとメリッサであった。
しかし、そろそろ生徒たちに気づかれそうだと考え、この場を離れること決断した。
こうして、天井から教室の様子を除いていた3人だったが、一旦この場を離れることとなった。
最初の授業が終わり、教室にて頭を抱えて座る人物が二人。
まほとるりである。
(あぁ~・・・。あれほど爺に言われていたのに・・・。)
そう呟くるり、そして、かたやまほはというと、
(ど、ど、どうしよう!?あ、あれって告白だよね?で、でも
女の子同士だし・・・)
そんな二人を眺め、あきれかえるゆきととゆうな。
「おい、おい、そんな悩むことかよ・・・。」
「そう、そう。普通に友達として付き合えばいいんじゃない?」
頭を抱える並ぶ二人に対し、ゆきととゆうなはそう助け舟を差し出す。
その言葉を聞き、るりが顔を上げる。
「そ、そう! 友達! あ、有芽知さん! 私と友達になりましょう!」
「う、うん。友達なら・・・! よろしくね、来葉ちゃん! それと私のことはまほでいいよ。」
「ふふっ。こちらこそよろしく! では、あなたのことをそう呼ぶことにさせてもらうわ!
あと私も“るり”でいいわよ。」
「うん、これから“るりちゃん”って呼ぶね。」
そんな二人を眺め、一仕事終えた感を味わうゆきととゆうなであった。
小休憩が終わり、時刻は2時限目となった。
最初の授業では本調子を出せずにいたるりだったが、2時限目の授業からはその実力遺憾なく発揮した。
頭脳明晰が集まるとされる中央一来(正式名:私立中央第一来葉学園)からの転入は伊達ではなく、
授業中は先生に授業内容について討論するほどであった。
「さ、さすがね・・・」
「俺には何が何だかさっぱりでついていけねぇ~・・・」
「パーフェクトお嬢様!? パーフェクトお嬢様ってやつなのか!?」
等々、そんな声が教室中に飛び交った。
そう、どの授業もそつなくこなす、るりであった。
唯一つを除いて・・・。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・ふぐぅ。」
学園のグラウンドにてぐったりしながら走る、青い髪の少女。
るりである。
「るりちゃんがんばってー!」
「あのお嬢様。運動だけはは苦手だったんだな・・・。」
「ほんとに・・・。てっきり運動も得意なのかと思ってたよ。」
まほ、ゆきと、ゆうなの3人はるりを眺め、驚きを隠せなかった。
勉強はどの教科も天才的な才能を発揮していたるりだったが、運動だけは苦手だったようである。
そして、しばらく眺めていた3人だったが・・・
「あっ! 茂みから誰か出て来たぞ?なんだあれ?」
「え? あ! ホントだ! るりるりと話してるね。」
「るりちゃんの知り合いかな?」
るりへと走りよる白髪の老人と複数の黒服の男たち。
そして、それを追う一組の若い男女。
そう、るりの執事たちである。
「お、お嬢さま! 大丈夫でございますか!?」
「我らがお助けしますぞ!」
執事ハワードの発言に対し、複数の黒服の男たちが賛同する。
「ま、待って! だめだってハワード爺さん!」
「あなたたちまで一緒になって・・・。」
ハワード爺の暴走をフォスターとメリッサは止められなかったようだ。
さらに、ハワード爺はどこからか援軍として黒服の男たちを呼び寄せたようだ。
ハワードだけでも二人がかりであったフォスターとメリッサにとって、
ハワードの援軍の登場には為す術がなかった。
「ちょ、どっから湧いてきたのよ! そして、何を助けるのよ! 私は大丈夫だからさっさとどっか行って!」
突然の登場にるりも困惑している様子であった。
「で、ですが・・・。」
「ほら、るりお嬢様も困惑しているじゃない!」
「そうですよ~・・・。」
ハワードは何かを言いかけるが、フォスターとメリッサにその言葉を遮られる。
そして、何かしたいと訴えるハワード爺に対し、るりは鋭い眼光で睨みつけた。
「っ・・・! 分かりました。しかし、もしものときはすぐに駆けつけますので・・・。」
「いいから早く! 行って!」
「ほら、やっぱり怒られたじゃないか・・・。」
「ごめんなさいね。るりお嬢様。では私たちはこれで・・・。」
ハワードはうなだれつつもるりに促されその場を離れた。
フォスターとメリッサ、そしてハワードの援軍もそれに続いて立ち去った。
そして執事たちが立ち去ったの確認し、るりは深い溜息をついた。
「な、なんかすごいな・・・。」
「さすがお嬢様ね・・・。」
「う、うん。そうだね・・・。」
まほたち三人はそれを眺め呆気にとられていた。
「そういえば、まほも運動はあまり得意でないよな?」
「うん。私も運動は苦手かな・・・。運動得意なゆきと君とゆうなちゃんが羨ましいよ。」
「そうかな~。あたしも普通くらいだよ?」
「おい、おい、普通くらいって・・・。おまえ、陸上部だろ?」
「陸上部だけどあたしは真ん中くらいだよ?」
「初等部から高等部までいっしょになってる部活で真ん中なら十分早いほうだろ・・・。」
「あははっ! そ、そうなのかな?まあ、そんなことより昼食! そう昼食!
今日時計塔の広場で食べない? るりるり誘ってさ!」
「あ・・・。誤魔化したな・・・。」
ゆきとの突っ込みを華麗に回避し、ゆうなは話題を強引に変えた。
この学園で生徒たちの昼食は、学食か弁当である。
食べる場所は学生食堂か教室、そして晴れた日には近くの時計塔広場で取ることが多い。
今日は晴れなので、ゆうなは近くの時計塔広場を食事の場としてみんなに提案した。
「んー・・・。俺はパス。今日はあのメガネ魔王と早食い勝負があるからな!
まほとあのお嬢様と3人で行ってこいよ。」
「そっかー残念・・・。じゃあ、まほっち! 3人で行こっか!」
「う、うん。そうだね。るりちゃんは戻って来たら誘おう!ゆきと君も勝負頑張ってね。」
「おう!今日こそ勝つ!」
「今日こそ勝つって今、100戦100敗だっけ?」
「うるせー、ゆうな! まだ87戦87敗だ! あのメガネ魔王め・・・。
細い体のどこにあれだけ入るんだよ・・・。」
「まあ、完敗しない程度に頑張れ~・・・。」
「くっ・・・!」
ゆうなの冷ややかな応援に対し、ゆきとは悪態をついた。
「あっ! るりちゃん戻って来たよ!」
見るとふらふらになりながらこちらへと戻るるりの姿がそこにあった。
「もうダメ・・・。私はここまでですわ・・・。あとは任せたわ、ぐふっ・・・。」
るりは、まほたちのところに着くなり倒れこむ仕草をする。
「だ、大丈夫? るりちゃん・・・。」
「まさに戦士の帰還って感じね・・・。」
「って! たった50mの短距離走っただけだろ!?」
「私にとっては50mでも長距離ですわ!
それに、爺たちの乱入のせいでタイムもう一回測り直すことになってしまったのよ! 散々ですわ!」
むくりと起き上がり3人へ爺たちの不満をぶちまけるるり。
そう、50m走のタイムを測ってたのだが、途中爺たちの乱入もあり、るりは追加でもう一回走っていた。
なお、タイムは残念な結果だった模様・・・。
「あはは・・・。そ、それはご愁傷様・・・。」
「るりちゃん、測り直しだったんだ・・・。」
「その割にはずいぶん元気に見えるけどな!」
「爺たちは過保護すぎますわ! いつまでも子供ではなくてよ!はぁ・・・。」
るりは軽くため息をつく。
それを見て、まほ、ゆうな、ゆきとの三人は、るりを慰めた。
「お嬢様ならではの悩みね・・・。」
「まあ、俺も頑張れとしかいいようがないな。」
「る、るりちゃんファイト~・・・。あっ! そうだ、るりちゃん! 今日の昼休みなんだけど・・・」
こうしてどたばたした午前の授業は終わり、時刻は昼休みとなった。
学園周辺とある場所にて、先ほどの執事たちが集まっていた。
るりに促され、立ち去ったあとも、しばらく、るりたちを遠くから眺めていた。
しかし今は他の者たちにるりの護衛を任せ、休憩を兼ねてのミーティングを行っているところである。
「るりお嬢様さっそく友達を作られたようですね。」
「そうだな。まずは安心、といったところかな。って、まだ落ち込んでるんですかハワード爺さん!」
「ち、違うのじゃ! お嬢様立派になられて・・・! 私は感激しましたぞ!」
そういうと、ハワードは懐よりハンカチを取り出し涙ぐむ。
フォスターとメリッサはやれやれっといった表情だ。
「情緒の激しい爺さんだな・・・。」
「ハワードさんはお嬢様のことをとても大切に思ってますからね・・・。
それより、フォスター? るりお嬢様がこちらへ来られた目的ってあれよね?」
「だな。あれだな。でも、あの少女、本当に魔法少女なのか? そうはみえないが・・・。
そもそも魔法少女なんて本当にいるのか?」
「私も確証はないけど、あの写真と、あとその後の調査結果を見る限り、何かはあると思うわ。
それに何より、お嬢様が信じているようですので・・・。」
「だな。なにはともあれ、あの少女には近づけたようだし、そのうち何か確信できる証拠を見せるかもな。」
「そうね! 私たちもそれぞれ監視を続けましょ!」
「おう!」
「わ、私はお嬢様の周辺を警護しますぞ?」
「爺さん・・・。まあいいですが、くれぐれも出すぎないでくださいね?」
「うむ。任せるのじゃ!」
「心配ね・・・。」
「心配だ・・・。」
こうして執事たちは会話を終え、それぞれ自分たちの持ち場へと走り去っていった。